リリーフ・オブ・ザ・ライフ

タカハシあん

第1章

第1話 転生

 死んでしまった。


 なんとも惨たらしい死だったよ。


 前世は平々凡々な人生だったが、頭のイカれた女にゴブリン駆除をやれと命令され、レベルアップ能力を与えられて異世界に送られた。


 なんの取り柄もない平々凡々な男が異世界に送られ、ゴブリンなんてわけもわからんものを駆除しろとか無理ゲーでしかない。


 それでも死にたくないからとがんばり、仲間を得て、それなりに幸せを見つけたのに、ゴブリンの大軍に襲われてしまった。


 仲間や恋人を逃すことには成功したが、三メートルもあるゴブリンに殺されてしまった。満身創痍に落ちたあとにあんなもんに勝てるわけねーだろう。体真っ二つにされたよ、こん畜生が!


 ──ハァー。今回もダメか。○○さん、ご苦労様でした。一年で二万四千匹はなかなかの成績でしたよ。得た能力や技術はそのまま引き継ぎされ、駆除した分の報酬はお支払します。新たな命で幸せになってくださ~い。グッドラァ~クッ!


 なぜだろう。声だけなのに満面の笑みで親指を立てている姿が脳裏に浮かんだよ。


 ──あ、そうそう。仲間の皆さんは元気に生きてますので安心してください。新たな人生に乾杯★ ラララ~♥️


 クソ女探す笑顔に中指を立てながら意識が途切れ、気がついたら砂漠の町に立っていたよ。


 落ち着いたのち、自分の姿を見たら四、五歳くらい。種族は人間っぽい。肌は日焼け、いや、褐色か。周辺を見渡せばアリババと四十人の盗賊が活躍しそうなところだった。


 アラビアンナイトな世界に転生させられたのか? とは思ったが、どうやら違うようだ。魔法みたいなものがあり、ケンタウロスな種族が町を歩いておりました。


「エクラカ、帰るよ」


 そう呼ばれて振り返ると、強い日差しを防ぐため、白い布、マリールを纏った老婆──あ、ばーちゃんか。


 え? あ、オレはエクラカだ。ばーちゃんと二人暮らしで両親は……記憶にないな。死んだか?


「う、うん」


 前世の記憶が突然蘇って混乱しそうになるが、前世でたくさんの地獄を見てきた。このくらいで焦っていては最初のゴブリンにも勝てない。あんなクソみたいな世界で生き抜いた経験は伊達ではない。


 ばーちゃんの手を繋ぎ、混乱する記憶を整理した。


 この町はアーカラスと呼ばれ、交易で栄えているみたいだ。水は地下水が豊富なようで、町の至るところに井戸があり、使うのに金を払う必要はないみたいだ。


 オレらが住む家は町の外。一キロくらい歩いた場所にあり、小さな畑でラビって野菜や豆、鶏、山羊を何匹か飼っている。


 少し離れた場所にも家(小屋か?)がいくつか見え、暮らしはうちとそう変わらないみたいだ。


 気候のせいか麦は作っておらず、あまり食卓に上がったことはない。豆料理と毎日産んでくれる卵を茹でたものが出ている。肉は鶏が卵を産まなくなったら食っている感じだ。


「……無慈悲だな……」


 突然、ゴブリンを駆除しろと言われたときもそうだが、地球より遅れた時代に転生させるとか無慈悲すぎんだろう。米食いたいよ。ウォシュレット搭載のトイレが欲しいよ。たっぷりのお湯が満ちた風呂に入りたいよ。こんなんじゃスローライフなんて夢のまた夢だわ……。


「なんでこんな過酷を味わなくちゃならんのだ?」


 皆を救えたことはよかったが、誰とも別れを告げられなかった。転生させるなら記憶を消してからにして欲しかったよ。


「それでも生きなくちゃならんか」


 過酷な一年はオレを変えるには充分な時間だった。過去は戻らないと何度も教えられた。泣いて無駄だと理解した。


 もうあの世界には帰れない。地球にも帰れない。ここで新たな人生を送らなくてはならないのだ。


 幸い、かどうかはわからんが、四、五歳から人生が始まった。どうやらクソ女がくれた体力と治癒力強化は受け継がれ、二万四千匹分の報酬をもらえた。


 リスタートアイテムって名称が腹立つが、もらえるものならありがたくもらっておくさ。ここもなかなか厳しそうな世界みたいだからな。


「レベル20か。死ぬ前はレベル17だったからあいつは倒せたんだな」


 オレがクソ女から与えられた能力はレベルアップできるものだった。


 ゴブリンを一匹倒すと経験値ポイントが五百もらえ、基礎値からさらに身体能力、治癒能力、創造魔法に振り分けて伸ばしてきた。


 身体能力は大の男を五人くらいなら余裕で相手でき、治癒能力は切り傷くらいなら一秒くらいで回復。創造魔法は……そこまで伸ばさなかったが、いきなり無人島に放り出されてもその日から快適に生きていけるくらいにはなっていたな。


「まさかこの世界で役に立つとはな」


 最初にもらったポイントを全振りして得たもので、それ以後、まったく伸ばさなかったが、それがあったから生き残れた感はある。あのクソ女、倒した数や碌な情報は伝えてくるクセに、なんのサポートもしてくれなかった。あれで一年も生きられたオレが可哀想で仕方がねーよ。


「あいつを倒したポイントは創造魔法に振っておくか」


 この世界では身体能力より創造魔法のほうが重要かもしれんからな。


「エクラカ。水を汲んできておくれ」


 この時代を表すように四、五歳でも働かされる。まあ、前の世界でも似たようなものだったし、前の力も引き継げられた。前世の記憶が蘇っても絶望は感じなかった。


 ……皆、どうか幸せになってくれな……。


 今のオレには願うことしかできない。そして、この世界で生きて行くしかない。それなら幸せになれるようかんばるとしよう。


「はーい」

 

 水瓶を持ち、共同井戸に向かった。

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