第9話 エンジェルイーター

 エンジェルイーター

 人々はこの存在を天災と呼び恐れた。

 魔物と呼ばれているがあまりにも異質な為、その実態は不明。

 突如姿を現し、たった一つのルールを元に処刑を実行する。

 ルールは個体によって様々であり特定が難しい。

 何故なら、ルールが分かった瞬間その者はこの世に居ないからである。

 魔法は無力化され、物理的な攻撃も生半可な物は一切効果が無い。

 見かければ逃げる以外の選択肢はない。


「私がエンジェルイーターを見つけた時、4人の冒険者がそいつと対峙していたわ」


 ヴィオラはすぐに駆け寄り、危険な魔物だから引き返した方が良いと伝えていた。

 しかし、4人は「大丈夫だろう!」と聞く耳を持たなかった。


「何がトリガーになるか分からない! 下手に攻撃などしないほうがいいわ」


 それでも冒険者は魔法を放ったり剣で攻撃して見たりと色々な事を試すのを止めなかった。


「さっきからうるせーな。部外者は黙ってろ。それかお前も塔の宝を狙ってるのか?」

「おいもうほっとこうぜ。行こう」


 冒険者たちはヴィオラを無視してエンジェルイーターの横を通り抜けた。

 その瞬間……先に通り抜けた二人の冒険者が一瞬で両断された。

 その攻撃は殆ど視認できなかった。

 ヴィオラには空間を切り裂く魔法に見えたという。


「嘘だろ……! くそ、こいつから離れて上に行けば行けるんじゃないか!」


 そういって残りの冒険者達は森の奥へと平行に進んでいった。


 しばらくすると、エンジェルイーターは一瞬ヴィオラの前から姿を消し、数秒も立たないうちに戻ってきた。

 ヴィオラはそれを見て、冒険者が向かった方へと恐る恐る向かった。


 そして、その先にあったのは少し高所に転がっていた冒険者の死体だった。


・・・

・・


 ノアディルとリアはその話をじっと聞いていた。

 そしてノアディルは立ち上がり、


「リア、高所に行かなければ調査し放題だ」


 とリアに言った。


「そうだね。調べて見よ!」


 リアはそう言って、ノアディルと一緒にエンジェルイーターに近づいた。


「ちょ、ちょっと! 聞いてた今の話! どうすることも出来ないわよ!」


 ヴィオラは慌てた様子で二人に近寄った。


「ルールは一つ、それが絶対なら低い所で近づいて調査するよ」

「いや、調査って……こいつはいずれここから移動するわ。その時を待ちましょう」


 ヴィオラはなんとか抑止しようとするが、二人はデバシーから機材を取り出し始めた。


「でも数年前から現在まで居るんだろう? いつになるか分からない。今できる事をやってみるさ」

「ヴィオラ、大丈夫だよ! この世に斬れない物はないっ!」

「斬る……!? こいつを斬るって事!?」


 ヴィオラは驚愕しているが、リアはナノマシンを散布し、エンジェルイーターの周囲を囲った。

 そしてノアディルもT-0に指示を出し始める。


「T-0、こいつの外殻強度と成分を分析してくれ。今の装備で破壊できるか調べてくれ」

「分かりました。ですが多くの時間を要する可能性があります」

「幸い動かない敵だ。戦闘中に分析するより遥かに容易いだろう?」

「分かりました」


 そう言ってT-0からもナノマシンが放たれた。

 ヴィオラはその様子を戸惑いながらもじっと見ていた。


・・・

・・


 数時間が経過後、T-0がスキャン完了と言った。

 そして、


「ナノマシン[NOA]を1段階解放した状態であればブレードモードで切断可能と推測します」


 と続けた。


「なるほど。破壊は出来そうだな」


 ノアがそう呟くとリアは焦った様子で、


「駄目だよ! 解放すると身体に凄い負荷がかかるでしょ!」


 と即座に反対した。


「大丈夫。1段階程度だし一振りで済む。負担もごくわずかだよ」

「状況がよく分からないけど、そもそも壊せるってのが信じられないわね」


 ヴィオラがそう呟くと、リアは


「ノアディルは特別なの! 機械化してない身体にナノマシンが宿ってて、解放すれば身体能力や付随した装備の威力が何十倍にもなるんだよ!」


 と興奮気味に説明した。

 ヴィオラはそれに気圧されつつ、


「ナノマシン、まだ理解は出来てないけどそんな事が出来るのね……」


 と答えた。


「生身にナノマシンを宿しているのはノアディルだけなんだよ! 凄いのはノアディル!」


 そう言って何故か自慢げに話すリアをノアディルは軽く抑止し、とにかく斬るから、自分の背後に居るようにと伝えた。


「ヴィオラ見ててね! 凄いから!」

「貴方、さっきまで止めようとしてなかった……?」


 そんな話をしながらリアとヴィオラは後方に下がった。


 ノアディルは右腕のブレードを展開し、その場で少しだけ力を込める。

 瞬間、彼の全身はかすかに光り、光の蒸気のようなオーラが体を包んだ。

 そして、ノアディルがブレードを水平に振るうと、周囲には一瞬の静寂が訪れた後、遅れて鈍い音が響いた。

 その瞬間、前方の木や岩は完全に両断され、エンジェルイーターもまた同じ運命をたどった。

 物の体は真っ二つに裂け、ゆっくりと崩れ落ちる。


 エンジェルイーターの残骸はやがて粒子となり、跡形もなく消えていった。


・・・

・・

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2XXX年のサイバーシティからファンタジー異世界に転移した少年 @TOYA_notte

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