第21話 急いで出発
『この世界には、長年の調査により英雄大陸の他にもう一つの大陸が存在している事が明らかになっている。
その大陸は英雄大陸の約4倍の広さを持ち、魔物の国として知られている。
魔物の国から英雄大陸へは、約50年に一度ほどの頻度で強大な魔物が迷い込み、大規模な被害をもたらしてきた。
この頻度が抑えられているのは、単に両大陸が遠く離れているからだけではない。
最も大きな要因は、海王リヴァイアサンの存在だ。
リヴァイアサンは、海の支配者と恐れられる巨大な存在で、英雄大陸と魔物の国の間に広がる広大な海を支配している。
この海に迷い込む者はもちろん、上空を飛行する者でさえ、リヴァイアサンの捕食対象となる。
ただし、魔物であるリヴァイアサンは、同族である魔物を捕食することはない。
しかし、海に近づきすぎた魔物は例外であり、容赦なく食らわれてしまう。
このため、魔物の国の魔物たちはリヴァイアサンを恐れ、極力海から離れた場所で生活している。
このリヴァイアサンの存在によって、英雄大陸へ到達できる魔物は極めて限られている。
主に飛行能力を持つ魔物だけが、この危険を回避し、海を越えることができるのだ。
しかし、魔物の大多数は地上で生活する生態を持つため、英雄大陸への流入は稀である。
この条件が、英雄大陸に住む人々の平和を長い間守ってきた。
それでも、半世紀に一度の頻度でやってくる強力な魔物は、英雄大陸全体に危機をもたらす存在となり得る。
そのため、大陸の住民たちはリヴァイアサンの恩恵に感謝しつつも、魔物の脅威に常に備えているのだ。』
(50年に一度の脅威 ~強大な魔物はどこからくるのか?~ 著:勇者の国 魔法協会)
・・・
その後、ノアディルたちはそのままカモフラージュの状態を続けた。
「なんだか……嫌な予感がするわ。すぐにでも出発した方が良いかもしれないわね」
ヴィオラの言葉にノアディルは同意する。
「ボクの発表は……!?」
「リア、それは道中きっと暇だからその時ゆっくりと教えてくれ!」
「わかった……!」
リアの不満げな表情はノアディルの言葉で少し和らいでいた。
その後、準備を急ぎ次の目的地である魔法士の国を目指すべく動き出した。
リアがデバシーを操作し、必要な物資を次々と収納していく。
ヴィオラは彼女の素早い手さばきを感心したように見つめていた。
ノアディルとルミナもそれぞれ準備を進め、最終的に全員が荷物をまとめ終えると、リアが胸を張りながら言った。
「みんな、見ててよ! ボクが改良した最新型バイクを!」
デバシーから取り出されたバイクは、以前とは全く異なる姿をしていた。
それは四輪の車に近い形状をしており、乗車スペースは前後に二人ずつ乗り込むスタイルに変更されている。
表面は艶やかなメタリックカラーで、シャープなデザインが施されていた。
「すごい! カッコいい乗り物だね!」
ルミナが目を輝かせながらリアに声をかけた。
「でしょ?」
リアはドヤ顔で胸を張り、
「これ、ナノマシンエンジンを完全に小型化したおかげで、ここまでコンパクトにできたんだよ」
そしてエンジン部分を指し、
「見て、このエンジン! たったバスケットボールくらいのサイズなのに、パワーはそのままなんだから!」
と自慢げに説明した。
「デバシーのおかげで荷台も不要だし、これは本当に便利ね」
とヴィオラが微笑む。
ノアディルはバイクを見つめながら頷き、感心していた。
「よし、みんな準備完了だね? 魔法士の国を目指して出発するよ!」
「おー!」
リアの言葉に3人は力強く返事をし、それぞれの席に乗り込む。
リアが運転席に座り、ノアディルがその横に。ヴィオラとルミナは後部座席に並んで腰を下ろした。
「安全運転で頼むぞ、リア」
ノアディルが冗談交じりに言うと、リアは振り返らずに親指を立て、
「ボクに任せなさい!」
と自信満々に返答した。
バイクのエンジンが軽やかな音を立てて始動する。ナノマシンエンジン特有の滑らかな振動が車体全体を伝い、四人はこれから始まる新たな冒険に胸を躍らせた。
ひねると、バイクは静かに、しかし確かな速度で走り出し、広がる地平線の向こうへと向かっていった。
新たな地、魔法士の国で何が待ち受けているのか。
4人の旅は、まだ始まったばかりだ。
・・・
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