いざ初夜へ

 なんの「やったー」なのかは分かりませんが。旦那様は最高に嬉しそうな顔をして、私の隣に座りました。

「僕の愛しい奥様。今僕にして欲しいことはありますか?」

 もちろんありますよ旦那様、でも二人きりの時はしてくれませんけど。


「ぎゅーってしてほしい」

 強く、強く、ぎゅーってしてくれました。「僕もずっとこうしたかったよ」


「キスしてほしい」

 

 は!

 ちょっと意識が飛んでました。あまりの熱烈チューでした、息が苦しいです。


 涙がボロボロこぼれてきちゃいました。

「ミリア、どうしたんだ? 嫌だった?」

 

 違います旦那様、嬉しいのです。やっと二人きりのときにキスしてくれましたね。


 結婚式の日のことは忘れられません。

 初夜の時も、こんなふうにキスしてくれました。

 これからいっぱい愛されるんだと、もうドッキドキのワックワクで「はい、どうぞー!」ってときめいていたのに。


 あの時突然、旦那様の目が紫色になった。

 パリーバルバルとお話しして、みるみる旦那様の顔が氷みたいに冷たくなっていった。


「やっぱり、焼きもちをやいているの?」


 旦那様は呆然としていた。

「ちがう、パリーバルバルは焼きもちをやかない。これは僕と君の問題だ」


 そう冷たく言って、また聖獣とお話しをする旦那様。

 その後が思い出せない……


 気が付いたら朝になっていて、寝台には私一人で……そして二度と旦那様と一緒に寝ることはなかった。それから1年と8カ月、旦那様は二人きりになると私に触らなかった。


 人前でだけ溺愛してくる旦那様。


 それが、今日、ついに!


「僕たちの家に帰ろうミリア!」

 旦那様が私の手を繋いで立たせました。なんだか自身満々にパチリと片目を閉じてみせます。

 それは何かの合図ですか? まかせとけってことですよね!


 なんか、このまま行けちゃいそうですね旦那様。

 ついに、ついに、私たちは!!


 通い婚を決意して出てきましたのに、一度も通わぬままに、お家に帰ります。いざ初夜へ!!


 伯爵家へ帰ってきました。

 家の者達がみんな心配してくれていました、旦那様が「やったどー、とったどー」というどや顔で私の手をがっちり握って戻ると、皆さん拍手で出迎えてくれました。


 このまま、まだ昼時ですけど寝室に直行してもいいんですよ旦那様。


 でも、健全にお昼を頂き、午後のお茶をして、二人でまったりお散歩なぞして、夕食を頂き……

「なにかゲームでもいっしょにする?」

 なんて、二人の時間を楽しもうとする。


 いえいえ、二人でいられるのは嬉しいですけどもです! もう興奮して私は思考も回らなくなってきました。とにかく早く参りましょう、初夜へ!!

 もう待てないんですってば!


 そしてついに、その時がやってきました。

 夫婦の寝室に、待ちわびた旦那様が来てくれました。


 なんとお姫様だっこをして、寝台にのせてくれて。

 優しくキス。


「ミリア大好きだよ」

 

 旦那様が抱きしめてくれました。腕のなかに私の体がすっぽりと入って、優しくぎゅってしてくれます。


 旦那様はとても嬉しそう。

「お休みミリア」

「ん?」


 そのまま、旦那様は目を閉じた。

「ん?」


 あれ? 私興奮しすぎて、もしかして記憶が飛んだ? もしやもう初夜終わたりましたっけ?

 侍女と選んだ、可愛いけどやだちょっと布の面積少ないわーっていう夜着はしっかり着てますね。

 

 してないですよね初夜、キス一個しただけです。


 連続まばたきをしていると、旦那様のくーくー可愛い寝息が聞こえてきました。


「え? え? ええええええー!?」

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