第16話:地下3階2
巨大なジャイアント・スネーク相手とはいえ、相手の攻撃力を削って、こちらは十分な人数が参加していて確実に攻撃を加えていく。エディが引きつけて防御力を生かせる体勢が築けた時点で結果は決まっていた。
「終わったか? よし、大丈夫だな。まあでかいが、この部屋向きの魔物じゃないよな」
「そうだな、動きが制限されていた分、こちらは対応が楽だった」
「効きやすい弱体化を狙ってみたけれど、終わってみると何でも良かった気がするわね」
この巨大なジャイアント・スネークも魔石の位置は通常のものと同じ首の付け根だった。
牙も通常のものよりもはるかに長く太く、堅実で強固な盾役がいなければ苦戦するかもしれない相手ではあった。ジャイアント・スネークの側から見れば、もう少し動ける広さの部屋であれば善戦できたかもしれない。
「ね、宝箱があるよ」
ほらほら、という感じでフリアがジャイアント・スネークの体の間を差している。とぐろが解かれたちょうど中央辺り、体に埋もれるようにして宝箱が見えていた。
「へえ、抱え込むようにしていたのか、これは気がつかないこともあるんじゃないか」
「鍵なし、罠、ありだね」
「しかも罠付きときたか、気をつけろよ」
何しろ一度引っかかっている。ここは慎重になる必要があった。
「大丈夫、もうあると思って調べているから。うん、解除したよ。たぶんこれもダーツが飛ぶタイプかな」
罠を解除すると箱の蓋に手をかける。今度は何が出るか。ボス部屋の宝箱と来れば期待も高まるところではあった。
蓋を開けて中身を確認すると、今度もまた笑顔がこぼれた。
「お、今回もいいものだったか?」
「そうだね、今度も当たりでいいんじゃないかな。宝石だよ、6個ある」
「6個! いいわね、さっきのよりも良さそう? どう?」
またしても宝石が出たという結果にカリーナが反応する。先ほどよりも良いものが出てくれると盛り上がるというものだったが、今回は暗い灰色の中に赤い斑点のあるもの1つ、赤褐色に黄や緑や黒が混ざったもの1つ、薄い青緑色をしたもの1つ、透き通った灰色をしたもの3つ。
「うーん、色合いはちょっと地味ね? でもさっきのよりは宝石っていう感じだわね」
結果としてはもう一つか。だがこれも鑑定結果を楽しみにできる成果ではあった。
この部屋からの通路は元へ戻るためのものしかなく、これで部屋が連続するエリアの下側が埋まったような形になっていた。
残るは鍵なしの扉1つ、鍵ありの扉1つ、専用の鍵が必要と思われる扉1つだ。
まずは鍵なしの扉から確認していくことにして、移動を開始した。その扉を開けると同じ広さの部屋。そして扉は左右にあった。
「右、鍵なし、罠なし、気配、通常サイズ。左も鍵なし、罠なし、気配大きいの」
「そう来たか。通常のやつから片付けていこう」
部屋の連続、いる魔物はサイズ違いはあれど種類は変わらず。そうなるとやることは何も変わらない。
右の部屋の通常サイズのジャイアント・スネークを倒し、中を確認すると扉はなく行き止まりになっていた。
続けて左の部屋の大きなサイズのもの同じように倒す。この部屋は正面と右に扉があった。そしてどちらの先にも通常サイズのジャイアントスネークがいると判断された。正面の部屋をまず処理する。この部屋は扉が右側に一つ。そして戻ってもう一つの扉の先のジャイアント・スネークも処理すると、その部屋には宝箱があった。
「このエリアは面倒だが結局こうして全部回らないとならないんだろうな」
「そんな気がするね。どの部屋に魔物がいて、どの部屋に宝箱があるか、見てみないと分からないっていう」
クリストとフェリクスが地図を見ながら言っている間に、フリアが宝箱に取り付いて調べている。
「鍵なし、罠なし、開けるね‥‥うーん、またしても宝石。すごいね、もう3つ開けて、全部宝石だよ」
「いい稼ぎにはなるな」
青い水晶のようなもの1つ、最初の宝箱からも出た桃色の石に緑色の模様のはいったもの1つ、黒い半透明のもの3つ。このエリアでは宝石ばかりが見つかっていて、金額からすれば十分に稼げているという結果になるだろう。
「でもこれだけ宝石が続くと、何だか変わった物が出てほしくなるわね」
そういうぜいたくな悩みが発生することになっていた。
宝箱の回収が終わったところで残る開けていない扉の所まで移動、安全を確認してその中へ立ち入ると、そこは今まで通りの広さの部屋で正面に扉が1つあるだけだった。
「鍵、あり、罠なし、気配なし」
