最終戦0——深夜視点

「え、あの、それは……?」

 千郷さんがおどおどしている。いい表情だ。

「あのですね。だから、父が」

「戦いをやめないか、と、そうおっしゃっているのです」

 綾香さんの声が遮った。僕は頷く。

「あ、なるほどー」

 千郷は棒読みになっている。

「うんうん、あー、あー、はい、そういうのもー、いいかもね」

「えっと、話聞いてましたかー?」

 レフェリーの困惑。二人の対話。神しか知らない言語で。

「スチャ?(父?)」

「ウムル……イジ……アィ!(うん、そう!)」

「エ、ルーイ……(父の、何?)

「ワエルン(だから僕の父が)」

 こんなやりとりが続いた。

 そして何分かたち、クオーター1は終わった。

 話し合いが終わってしまった。

 僕は、大事なことを伝えられなかった。自分の父が、——千郷さんは、悟ってくれただろうか。僕が、あんなことを言ってしまった理由。

 父のことを僕は思い出す。酒を飲みながら笑う父。少ないトロフィーを掲げて、寂しそうに笑う——

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