第10話 山頂

「すごい……」

「そうでしょ! 巻き込まれないように気をつけないとね!」


 驚嘆するヴィオラにリアは笑顔を見せた。


「エンジェルイーターは誰にも倒せない……その常識が今覆ったわ」


 ヴィオラは感慨深げにその事実を噛み締めていた。

 そして、


「あいつが邪魔で行けない場所にも、これで行けるようになるわね……!」


 と喜んだ様子を見せた。


「よし進もう!」


 リアがそう言ってバイクにまたがった。

 ノアディルとヴィオラもそれに続き乗車、再び山道を滑るように駆け上がっていった。


「生物の気配が一切ないな……」


 ノアディルがそう呟くと、ヴィオラが


「エンジェルイーターに駆逐されたんでしょう。ルールは人に限らないから」


 と答えた。

 それを聞いたリアはふと、


「じゃぁ大賢者様も倒されてない!?」


 とヴィオラに言った。

 その言葉を聞いて、ノアディルとヴィオラは顔を見合わせ、互いに心配そうな表情を浮かべた。


「大賢者と言う位だ。きっと大丈夫だろう……」


 ノアディルは自分自身にも言い聞かせるようにリアに言った。


「山頂は近そうだけど、塔らしきものが見えないな……」


 ノアディルは上の方を見ながら言った。

 その言葉にヴィオラは不安な表情を見せてつつも、山頂にはその後すぐに辿り着いた。


「……」


 3人は無言で山頂を眺めていた。

 そこには期待していた塔のような建造物はなく、代わりに畳一畳分ほどの石碑が静かに立っていた。

 ヴィオラは石碑に刻まれた文字を読み始めた。


「己の魔力をこの石碑に捧げよ……だそうよ」

「魔力を捧げる……?」

「多分、体内の魔素をこの石碑に込めろって事ね……」


 ヴィオラは少し嫌そうな表情をしながら言っていた。


「魔法を放つのと変わらないんでしょ?」


 リアの問いにヴィオラは首を横に振った。


「魔法を放つ時は、体内の魔素はほとんど使ってないわ。6割以上は大気の魔素を利用しているの。体内の魔素は使いすぎると、最悪死んじゃうわ」


 ヴィオラがそう言うと、二人は心配そうな表情をしていた。


「まぁ大丈夫よ! 魔素が尽きる前に疲労感で動けなくなるわ」

「すまない……どちらにしても魔素に関しては俺達ではどうする事も出来ない。ヴィオラ、頼めるか」

「もちろんよ。やっと私の活躍できる場面が来たわね!」


 ヴィオラはそう言って両手で石碑に触れ魔力を込めた。

 すると、それは青く光り輝き始めた。


 その瞬間、辺りの風がぴたりと止まり、まるで時間そのものが凍り付いたかのような静けさが周囲に広がった。

 そして、石碑から声が響いた。


「我は大賢者である。ここに人が来るのはずいぶんと久しい……」


 それを聞いたリアは


「え! 石碑が大賢者様って事!?」


 と驚いていた。


「そう思ってもらってよい。しかしヴィオラ……お主が無事にここへたどり着く確率は0.025%だった。本当によく辿り着いた」


 大賢者がそう言うと、ヴィオラはどういった理由での確率なのかと質問した。


「我は世界に影響を与える者に起こりうる全ての未来と確率が見えるのだ」

「ほ、本当かな……?」

「リア、今は静かにしておくんだ」


 リアはノアディルにそう言われ、少し大人しくなっていた。


「ノアディルとリア……お前たちの帰還方法は勇者が知っている」


 ノアディルとリアは質問する前に解答が来た為驚いた表情を見せた。


「北部にある勇者の国を目指すが良い。その道中でヴィオラ……お前の失われた記憶に関しても判明するだろう」


 その答えにノアディルたちは顔を見合わせた。


「ヴィオラ、これをお主に託そう」


 すると、大賢者の石碑の前が光始め、赤いビリヤードの球程のサイズの水晶が現れた。


「これは……」

「始まりの杖に装着し、魔力を込めてみろ。3人とも……健闘を祈る」


 大賢者はそう言い残し、石碑は光を失った。


「あ、まだ聞きたいことがあったのに!」


 ヴィオラはまた魔力を込めて見たりするが、全く反応が無かった。


「とにかく、一度ヴィオラの家に戻ろ?」


 リアの言葉に同意し、3人はバイクで帰路についた。


・・・

・・

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