第4章1 『開門輪と地底世界』

 水蛇による朱華拉致事件は解決し、残暑も少しづつ遠のいていく頃。

 赤猿の家にて水樹と静流、そして家主の赤猿はテーブルの上に置かれている開門輪を眺めていた。

 水樹としては罔象女神に渡してしまっても良かったのだが、「雨龍武尊が意図あって貴方に託したのですから所持しておくべきでしょう」という言葉もあり、結局水樹が所有したままになっていた。


「開門輪――結局これって何なんだ?」


 水樹は言う。

 開門輪。罔象女神曰く、「世界と世界の繋ぐ鍵であり、門そのもの」との事。

 曾祖父である雨柳蕪村――改め、雨龍武尊は何を考えて開門輪を持ち出したのか? そして、何を考えて水樹へと託したのか?

 謎は深まるばかりである。


「世界と世界を繋ぐ……ねぇ? と、なればやっぱりアガルタの可能性もあるのかねぇ?」


 ボソッと赤猿が口にする。

 それに静流が目ざとく反応した。


「アガルタ? それは確か――――」


「ああ、地底世界の事だよ。何百年? いや、何千年前だったか? 竜人の襲撃があったのは」


 竜人――水樹は聞きなれない固有名詞に首を傾げる。


「あー、水樹は知りませんよね」


 水樹の様子で察したのか静流が言う。


「ま、竜人の存在なんざ神同士でしか知り得ない話だ。当然、人間が知る由もねぇよ」


 赤猿はそう言ってカラカラと笑う。

 地底世界アガルタ。この世界に存在するもう1つの世界――というよりは今水樹たちが立っている大地の下に広がる世界の事。

 竜人と呼ばれる存在が跋扈しており、その力は神と同等かそれ以上であるというのは赤猿談。

 それこそ一度は神も竜人によって敗戦一歩手前まで追い込まれた事もあるらしい。


「仮にアガルタとを繋ぐものだとしたら、雨龍武尊は何が見えていたのでしょうか?」


「嬢ちゃん、それがわかりゃ苦労しねぇよ。まあ、開門輪が切っ掛けに何かが起こる可能性も視野に入れるべきだろうよ」


「……俺としては勘弁してほしいんだけど?」


「神の孫になってしまった運命を呪うんだな」


 他人事のように赤猿は言う。


「ま、オレ個神としては竜人とヤり合えるなら大歓迎だけどな」


 流石は戦闘狂である。強い奴と戦えるなら大歓迎らしい。なお、そこに周囲の被害は考えていない事はお約束だ。


「貴方は良いでしょうが、周囲が唯々迷惑です。まあ、竜人が攻めて来たとなれば、被害なんて考える暇がないでしょうけど……」


「たらればの話をしても仕方ないだろ? ま、なるようにしかならないさ」


 半ば投げやり気味に水樹は吐き捨てる。

 それに関しては赤猿も同様の意見だったのか大きく頷く。


「とにかく開門輪は坊主が所有しておけよ。問題が起こったらその時考えようぜ?」


「まあ、そうなるよなぁ……」


 赤猿の言葉に水樹は大きく項垂れるのだった。

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