「鍵ありか。これでこのエリアは埋まったとみていいのかもな。残るは鍵ありの扉2カ所だ」
目の前の扉の鍵を外して開け放つと、その先は通路になっていて、同じ広さの部屋が連続するエリアは終わったのかもしれないと思われた。そして慎重に前進を開始してすぐに、確実にこれまでとは違うエリアに入ったと思える変化と遭遇した。
通路には薄く水が張っていた。
「あのマーマンのエリアじゃないだろうな‥‥」
「だが2階の時は照明があっただろう、今回はそういったものは見当たらない」
2階のマーマン、クオトアと呼ばれるらしいそれのいたエリアは壁に照明が取り付けられ、明るくなっていた。
この通路にそういったものはなく、クリストの掲げるランタンの明かりだけだった。
「右に通路。それから正面がたぶん部屋になっていて、ジャイアント・フロッグだと思う。姿が見えた」
先行していたフリアが報告する。
「よし、まずはそこからだ。エディ、前へ。ジャイアントフロッグなら支援は必要ないだろう」
フリアと換わってエディが先頭に立ち、ジャイアント・フロッグのいる部屋へ向かう。
足場に水が満ちているせいでどうしてもバシャバシャと音がして静かに動くことはできない。すでに相手には気づかれているだろう。
部屋に入ると中央にジャイアント・フロッグ。すでにこちらを向いている。
それに対してエディが盾と剣を構え威嚇すると、ジャイアントフロッグが大きく飛び上がり足をたたきつけるように突っ込んでくる。
だがすでに準備ができているエディの防御を抜けるような攻撃ではなく、盾に跳ね返されたところへクリストが攻撃を仕掛け、続けて構えていた剣をエディが突き入れて戦闘は終わった。
「左右から何か来る! 左が大きいよ!」
フリアの警告が走る。
やはり激しい水音をさせての戦闘は次を呼ぶ。部屋の左右には通路があり、そのどちらもから何かが来るという。
まず左の通路から激しい水音をさせて巨大なカエルが姿を現した。先ほどのジャイアント・フロッグよりも一回り大きく、色も褐色に赤い斑点、そして白っぽい腹をしている。
最も近い位置にいたフリアに狙いを定めたのか、そちらに向かって長い舌を飛ばす。対するフリアは反撃や回避ではなく全力で逃げることに決めたようで、転がるようにして駆け出し、ジャイアント・フロッグから距離を取ってそれをかわした。
エディが盾を構えてその巨大なジャイアント・フロッグに対して突撃したところで、続けざまに右の通路から、今度は先ほどのものと同じ大きさのジャイアント・フロッグが姿を現した。
だがすでに準備を終えていたフェリクスとカリーナからファイアー・ボルトが放たれ、その顔に命中して激しい炎を巻き上げる。
その間に突撃したエディが盾で正面から押すようにして攻撃を開始し、そして駆け込んだクリストと2人がかりでジャイアント・フロッグに切りつける。相手も飛び跳ねて距離をとろうと試みるが、そこへエディが遅れずに盾を構えて追撃することで距離を開けずに戦闘を続けることができていた。部屋がそこまで広くはない、通路から出てきた所から飛び跳ねて移動しようにも場所が限られるという状況が幸いして、追い詰めて切りつけるを繰り返すことで、それほど手間取らずに倒すことができた。
「よし、これで終わりか? あとは来ないな? フリアも大丈夫そうだな」
ファイアー・ボルトの狙い撃ちにあったジャイアント・フロッグもすでに動かなくなっていて、逃げに徹していたフリアもびしょぬれになりながらもケガはないようだった。
「さすがに場所が悪かったな。もう少し数がいたら面倒だったか」
「足首まで水につかっているっていうのは動きにくくて嫌だね」
地面が水で満たされているという状況は人にとっては不都合だ。水音がする、足の動きを制限される、そういう状況は環境に適した魔物の方に利があるだろう。
戦闘に慣れているパーティーで、攻撃力が全員に備わっているからこそ処理する速度を稼げるが、これが倒しきれない程度の攻撃力しかなければそう簡単にはいかない。
「右、そっちは通路がしばらく続きそう。左は通路の先が部屋になっていて宝箱があったよ」
「お、また宝箱か。今回は結構見つかるな」
魔物を倒しきり安全を確保してあるならば次は宝箱だ。移動して部屋の安全を確認したところでフリアが宝箱を調べる。
「鍵あり、罠あり。うーん、一番面倒なパターンだね。罠はどこだろ、これかな? んー、このピンを押さえておけばいいかな、よし、鍵は、隙間を合わせて回すタイプかな、よしよしよし、と」
