第20話:地下3階3+地下4階3

地下4階で手に入れた鍵と思われるものが地下3階の鍵が必要だと思われる扉を開けることに使えるのかどうか。実はこれには確信がなかった。開けられるのではないかと思ってはいるのだが、戻る時に試しておけば良かったとクリストは少なからず後悔していた。

この予想を外した時の対応を考えながら3階に再度到達。階段の正面にある扉の先の安全を確認してからそれを開ける。前回はこの部屋にスネークがいたのだが、今回はいない。やはりこの小部屋が連続するエリアに関しては魔物がいるかどうかは毎回変わるらしかった。

左の扉の先は今回も魔物なし、その正面の部屋は前回は魔物なしで宝箱がありだった部屋だったため、念のため確認することに。魔物の気配があったため、そっと扉を開けて中を確認するだけにする。

「残念、今回はなし」

さっと部屋の内部を見渡したフリアが報告する。やはり宝箱の有無も毎回変わるらしい。それはこのエリアの探索を主目的とした冒険者にとってはつらい結果だろう。宝箱を見つけたければ結局全部の部屋を回るしかないということなのだから。

そこから左の扉を確認、ここは魔物の気配があり、そしてう回する方法もなかったためエディとクリストが部屋に突入してジャイアント・ポイズナス・スネークを処理した。

その先は右と正面に扉。前回は両方とも魔物がいたが今回は右がなし、正面がありということで、右へと進んだ。最後は鍵のかかっていた扉の部屋なのだが、この部屋には魔物がいる気配があったため、再度エディとクリストとで突入して今回もジャイアント・ポイズナス・スネークを倒して安全を確保した。

「よし、ここまでは問題なかったな。さあ問題はこの鍵だ。4階のこいつで開くのかどうか」

「開いてくれないとまた探し直しだからな」

「そうなんだよな。3階ですらまだ開けていない扉があるんだ、できればこれで開いてほしいぜ」

扉のノブの上には5センチ程の幅のある何かをはめ込むためのスロットがあり、4階で手に入れたものはそこにちょうどはまりそうな大きさの板鍵に見えた。

クリストが板鍵をスロットにはめ、上からぐっと押し込む。

カチッという小さな音がしたところで手を離すと、板鍵の表面に刻まれた模様のような筋に沿って、スロットの中から青い光が伸びていく。全ての筋に光が届いたと思ったところで模様全体が一瞬光り輝き、カキンッという音がもう一度鳴って、そしてノブが上に少し持ち上がった。

「すごい仕掛けだな。これで開いたのか?」

「あのカギに魔石がはまっているとかではなかったし、魔法っぽい気配もなかった。仕組みがまったく分からないね。開いたのかな? ノブは動く?」

クリストがノブに手をかけ力を込めると、ノブは簡単に押し下げられた。そして奥に向かって力を込めるとゆっくりと扉が開いていく。

「これが正解だったか。この鍵は入れたままでいいのか?」

そのまま扉を開けきらずに再び閉めると、カチンという音がしてノブが下がり、板鍵がスロットから押し上げられる。完全に抜けきるほど上がったわけではなかったが、この部屋には魔物がいる場合もあるのだ。何かのはずみで飛んでしまうこともあるだろう。

「これは持っていろっていうことだろうな。4階のあの場所を調べて鍵が復活していたら全員が持てるってことになるが、調べた方がいいのか? いいんだろうな、場所はどこだったか‥‥」

「地図を見る限り面倒なのはこの小部屋のエリアを結局ほとんど見るしかなくなるっていうことくらいかな。フロッグのエリアはうまく動けば戦闘はせずにすむし、4階もゴブリンがいるかどうかくらいだよ」

「よし、行くか。鍵が復活しているようなら1つ持ち帰ってギルドに預けよう」

方針を決めると板鍵を回収して再び小部屋のエリアを通り抜ける作業に戻る。

すでに見てある部屋を通り抜け、そこからさらに最低限通過する必要がある部屋を4つ、さらにそこからの分岐で宝箱があった部屋を1つ、前回は何もなかったが行き止まりになる部屋1つという全てを確認していく。

