第3章11 『サボりの許可』
意識を取り戻した水樹は医師の反対を押し切って退院した。
傷の状態等々の兼ね合いもあり、検査入院を勧められた。しかし、静流の権能により傷は綺麗に無くなっており、何も知らない医師は首を傾げて渋々退院を許可したのだった。
さて、退院して大変だったのは両親である美波と流二ではなく、妹の詩歌であった。それはもう服に引っ掛かったオナモミばりにべったりであった。
「お兄は私が守るッ!」
そんな事を高らかに宣言する詩歌を美波が引き剥がしてドナドナしていく。
さて、此処は雨柳家のリビング。
退院早々に水樹発端で開催が決定した家族会議。
なお、詩歌がいると話が進まないので欠席だ。
「とりあえずベッドに縛り付けたから」
パンパンと両手で叩きながら満足気な表情でリビングへ戻ってきた美波。
「――で、これから会議ってよりは、既に決めた事の事後報告みたいなものでしょ?」
美波は呆気からんに言った。
「お分かりでしたか?」
「そうね、静流ちゃん。病院に運ばれた理由も静流ちゃん関連でしょう? まあ、赤猿君もそっち側だったのは今知ったけど」
「すまねぇな、奥方さんよ。オレも話す気は更々無かったが、状況とこれからの件でねぇ……」
悪びれた様子皆無に赤猿は口を開く。
そんな重苦しい雰囲気の中、父である流二は空気に勤めていた。何か口を挟むのではなく、流れを見守っている。
「大体の話は聞いてるけど、水樹? アンタ、本当に大丈夫なの?」
「……大丈夫って何だよ?」
「身体の事はそうだけど、心の面よ。明らかにボロ負け。野球で例えるなコールド負けだったみたいじゃない。そんなアンタが朱華ちゃんを連れ去った神様に勝てるの?」
美波の指摘は至極真っ当なもの。
だからこそ、水樹は赤猿に頼ったのだ。
「――ま、そこをオレが解決する。つっても、2日間の付け焼刃程度の突貫作業だ。当然、これまでやっていたトレーニングとは比較にならないほど追い込むつもりだぜ? 死なない程度に痛めつけて、傷は嬢ちゃんが治療する。疲労や眠気云々は神力を操ればどうとでもなる」
「そんな理由で俺のお願いとしては2日間は学校をサボる事になるって話なんだけど……」
水樹の言葉に美波は呆れた様子で深い溜め息を吐いた。
「別に理由があるなら多少のサボりくらいは目を瞑るわよ。勿論、最終的に卒業する事が条件になるけど。全く神妙な顔をして相談すると思えば、サボりの許可って……そもそも正当な理由がある時点でサボりじゃないのだけど? まあ、良いわ。私としても友人を助けに行く事に反対する理由はない。たけど、行くなら絶対に助けて帰ってきなさい」
真っ直ぐに水樹を見ながら美波は言う。
その言葉に水樹は大きく頷いた。
そんな様子に満足した美波は静流と赤猿それぞれへ言葉を掛ける。
「こんな息子だけど、イケるところまでイッていいから。とことん追い込んであげて」
美波のそんな発言に、静流は苦笑し、赤猿は実に楽しそうな表情を浮かべる。
――と、これまで沈黙を保っていた流二が水樹へ向かって口を開いた。
「水樹、コレを持って行け」
そう言って手渡したのは何やら古めかしい腕輪のようなもの。
「親父、コレは?」
「俺の爺さん……水樹から見れば曾祖父さんが遺したものだ。役に立つかは分からんが、爺さんの話が出た時に妙に気になって実家に行って見つけてきた」
そう言う流二の表情は神妙であった。
「それと水樹宛だ」
所々、焼けた封筒を水樹へと差し出す。
表には『雨柳水樹様へ』と達筆な字で記されている。
「中身は確認していない。その腕輪と一緒に押し入れの奥に入っていた。元々から何を考えているか分からない爺さんだったが、意味のない事をする人ではなかった。これも何かしら役に立つだろう」
「わかった。あとで目を通しておくよ」
謎が際立っている曾祖父である雨柳蕪村の手掛かりに静流も少しだけ驚いていた。
「よし、時間は有限だぜ?」
赤猿の言葉に、水樹と静流の2人は大きく頷いた。
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