水に半分埋もれたような形で置かれた宝箱の前で、こちらも水にぬれるのを構わずに腹ばいになったフリアが解除に取り組む。力業でどうにかすることもできないので、この場は任せるしかないし、目の前の宝箱を見逃すというのも違うだろう。
「よっし、開いたよ」
「お、開けていいぞ」
解除を済ませたフリアがそのまま蓋に手をかけて開けていく。今度の中身は何か。
「あー、これはノズルかな、蓋を開けると何か噴き出す仕掛けっぽいね。中身は、中身は、おー、金色の腕輪」
取り出したのは見事な装飾の施された金の腕輪だった。
「見せて見せて、うーん、枝葉に鳥、文字はなし、これは装飾品ということでいいのかしら。特に魔法的なものではなさそうよ」
受け取って細部を見ていたカリーナがおおよその見当を付ける。魔法や呪いといったものがないのであれば宝飾品としての価値だけになる。金製品ということであればどの程度の価値になるのか、期待が持てた。
「これでこの部屋まで確認できたか。次は正面の通路を見よう。早めにこのエリアを抜けないと休憩もできないな」
水に満たされていては座ることもできない。部屋を出るとそのまま正面の通路へと進むことにした。
「少し先で左に通路、その先が普通の地面に戻っていたよ。あとは真っすぐ、もう少し続きそう」
ようやく水に覆われたエリアを抜けられそうな場所まで来ることができた。
「この先、危険はなさそうだからちょっと見てくる」
言うとフリアが真っすぐに通路を進んでいく。他の者は左通路への分岐で待機だ。
「行き止まり、何もなかったよ。左へ曲がって、またすぐに左に曲がって行き止まり」
これで左への通路を進み、通常の地面へと戻ることができる。足元が水じゃないというだけで安心できるという点は良い。
その先は部屋になっていて、そしてなぜか水場があった。
「水場? こんな所に? この水でさっきまでの水が満たされているというわけでもないだろう? どうなっているんだ?」
部屋の隅には今まで階段室にあったのと同じ形の水場があった。
そして部屋の中には階段はなく、右へと続く通路があった。フリアがその通路をのぞきこみ、先を確認する。安全と判断したのか、その先へと進んでいき、すぐに戻ってきた。
「何と驚き、この先に下り階段。ここが一応階段室っていうことでいいみたいだよ」
「こんな形で階段があるのかよ。扉もないぞ、ジャイアント・フロッグが来ないとも限らないってことじゃないか」
扉がないために部屋を隔離できない。ここまで魔物を倒しきっているから休憩はできるが、長時間留まるには見張りが立つ必要があるだろう。
2階までは階段室に扉があった。扉を閉じて荷物を積むか、誰かが背中を預けて座り込めば開けようとする動きに気がつくことができた。それができないということは誰かが通路を警戒していなければならないということだった。
「ここに4階への階段か。どうするか、ああ、まだここが埋まっていないな」
「そうだね、この水があるエリアだとこの通路がまだだね。先にここを埋めてから下へ行ってみればいいんじゃないかな」
休憩を終えたところで隊列を組み直し、最初に確認された通路の先を確認するために水で満たされたエリアに戻る。
すでに魔物は倒しきっているために危険はなく、すぐにそこまでたどり着くと、通路のへと進んでいった。
「すぐそこで水は終わり、いつもの地面になっていたよ」
どうやらこちらの通路でも水のエリアは終わりのようだった。そしてそこから少し進んだところで通路は正面と右への通路に分かれていた。
「まずは正面だな。埋めていこう」
正面に真っすぐ伸びる通路へ入ってすぐ、先行するフリアが戻ってくる。
「すぐそこが部屋になっていて、水場があったよ。他は何もなし。これってさっきと同じパターンなら、そっちの通路が階段になるかも」
確かに通路の先は扉のない部屋になっていて、その隅には水場があった。先ほどの部屋はそこからの通路の先に階段。今回はどうか。
「なるほど、この階はこういう形で来るということか。水場と階段が分かれていて、そして階段も複数ある」
通路に入ってすぐに左に曲がると、その先には下り階段があった。3階に入ってこれで2つめの階段だ。同じ水のエリアで2つ目。まだ開けていない扉がこの階にはまだ2カ所あるというのにだ。探索の難易度が確実に上がっていることを感じさせた。
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