第26話 田中さんが残してくれたもの

「魔力はどのくらいあれ魔法を使えるのでしょうか?」


「薪に火をつけるくらいなら5もあれば充分なんじゃないかな? 鼻歌をしながら薪に火をつけてたから」


 オレはライター使ってたし、細かいことはわからない。慣れたらそんなもんなんじゃないかな?


「そんなものなのですか?」


「最初はかなり消費して、それから熟練度を上げていく感じだね。そこは剣や槍の訓練と同じ。反復練習で魔力消費が抑えられてくる感じだね」


 オレは基本、剣や弓を使っていたので、攻撃魔法系は大して持ってない。魔力弾が効率いいからな。


「魔法も才能だからね、凡人がどこまでがんばろうと凡人の域は出ないよ。趣味でやるなら止めないけど、本格的にやることはお勧めしないかな」


 魔力は増えて欲しいが、だからと言って人生を棒に振るようなことは言えない。話が違うじゃないか! とか言われても困るし。


「……才能か……」


 失念していた、って顔だな。まあ、無理もないか。魔法が使えるかもと思っちゃったんだもね~。わかるよ。オレもそうだったから。


「まあ、凡人でもある程度までは成長するし、血を重ねたらどんどん増えていくんじゃない? 田中さんは、女神によって与えられた能力。こうして何代も過ぎているのにこうして魔法の才が受け継がれている。その才能は強固なものなはずだよ」


 オレも考えなくちゃならないな。下手に子孫を残すと争いの火種になりそうだ。


「よくよく考えてね。魔法を得たことで起こる様々なことを……」


 この世界には駆除員の転生者がいる。与えられた能力は千差万別でも魔法を使える体には変えられているはず。なら、魔法を使って悪さをするヤツも出てくる。田中一族からだって出るかもしれない。そのときどうするかも考えていたほうがいいだろうよ。


「……肝に命じておこう……」


「うん。そうしたほうがいいよ」


 理解ある人でなによりだ。


「失礼します。食事の用意ができました」


「お、それはいいね。ぼくもお腹空いたよ」


 半分くらい使ったから早めにエネルギー補給しておかないと。それに、ケンタウロスの料理がどんなものか気になるぅ~。


「そうですか。では、たくさん食べてください。マルテクス料理をご用意致しましたので」


 先ほどの部屋に向かうと、たくさんの料理がマットの上に並べられていた。おー! スゲー!


 田中さんがいただけに料理が華やかだ。お、おにぎりがある! しかも焼き味噌おにぎりじゃん! この世界が一気に好きになったよ!


「唐揚げもあるんだ」


 てか、ケンタウロスって肉食うんだ。草食系のイメージでいたよ。 


 馴染みのある料理はそれくらいだが、米があるだけで未来に希望が見えてきた。これなら醤油もあるはずじゃん! みりんも酒もあるってことじゃん!


「……夢のようだ……」


「さあ、遠慮なく食べてください。足りなければもっと出しますので」


 おー田中様。あなたの働きに感謝です。よくこんな偉大なものを残してくれました。このご恩は子孫たちに返しておきますね。


「ありがとう!」


 勧められた席に座り、焼き味噌おにぎりをつかんだ。


「……何年振りだろう、この匂いは……」


 実際はそう長い年月ではないんだろうが、ゴブリン駆除が短くも長い日々だった。創造魔法で食べ物を出したときもある。でも、なにか足りなかった。食べても美味いとも感じなかった。


 それがなんなのか、今、わかった。それは手作りでたるかそうでないかなのだ。


 誰かの手で一つ一つ握られ、七輪かなにかでじっくり焼いただろう。その工程を思い浮かべるだけで涙が溢れてくる。


「……美味しい……」


 焼き味噌おにぎりにかぶりつき、ゆっくりと咀嚼する。


 口いっぱいに広がる香ばしい焼き味噌の暴力。今、こうして生の喜びを知るオレ。世界が美しく見えてきたよ……。


「泣くほどか?」


 ラウルが心底呆れている。


「魂が求めていた故郷の味。今泣かなくていつ泣けという。今でしょう!」


 あ、これナイスなフレーズじゃない? 流行語狙えるかも? って、この世界にいたんじゃ無理か……。


「田中一族は料理が上手だね。お店開けるレベルだ」


 てか、舌は人間とそう変わらないのが不思議だよな。あの体格ならもっと濃い味を好みそうなのに。


「初代様も食には多大なる時間をかけたと聞いております」


「その気持ち、よくわかるよ。ぼくも料理には時間をかけてでも美味しいものを作ろうとしてたからね。対価は出すので、どんな料理があるか教えてください」


 時間が短縮できるのならいくらでも出すさ。


「はい。エクラカ様とは長い付き合いになりそうですからな。料理でよければうちの者を派遣しましょう。マチエ、エクラカ様に料理を教えてやってくれ」


 イチノスケさんが向いたほうに、見た目、四十過ぎくらいに見える女性がいた。ザ・ベテランって感じだ。


「はい。わかりました」


 あっさり承諾するマチエさん。


「マチエはルガルに十年以上住んでおります。大抵の食材は把握しているのでエクラカ様を満足させられるでしょう」


 十年以上、ね。ルガルの町に配置されたスパイ、って感じかな?


 まあ、マチエさんがなんでもいっか。そのくらい容認できる。こちらも情報を得られる人材ゲットなしたようなもんなんだから。


「マチエさん、よろしくね」


「はい。こちらこそよろしくお願い致します」

 

 ベテラン料理人ゲットだぜ!

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