そのうちスネークがいた部屋が3つ。大きさから見てポイズナス・スネークが2体とコンストリクター・スネークが1体だろう。そして宝箱は前回あった部屋になく、何もなかった行き止まりの部屋にあった。これまで常に宝箱は行き止まりの部屋で見つかっている。もしかしたらこのエリアでは、そういう部屋の中から配置場所を決めているのかもしれなかった。

この宝箱は鍵あり、罠なしの状態で、中からは暗い灰色に赤い斑点のある石がはまった指輪が見つかった。

そして最後のフロッグのエリアとの境の扉は前回同様に鍵がかかった状態になっていて、フリアが慎重に解錠した。これももしかしたら鍵がかかっていると決まっている扉と、鍵がかかっているかどうか、入るたびに変わる扉があるのかもしれなかった。


扉を開けて少し進むと地面を水が満たし始め、フロッグのエリアに入ったことが分かる。その先は部屋になっていて前回はフロッグがそこにいたのだが、今回はどうか。先行するフリアもさすがに慎重になっているのか水音を立てないようにゆっくりと前進する。

右に分かれ道のある場所まで差し掛かるとフリアが後続を手招きする。どうやらジャイアント・フロッグは今回も部屋の方にいるらしく、今のうちにということなのだろう。急ぐとどうしても水音はしてしまうが、仕方がないと判断して急ぐ。通路をふさぐ形でエディが盾を構え、全員が分かれ道の側に進み終わったところでエディもそれに続く。幸いフロッグがこちらへ来ることはなかった。

通路を進むと水場が終わり、そして右への分かれ道に差し掛かる。ここを右に行けば地下4階への階段だ。今回は4階で板鍵の状況を確認することが目的だったのでそのまま階段を目指す。通路に入り、その先で左に曲がるとすぐに下り階段が見え、そのまま階段を下りて4階へと踏み入った。

地下4階、階段を下りた目の前には正面と右への分岐。板鍵があったのは正面少し進んだ先を左に曲がったところにある部屋だ。目指すのはそこになるが、ゴブリンがいる可能性があったのでここも慎重にフリアが先行して進む。

少し進んだところで通路は丁字路になっていて、そこでフリアが右側を気にする。

「いることはいるね、数は複数。2か3かな。どうしようか」

「どうせ帰り道でも気にせざるを得ない。今のうちに倒しておこう。この先だな?」

「うん。左に曲がったあたりにたぶんいる」

「よし、数は3としておこう。俺とエディで突っ込む。カリーナ、一番奥のやつに魔法を頼む。フリアとフェリクスは待機だ」

探索の主力になるフリアと地図を手に持っているフェリクスを残し、ほかの3人が前に出る。通路を曲がったところに恐らくゴブリンがいる、そういう想定でこちらから急襲をかけるのだ。

まずエディとクリストが剣を構えて曲がり角から飛び出す。その正面にやはりゴブリン。手前に2、奥に1。エディの盾が中央に来るような態勢で、そのまま突撃する。

「ファイアー・ボルト!」

その盾越しに最も奥にいるゴブリン目がけて炎の矢が走る。そうしてあぜんとした表情でこちらを見ているゴブリンにエディとクリストの剣が突き立てられるのだ。

急襲が決まってしまえばゴブリンがこちらの攻撃に耐えられるものではない。一撃で戦闘は終了になる。

「お疲れさま、そしてこの先に前は宝箱のあった部屋があるけれど、そこも確認してみるかい?」

後方からフェリクスが声をかけ、返答を聞くまでもなくフリアがさっさと先に進む。

「確認するかと言われたら当然するんだが‥‥まあいいか」

フリアが見に行くのだ、危険は感じられないということだろう。待っている間にゴブリンの後始末だ。

そうしてフリアもすぐに戻ってきた。手には何か巻物のようなものを持っている。

「鍵も罠もなかったから開けてきたよ。これが入っていた。たぶん魔法のスクロールだね」

「どれどれ? ん? 何だろう、見たことのない呪文ね‥‥フェリクスは、どう?」

「うーん、僕も見たことのない呪文だ。そうなるといわゆる魔法使い用ではないよね。クレリック系? あーでもそれならカリーナが分かるはずだし、これはギルドの鑑定を期待するしかないね」

