第3章27 『水蛇襲撃戦/リザルト』
「随分と騒がしい登場ですね、静流」
飛び込んできた静流に向かって、罔象女神は呆れたような表情で言う。
静流の後から龍水も入室してくる。
「すまないな、罔象女神殿」
「全くですよ、龍水。本当に誰に似たのでしょうね?」
罔象女神は溜め息交じりに言う。
どうやら罔象女神と静流たちは面識があるようだった。
「朱華さんも無事で何よりです」
「いえ、全て雨柳君のおかげです」
「まあまあ、お互い抱いているものが一緒なのですから遠慮なくいきましょう?」
「そう、ですね」
何やら威嚇するような様子で静流が朱華へと声を掛けている。
先ほどまでの空気は何処へやら、一瞬にして謎の懇談会へと変貌していた。
「…………雨柳水樹だったか」
――と、龍水が静流へと言葉を掛けた。
「なんでしょうか?」
「いや……静流とは上手くいっているのか?」
何とも不器用な男神である。
直接本人に聞けば良いのだろうが、どうやら娘である静流とは上手くいっていないのだろう。
「まあ、ぼちぼちですね。俺としてもいろいろ巻き込まれて迷惑を掛けているんですけど……」
「神力を有しているのだ。それくらいの厄介事は受け入れるべきだろう」
「お父様? 水樹はあくまでも人なのですから厄介事を運んでくる神なんて全員ゴミ以外の何物でもありませんよ?」
「いや……それは、そうなのだろうが……」
ニコニコしながら言い放つ静流にバツが悪そうな表情を浮かべる龍水。
混沌と化していく状況に、罔象女神がようやく待ったを掛けた。
「そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか? ええ、親娘喧嘩は場を改めるか、他所でやってください。非常に迷惑ですので」
「すまない」
「申し訳ございません」
「……まあ、良いでしょう。さて、今回の件ですが結論から申し上げれば何もありません。水蛇が勝手に自滅した――それだけの話です」
少し前の赤猿と罔象女神の問答は何だったのか?
明らかに初めから答えが決まっていた様子だ。
水樹が静流へと視線を向ける。その視線に気づいた静流はにこやかな笑みを浮かべた。
――どうやら静流が先んじて手を回していたようだ。
「そもそも水蛇の行いも神あるまじき行いです。人の子を――それ以前に女子の扱いについても問い質す必要があります」
罔象女神は眉間に皺を寄せながら言う。
どうやら名のある神も水蛇の行いには一言ある様子だ。
「西野朱華さんでしたか?」
「は、はい」
「事実、孕み袋としか見ない神もいますが、全てがそうではありません。当然、私はそのような神を軽蔑し、罰したいと思っています」
神にも価値観の違いがあるようだ。
まあ、女神としては人とは言え女子が孕み袋になるのは看過できないのだろう。
「幸いと言いますか、水蛇は私たち水の神に連なる者です。ええ、しっかりとさせていただきますとも」
フフフフフ……と、邪悪な笑みを浮かべて笑い出す罔象女神。
朱華は「は、はあ……」と冷や汗を流しながら相槌を打つ。
「水蛇のゴミ屑の話はどうでも良いのです。本題は貴方です」
ゴミ屑扱いされる水蛇を少しだけ哀れに思いつつ、罔象女神に指差された水樹は「はあ」と間の抜けた返事をする。
「貴方の祖父が雨龍武尊である事。何よりも彼の神が死んだとは何事ですか?」
「いや、何事って……俺も曾爺ちゃんが神なんて知ったばかりなんだが?」
「まあ、良いでしょう。とにかく情報を合わせましょう」
罔象女神はそう言ってパンと手を叩いた。
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