14
「な……なんじゃこりゃあ!?」
「何って、見たとおりよ。さ、早く立って!」
アスナが強引に着せ掛けたのは、
「……じ、地味な
「これでも十分地味なほうよ。うん、似合う似合う!」
俺は全身脱力して揺り
俺が揺り椅子の上でうめいていると、すっかりそこが定席だとでも言うようにアスナが
「あ、ちゃんと
突然ペコリと頭を下げるので、俺も慌てて背筋を伸ばした。
「よ、よろしく。……と言っても俺はヒラでアスナは副団長様だからなあ」
右手を伸ばし、人差し指で背筋をつーと
「こんなこともできなくなっちゃったよなぁー」
「ひやあっ!」
悲鳴とともに飛び上がった俺の上司は、ぽかりと部下の頭をどつくと向かいの椅子に腰を下ろし、ぷうと
晩秋の昼下がり。気だるい光の中で、しばしの静寂が訪れる。
ヒースクリフとの
ギルドか──。
俺のかすかな嘆息に気付いたアスナが、向かいからちらりと視線を送ってきた。
「……なんだかすっかり巻き込んじゃったね……」
「いや、いいきっかけだったよ。ソロ攻略も限界が来てたから……」
「そう言ってもらえると助かるけど……。ねえ、キリト君」
アスナのはしばみ色の
「教えてほしいな。なんでギルドを……ひとを
俺は視線を伏せ、ゆっくり
「…………もうずいぶん昔……、一年以上前かな。一度だけギルドに入ってたことがある……」
自分でも意外なほど素直に言葉が出てきた。この
「迷宮で偶然
アスナがふふ、と
「リーダーがいい
正直、彼らのレベルは俺よりかなり低かった。いや、俺が
俺が自分のレベルを言えば、ケイタは
俺には、
ケイタは俺に、ギルドに二人いる
預けられた槍使いは、黒髪を肩まで垂らした、サチという名のおとなしい女の子だった。初対面の時、ネットゲーム歴は長いが、性格のせいでなかなか友達が作れないんだと恥ずかしそうに笑った。俺は、ギルドの活動がない日も大抵彼女に付き合い、片手剣の手ほどきをした。
俺とサチは色々な意味で良く似ていた。自分の周囲に壁を作るクセ、言葉足らずで、それでいて寂しがり屋な所まで。
ある時、彼女は俺に、唐突にその内心を
俺はその告白に対して、君は死なない、としか言えなかった。本当のレベルをひたすらに隠していた俺には、それ以上の何を言うこともできなかった。サチはそれを聞いて、少しだけ泣き、そして笑った。
すでに攻略された層の迷宮区だったが、
罠は、
だが、罠は二重に仕掛けられていた。結晶無効化空間──クリスタルは作動しなかった。
モンスターはとても支えきれる数ではなかった。メンバーはパニックを起こし逃げ惑った。俺は、今まで彼らのレベルに合わせて隠していた上位剣技を使い、どうにか血路を開こうとした。しかし、恐慌状態に
しかし間に合わなかった。こちらに向かって助けを求めるように必死に手を差し出したサチを、モンスターの剣が
ケイタは、今まで仮の本部としていた宿屋で、新居の
ケイタは、異物を見るかのような無感情な
──ビーターのお前が、僕たちに
その言葉は、鋼鉄の剣のように俺を切り裂いた。
「……その人は……どうしたの……?」
「自殺した」
「外周から飛び降りた。
自分の声が詰まるのを感じた。心の奥底に封印したつもりの
「みんなを殺したのは
眼を見開き、食いしばった歯の間から言葉を絞り出す。
不意にアスナが立ち上がり、二歩進み出ると、両手で俺の顔を包み込んだ。
「わたしは死なないよ」
ささやくような、しかしはっきりとした声。硬直した全身からふっと力が抜けた。
「だって、わたしは……わたしは、君を守るほうだもん」
そう言って、アスナは俺の頭を胸に包み込むように抱いた。柔らかく、暖かな
瞼を閉じると、
俺が
それでも、記憶にある彼らの顔は、かすかに
翌日の朝、俺は派手な純白のコートの
今日から血盟
しかし、ギルド本部で俺を待っていたのは意外な言葉だった。
「訓練……?」
「そうだ。私を含む団員四人のパーティーを組み、ここ五十五層の迷宮区を突破して五十六層主街区まで到達してもらう」
そう言ったのは、以前ヒースクリフと面談した時同席していた四人の内の一人だった。もじゃもじゃの巻き毛を持つ大男で、どうやら
「ちょっとゴドフリー! キリト君はわたしが……」
食ってかかるアスナに、片方の
「副団長と言っても規律をないがしろにして
「あ、あんたなんか問題にならないくらいキリト君は強いわよ……」
半ギレしそうになるアスナを制して、
「見たいと言うなら見せるさ。ただ、
ゴドフリーという男は不愉快そうに口をへの字に曲げると、三十分後に街の西門に集合、と言い残してのっしのっしと歩いていった。
「なあにあれ!!」
アスナは
「ごめんねキリト君。やっぱり二人で逃げちゃったほうが良かったかなぁ……」
「そんなことしたら、俺がギルメン全員に
俺は笑ってアスナの頭にぽん、と手を置いた。
「うう、今日は
「すぐ帰ってくるさ。ここで待っててくれ」
「うん……。気をつけてね……」
寂しそうに
だが、集合場所に指定されたグランザム西門で、俺は更なる
そこに立つゴドフリーの
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