パーティーでのあらら
今日は王家主催の盛大なパーティーです。
旦那様はビーシェヴァル伯爵としてご挨拶忙しいですねよ。分かっております私も伯爵夫人として張り切ります。
くす、くすっとご挨拶の終わりに皆さんから笑われるのにも慣れました。
「観劇中に伯爵様はずーっとあなただけを見てらしたそうね」
「植物園はいまや、ビーシェヴァル伯爵夫妻のキス園と呼ばれているそうよ」
「伯爵が買占めて、花屋の紫色のバラが売り切れたそうよ、あなたがお好きな色なんですって?」
旦那様の溺愛ぶりが知れ渡っていますので、皆さん「まあ仲のよろしいこと。羨ましい」と意地悪に、時には「お幸せですね」と優しく言われ続ける。それが私の役目になりました。
旦那様はどうしてこんなに熱心に、溺愛のふりをするのでしょう?
結婚した当初は、一緒にお茶を飲みながら楽しくお喋りもできました。
旦那様が私のために造ってくれたバラ園をお散歩したり、旦那様が読書する横で、肩に頭を乗せてのぞき見したり、穏やかな二人の時間があったのです。
けれど、月日が経つごとに、旦那様はじわり、じわりと私から離れていく。
二人の時は、手を繋げなくなって……
肩が触れる距離には、立つことも座ることもできなくなって……
今はもう、お部屋に二人でいることは絶対に避けるようになり……
先日からは、家では目も合わせないようになってきました。
旦那様の心は私から離れていくのに、二人きりの時間が、冷たくなればなるほど、人前での旦那様の溺愛は熱くなっていく。
「ミリア、疲れただろう? すこし風にあたろうか」
旦那様に促されて、バルコニーに出ました。ここにはいつも利用している場所があるのです、旦那様お気に入りのラブラブスポットです。
王宮のこのバルコニーには大きな柱があって、その影が良い具合に人目を避けます。でもですね、有名なのです、そういう場所があるって、皆さんご存知なんです。
「ミリア、そのドレスとても似合う。花畑に舞う蝶のように可憐で、美しくて……ああ、どこかに飛んでいってしまいそうだ。離さないよミリア」
いつものように、腕の中に閉じ込められて、初めは優しく、そしてすぐに食べるみたいにキスされる。
あんなに寂しいのに、伯爵家の大きなお部屋で、一人ポツンと隣の部屋にいる旦那様を思いながら、泣いてばかりいるのに……
キスされながら、こうやって背中に手をまわして、ぎゅーっとしがみついていると。
私は愛されているんだと、どうしても思ってしまうの。
「ミリア?」
キスがとまって、旦那様が悲しそうな目をしてのぞきこんでくる。
彼の親指が私の目の下をぬぐって……
いけません、泣いていました。
急いでハンカチを出そうとしたら、旦那様の手が頭の後ろに回って、そのまま強く彼の胸に押し付けられて、息もできないほどに抱きしめられた。
このごろ、自分でも知らないうちに泣いてしまう。すごく情けなくて、旦那様に見せたくない。
だって、泣いてしまうと、旦那様がいつも言うの……
「ミリア……ごめんよ」
謝られたら、僕は君を愛せないんだと言われているようなのに……
旦那様の胸の中で、ようやく涙がおさまったころ、彼の頭が私の肩にそうっと降りて来た。
熱い息が首筋にかかる。
そのままちゅっと首筋を強く吸われた。
「あっ……」
すごく恥ずかしい声が漏れてしまった瞬間。
「おお!」と野太い男の声が近くで聞こえた。さらに「しーっ」とそれを咎める女の声。
誰か近くにいる! そして聞かれてしまった、私の恥ずかしい声を。
もう嫌。
旦那様は平気なのですか、あなたの妻のこんな声を他人に盗み聞きされても?
これはいけません。旦那様はどんどん攻めてきています。このままでは、もっと恥ずかしいことを人前でしてきます、だって、ものすごいんですもん、このごろ。
旦那様の手がさまよっているのを、ちゃんと知ってます。
触ってるよーな、気のせいなよーな、偶然当たったよーな、そういう振りして、私の体の色んな場所を探索してますよね。
人前で出来る、限界に挑戦してらっしゃいますよね?
聖獣持ちの妻になると決心した時、苦労はあると覚悟はしていました。だから、きっと何か訳があるのだと、慎ましく、我慢して受け入れてきました。
しかーし!
もう嫌です。私は決めました。今夜突撃します、そして成し遂げて見せます、結婚式からずーっとできていない初夜を!
二人きりになってみせる!
旦那様が触れないなら、私からしますからね!
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