8
迷宮区へと続く森の小路は、昨夕の不気味さが
柔らかく
「それにしても君、いっつも同じ格好だねえ」
う、と言葉に詰まりながら
「い、いいんだよ。服にかける金があったら、少しでも
「その黒ずくめは、何か合理的な理由があるの? それともキャラ作り?」
「そ、そんなこと言ったらあんただって毎度そのおめでたい紅白……」
言いかけながら、俺はいつもの
「仕方ないじゃない、これはギルドの制服……、ん? どうしたの?」
「いや……」
さっと右手を上げ、俺はアスナの言葉を
犯罪者プレイヤーの集団である可能性はない。連中は確実に自分たちよりレベルの低い獲物を
メインメニューからマップを呼び出し、可視モードにしてアスナにも見えるように設定する。周辺の森を示しているマップには、俺の索敵スキルとの連動によってプレイヤーを示す緑の光点が浮かびあがった。その数、十二。
「多い……」
アスナの言葉に
「それに見ろ、この並び方」
マップの
仮に、集団を構成する者たちのレベルさえ
「一応確認したい。そのへんに隠れてやり過ごそう」
「そうね」
アスナも
「あ……」
不意にアスナが自分の格好を見下ろした。赤と白の制服は緑の茂みの中でいかにも目立つ。
「どうしよ、わたし着替え持ってないよ……」
マップの光点の集団はすでにかなりの近さにまで
「ちょっと失敬」
俺は自分のレザーコートの前を開くと。
「な、たまにはこの
「もう! ……シッ、来るよ!」
アスナはささやいて指を
やがて、曲がりくねった小道の先からその集団が姿を現した。
全員が剣士クラスだ。お
前衛六人の武装は片手剣。後衛六人は巨大な
もはや見間違いようがない。彼らは、基部フロアを本拠地とする超巨大ギルド、《軍》のメンバーだ。
彼らは決して一般プレイヤーに対して敵対的な存在ではない。それどころか、フィールドにおける犯罪行為の防止を最も熱心に推進している集団であると言ってよい。ただ、その方法はいささか過激で、犯罪者フラグを持つプレイヤー──カーソルの色から《オレンジプレイヤー》と通称される──を発見次第問答無用で
また、常に大人数のパーティーで行動し狩場を長時間独占してしまうこともあって、一般プレイヤーの間では《軍》には極力近づくな、という共通認識が生まれていた。もっとも、連中は主に五十層以下の低層フロアでの治安維持と勢力拡大を図っているため、最前線で見かけることはまれだったのだが──。
現在SAOの
マップで連中が
「……あの
俺のコートにくるまったまま、アスナが小声で
「噂?」
「うん。ギルドの例会で聞いたんだけど、《軍》が方針変更して上層エリアに出てくるらしいって。もともとはあそこもクリアを目指す集団だったのよね。でも二十五層攻略の時大きな被害が出てから、クリアよりも組織強化って感じになって、前線に来なくなったじゃない。それで、最近内部に不満が出てるらしいの。──で、前みたいに大人数で迷宮に入って混乱するよりも、少数精鋭部隊を送って、その戦果でクリアの意思を示すっていう方針になったみたい。その第一陣がそろそろ現れるだろうって報告だった」
「実質プロパガンダなのか。でも、だからっていきなり
「ひょっとしたら……ボスモンスター攻略を
各層の迷宮区には、上層へと
「それであの人数か……。でもいくらなんでも
「ボス攻略だけはギルド間で協力するもんね。あの人たちもそうする気かな……?」
「どうかな……。まあ、連中もぶっつけでボスに挑むほど
俺はアスナと密着した状況を
「もうすぐ冬だねえ……。わたしも上着買おっかな。それどこのお店の?」
「む……たしかアルゲード西区のプレイヤーショップだけど……」
「じゃ、冒険終わったら案内してよ」
という言葉を残し、アスナは身軽な動作で三メートル下の小路に飛び降りた。俺もそれにならう。パラメータ補正のお陰でこのくらいの高さならないも同然だ。
太陽がそろそろ中天に達しようという時刻になっていた。俺とアスナはマップに気を配りつつ、可能な限りのスピードで先を急いだ。
幸い一度もモンスターに
この迷宮区の、たいがい最上部にはひときわ大きな部屋があり、次層──この場合は七十五層へと
《街びらき》の時は新たな風物を求めてプレイヤーが下層のあちこちから殺到し、街区全体がお祭り
草原の向こうにそびえ立つ巨塔は、
軍の連中の姿は見えない。すでに内部にいるのだろう。俺たちはつい早足になりながら、ようやく近づいてきた迷宮区の入り口を目指した。
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