第7話 生の食材

「どうやってあのグリーンスタッグを倒すんだ?」

「最初にノアディルに使った[ドラゴンフレア]で一網打尽にするわ。」


 ヴィオラは自信に満ちた声で答えたが、


「それだと肉が焦げちゃうんじゃないか?」


 とノアディルは心配そうに言った。


「確かにそうね……」


 ヴィオラは少しだけ考えると、


「なら、[ウインドカッター]で行くわ。風で切り刻む魔法よ」


 と軽く微笑んだ。


「それは良さそうだ」


 ノアディルは頷き、ヴィオラの行動を見守った。


(魔法ってすごいな。火だけじゃなくて、風も操れるなんて……)


 その間、ノアディルは魔法の力に感心せずにはいられなかった。

 ヴィオラは両手を胸の前で構えると、その掌に風が渦を巻くように収束し始めた。

 そして一気に手を押し出すと、鋭利な形をした複数の[ウインドカッター]がグリーンスタッグに向かって飛んでいった。

 その風の刃は見事に二頭のスタッグを切り刻み、あっという間に倒してしまった。


「これなら解体の手間が省けるわね!」


 ヴィオラは満足げに言い、グリーンスタッグの肉を回収してノアディルのデバシーに収納した。


 リアの元へ戻る道すがら、ノアディルは尋ねた。


「他にはどんな魔法が使えるんだ?」

「そうね、最上級までの魔法なら大体使えるわよ」


 そう言うヴィオラにすこし驚きながら、


「それって相当すごい事なんじゃないのか?」


 と言った。


「他の魔法士に会ったことがないから分からないわ。ただ、本を読んで試したらできただけよ」


 ヴィオラはそう淡々と答えた。


「最上級より上もいずれできそうだね」


 ノアディルがそう言うとT-0が


「小屋の本には最上級魔法までの知識がない為、難しいと思います」


 と答えた。


「その通り、それ以上の魔法……神話級魔法は本に載ってなかったの」

「そうなんだね……」


 ノアディルがそう言うと、


「いや、それよりその声を発する腕は何? 誰か入ってるの? ずっと気になってたのよ」


 と食い気味にヴィオラは質問してきた。

 その質問にT-0は


「名称はT-0。戦闘及び情報処理の補助を行う自立型AI機械です。現在は腕に装着された状態で、ブレードモードの待機中です」


 と答えるもヴィオラは困惑していた。


「ほとんど理解できない説明だわ……」

「簡単に言うと、話せる武器って感じだよ」


 ノアディルは微笑みながら言った。

 その後、ヴィオラはノアディルの腕や義眼をじっと見つめ、


「その腕と足、眼は、生まれた時からって訳じゃないわよね?」


 と聞いた。


「ああ、俺達の居た場所では自分を機械化するのが当たり前だったんだ。とは言え、生身の身体に埋め込むようなのが一般的だ」


 ノアディルは自分の腕を触りながら寂しそうな表情をした。

 そして、


「俺みたいに全部機械にすることはあまり無いだろうな……」


 と呟いた。


「機械……不思議ね」

「魔法も相当不思議だよ」


 そう言って二人は目を合わせて笑い合った。


・・・


 ノアディルとヴィオラがリアの元に戻ると、リアが明るい声で迎えた。


「遅いよ、二人とも!バイクはもう組み上がったよ!」


 そう言われ、ノアディルはキョロキョロとバイクを探すが、その姿は無かった。


「あ、デバシーに入れてるよ。ここを片付けたら出すね!」


 とリアは片付けながら付け加えた。


「じゃぁ私はご飯を作るわ」


 とヴィオラが言うと、ノアディルは手伝うよと言ってヴィオラについていった。


「ほう……少しは打ち解けているようだね……」


 リアは嬉しそうな表情でそう呟いた。


 ノアディルはヴィオラの指示で、デバシーから食材を次々と取り出していく。

 ヴィオラは出された肉を手際よく捌き、浅い鉄の鍋に入れてから、キーナの芽をその上に敷き詰めた。


「さっきのリンゴ? も出して。あれも一緒に焼くと良さそうね」


 ヴィオラがそう言うと、ノアディルはリンゴを二つ取り出し手渡した。

 そして、ヴィオラはリンゴをカットして鍋に追加し、蓋をして火にかけた。


「キーナの芽は焼くと塩味が出るの。それが肉にすごく合うのよ。リンゴの果汁でその味がまろやかになるはず。」


 ヴィオラの説明を聞きながら、ノアディルは思わず涎を垂らしそうになっていた。


「今まで嗅いだことが無い……最高の匂いがする……!」


 ノアディルのテンションは上がりっぱなしだった。


・・・


 ヴィオラが「そろそろね」と言いながら鍋の蓋を開けた。

 湯気と共に広がる芳香に、ノアディルとリアは瞬時に引き込まれた。


 鍋の中には、見事に焼き上がった肉と、塩味が染み込んだキーナの芽、そして飴色に変化したリンゴが美味しそうに並んでいた。


「美味しそう……!」


 ノアディルとリアは同時に声を出した。


「さぁ分けるわよ!」


 ヴィオラはそう言って手慣れた様子で肉を皿に取り分けた。


「これに出会えたおかげで、この世界に来て良かったと思えるよ……」


 ノアディルは料理を見ながらそう呟いた。


「本当だよね! もう帰らないでここに住んじゃう?」


 リアは冗談交じりにそう答えた。


「私はどっちでもいいわよ」


 リアに料理皿を手渡しながらヴィオラは言った。

 その言葉にリアは驚きながら嬉しそうな表情をした。


「え! ヴィオラはボク達について来てくれるの?」

「いや、そう言う意味じゃないわよ!」

「えー? じゃぁどういう意味?」


 ヴィオラはリアの質問にたじろいていた。


「この世界に残るか。それもいいかもな」


 ノアディルは二人の様子を見ながら言った。

 その言葉は冗談交じりではあったが、どこか本気も混じっていた。

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