第22話 田中一族

「……タナカ一族か。来ているとはウワサに聞いてたが、お前と接触するとはな。神のお導きか?」


「偶然だよ。あのクソ女はこちらのことなんて駒にしか思ってないさ」


「女神に暴言か」


「普通の生活を送っていたところを急に連れ去られて殺し合いをさせられる。それでも必死に生き、愛する人や仲間を得たのに、結果、これさ。暴言でも優しいくらいだ」


 できることなら剣で斬り刻んでやりたいよ。暴言で許されていることを感謝するんだな。


「……そうか。地が出ているぞ」


 おっと。怒りで我を失っていたよ。ひっひっふー。


「で、田中一族は有名なの?」


「そうだな。ケンタウロス、マルステク王国でも一、二を争う一族だな。イチノスケ、って名前には心当たりはないが、ログブレン家は田中十二家の一つだ」


 田中一族も一つじゃないんだ。ってことは、田中さんはもうこの世にはいないのかもしれんな。一代で十二家も築けるわけはない。百年とか余裕で過ぎてそうだ。


「マルステク王国って遠いの?」


「ケンタウロスの足で一月はかかると聞いたことがある」


「一月か。かなり遠いね。千キロ以上離れてそうだ」


 馬の下半身を持っているから一日四十キロ歩けるだろうから千キロ以上ってことになるはずだ。


「そんなに離れているのにここまで来るんだ」


「ジ帝国の品はマルステク王国で人気のそうだからな。アーカラスにもケンタウロスはいたろう」


 あーいたな。なんでいんだろうと思っていたら買いつけに来てたんだ。


「ジ帝国の絹は有名だし、香辛料も豊富だ。製鉄技術もある。ケンタウロスでは作れないものが多くある。結構な数が来ているぞ」


 よくよく思い出してみると、確かに結構な数がいたな。そんなに過酷な地なのか? モンゴルみたいな草原とかか?


「田中一族とは仲良くしていたほうがいい?」


「そうだな。マルステク王国は一大穀倉地帯だ。ケンタウロスの他に人間も住んでいる。国としては大きい。ハーマラン教国としても無視はできん相手だ」


「灰竜族としてはどうなの?」


「うーん。微妙だな。灰竜族はジ帝国から麦を運ぶのを主にしている。マルステク王国から運ばれて来るものは別の一族が捌いている。繋があるならそれでいいし、ないのならなくても構わない存在だ」


 なるほど。確かに微妙だな。


「お前はどうなんだ? タナカ一族と繋がりたいのか?」


「田中さんが生きているなら繋がりだかったけど、生きていないのなら微妙だね」


 ネットスーパー系の能力だとして、それはゴブリンを駆除しての報酬で買えるはず。ゴブリンがいなければなんの役にも立たない。オレと同じく報酬をもらっての転生なら……もう使い果たしているか。


「まあ、お前が関わりたいのなら好きにしたらいい。灰竜族としては害にならないのなら構わんよ」 


「そうするよ。ただ、マルステク王国のことは知っておきたいな。田中一族は神の御子が築いた一族だからね。国でもかなり地位を持っているかもしれないし」


「それはこちらとしても欲しいところだな。繋がりがないからマルステク王国のことはウワサ程度にしか知らんからな」


「なにかお土産持って行ったほうがいいかな?」


「そう、だな。灰竜族の名も出したのだろう? なら、それなりのものを持って行ったほうがいいかもしれんな」


「なにが喜ばれるの?」


「うーん。タナカ一族なら大抵のものは手に入れられるだろうからな~。神の御子からの贈り物なら当主まで上がるはずだ」


 確かに。神の御子を崇拝している感じだったから~。


「なかなか難しい問題だね」


「異世界の品なら喜ばれるのじゃないか?」


 元の世界のか~。


「なら、カメラか」

 

 さすがにデジカメはプリンターがないと意味ないから、インスタントカメラにするか。


 魔力は満タンなでインスタントカメラを創り出した。


「……かなり魔力を持ってかれたな……」


 精密機械は本当に魔力を持って行かれる。まあ、一気に創ってしまうのが悪いんだけどさ。


「それは?」


「カメラだよ。風景を切り取って紙に写すんだ」


 フィルム入りで創ったからラウルを撮ってみた。


 かなり性能をよくしたから解像度もいい。ちょっと昔のデジカメくらいには写っているはずだ。

 

「凄いな! 異世界のウワサはいろいろ聞いたことあるが、こんなこともできるとは。本当に風景を切り取ったかのようだ」


「ぼくの魔力ではそれが限界だね。もっといいのを創ろうとしたら十日くらいかかると思う」


「これ、おれにも売ってくれ」


「そんなに気に入ったの? その紙も創らないと意味ないものだよ」


 フィルムはそこまで魔力を使わないだろうが、かなり高額にさせてもらうよ。


「構わない。売ってくれ」


「まあ、ラウルさんにはお世話になっているしね。屋敷の資金としてあげるよ。ただ、フィルム、その紙代はもらうよ」


「そうか。わかった」


 嬉しそうにインスタントカメラを弄るラウル。そんなにか?


「まあ、ラウルが喜ぶならイチノスケさんも喜ぶだろう。明日は、インスタントカメラを創るのに当てるか」


 きっと半日以上は眠っていることになるだろうな~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る