11
運悪くリザードマンの集団に
「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねぇ?」
おどけたようにクラインが言ったが、俺たちは皆そうではないだろうと感じていた。長い回廊を進む足取りが自然と速くなる。
半ばほどまで進んだ時、不安が的中したことを知らせる音が回廊内を
「あぁぁぁぁぁ…………」
かすかに聞こえたそれは、まちがいなく悲鳴だった。
モンスターのものではない。俺たちは顔を見合わせると、一斉に駆け出した。
やがて、
「バカッ……!」
アスナが悲痛な叫びを上げると、
扉の手前で俺とアスナは急激な減速をかけ、ブーツの
「おい!
叫びつつ半身を乗り入れる。
扉の内部は──地獄絵図だった。
床一面、格子状に青白い炎が噴き上げている。その中央でこちらに背を向けて
もう統制も何もあったものではない。咄嗟に人数を確認するが、二人足りない。転移アイテムで
そう思う間にも、一人が
「何をしている! 早く転移アイテムを使え!!」
だが、男はさっとこちらに顔を向けると、炎に青く照らし出された明らかな絶望の表情で叫び返してきた。
「だめだ……! く……クリスタルが使えない!!」
「な……」
思わず絶句する。この部屋は《結晶無効化空間》なのか。迷宮区で
「なんてこと……!」
アスナが息を
「何を言うか……ッ!! 我々解放軍に
間違いなくコーバッツの声だ。
「
俺は思わず叫んでいた。結晶無効化空間で二人居なくなっているということは──死んだ、消滅したということだ。それだけはあってはならない事態なのに、あの男は
その時、ようやくクラインたち六人が追いついてきた。
「おい、どうなってるんだ!!」
俺は手早く事態を伝える。クラインの顔が
「な……何とかできないのかよ……」
俺たちが
「全員……
十人のうち、二人はHPバーを限界まで減らして床に倒れている。残る八人を四人ずつの横列に並べ、その中央に立ったコーバッツが剣をかざして突進を始めた。
「やめろ……っ!!」
だが俺の叫びは届かない。
余りに
コーバッツだった。
HPバーが消滅していた。自分の身に起きたことが理解できないという表情のなかで、口がゆっくりと動いた。
──有り得ない。
無音でそう言った直後、コーバッツの体は、神経を
リーダーを失った軍のパーティーはたちまち
「だめ……だめよ……もう……」
絞り出すようなアスナの声に、俺はハッとして横を見た。
だが
「だめ────ッ!!」
絶叫と共に、アスナは
「アスナッ!」
俺は叫び、やむなく抜剣しながらその後を追った。
「どうとでもなりやがれ!!」
クラインたちがときの声を上げつつ
アスナの捨て身の一撃は、不意を突く形で悪魔の背に命中した。だがHPはろくに減っていない。
グリームアイズは怒りの叫びと共に向き直ると、猛烈なスピードで
「アスナ───ッ!!」
俺は身も凍る恐怖を味わいながら、必死にアスナと斬馬刀の間に身を
「下がれ!!」
叫ぶと、
グリームアイズの使う技は基本的に両手用大剣技だが、微妙なカスタマイズのせいで先読みがままならない。俺は全神経を集中したパリィとステップで防御に
視界の
「ぐっ!!」
とうとう敵の一撃が俺の体を
元々、俺の装備とスキル構成は
残された選択肢は一つだけだ。
「アスナ! クライン! 十秒持ちこたえてくれ!」
俺は叫ぶと、右手の剣を強振して悪魔の攻撃を
だが
ここからの操作にはワンミスも許されない。
全ての操作を終了し、OKボタンにタッチしてウインドウを消すと、背に新たな重みが加わったのを確認しながら俺は顔を上げて叫んだ。
「いいぞ!!」
クラインは一撃食らったと見えて、HPバーを減らして退いている。本来ならすぐに結晶で回復するところだが、この部屋ではそれができない。現在悪魔と
俺の声に、背を向けたまま
「イヤァァァァ!!」
純白の残光を引いたその一撃は、空中でグリームアイズの剣と衝突して火花を散らした。
「スイッチ!!」
そのタイミングを逃さず叫ぶと、
炎の軌跡を引きながら打ち下ろされてきたその剣を、俺は右手の愛剣で
「グォォォォォ!!」
右の剣で中段を斬り払う。間を空けずに左の剣を突き入れる。右、左、また右。脳の回路が
これが俺の隠し技、エクストラスキル《二刀流》だ。その上位剣技《スターバースト・ストリーム》。連続十六回攻撃。
「うおおおおおあああ!!」
途中の攻撃がいくつか悪魔の剣に
速く、もっと速く。限界までアクセラレートされた俺の神経には、
「…………ぁぁぁああああああ!!」
「ゴァァァアアアアアアアア!!」
気付くと、絶叫しているのは俺だけではなかった。天を振り仰いだ巨大な悪魔が、口と鼻から盛大に噴気を洩らしつつ
その全身が硬直した──と思った
グリームアイズは、
終わった……のか……?
俺は戦闘の余熱による
意識が暗転した。
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