ウィザード系でもクレリック系でもない魔法の系統があるのかどうかがすでに分からないことではあったが、このダンジョンはそもそもよく分からないことが多い。今更なことでもあった。

戦闘と宝箱の回収が終わったところで次は板鍵の部屋だ。一端分岐まで戻り、正面左側にある扉を確認する。

「鍵なし、罠なし、気配なし。ここはそういう部屋なのかも」

フリアが安全を確認して扉を開ける。今回も部屋の奥の壁には板のようなものが取り付けられ、そしてそこには手のひらに乗る程度の大きさの四角い金属の札のようなものがきちんと置かれていた。

「今回もあるね。これはこの鍵は復活するっていうことで良さそうだよ」

「ああ、これで安心だな。今回ももらっていってギルドに預けよう」

地下3階の専用の鍵が必要な扉のための板鍵を手に入れ、これで地下4階での調査は終了だ。通路を戻り、階段を上って3階に戻る。

その先も再び慎重に水場をやり過ごすと、小部屋が連続するエリアに戻り、そうして先ほど一度通ったルートをなぞって、その問題の専用の鍵が必要な扉までたどり着いた。


扉のノブの上、5センチ程の幅のスロットに板鍵をはめ込み、上からぐっと押し込む。

カチッという音がして板鍵の表面に刻まれた模様のような筋に沿い、スロットの中から青い光が伸びていく。全ての筋に光が届いたところで模様全体が一瞬光り輝き、カキンッという音がもう一度鳴ってノブが上に少し上がった。

「よし、開いたな。ここからは初めての場所だ。慎重に行こう」

ノブを押し下げ扉を向こう側へと押していく。その先は通路で、そして少し進んだところで丁字路に突き当たっていた。

「このエリアは照明があるのか‥‥」

丁字路の壁にランタンに似た照明器具が取り付けられ光を放っている。2階で似たような形のものを見たが、ここも同じものだろうか。

照明があればランタンが不要になる。どうしても手をふさぐものなだけに、照明があるというのは正直なところ助かるのだ。ダンジョンに照明器具など不自然だが、このダンジョンでそれを言っても仕方がないだろう。

扉の鍵の仕組みは通路の側にもあり、やはり鍵は持ち歩くしかなさそうで、はめてあったものを取り外した。これを紛失するとこのエリアからの脱出ができなくなる恐れがあるため、念のために扉は開けた状態で金属棒を挟んでおく。ただ2階の一方通行の扉がそうだったように、この扉もいつの間にか閉まっている可能性はあるだろう。


フリアが先行して丁字路へ向かうが、差し掛かる前に足を止めて戻ってくる。

「何かいる。ちょっと変な気配だし、飛ぶタイプなような気もする。数は少ない、たぶん1だね。近づいてきているからここで迎え撃った方がいいかも」

「わかった。完全に初見の魔物か。慎重に行こう」

丁字路から一歩下がった場所でエディが盾を構え、その脇でクリストも剣を構える。後衛も支援の準備だ。

少しすると丁字路の左側からブブブというような音が近づいてくる。さらに少し待つとそれが姿を現した。

節くれ立った体に鋭い爪を持つ長い腕、細く凶暴な獣のような形をした足、長い鼻先と細長く伸びた耳、そして鋭い牙を持つ口。背には大きなコウモリのような翼。茶褐色をした体色をして、砂ぼこりのようなちりのようなものを体全体にまとっている。クリストたちにとっても見たことのない魔物だった。

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