起業して求人かけたら全員様子がおかしい異世界ギャグ転生

新米

第1話 勇者と魔王、雇いました

 ▼面接1▼


「出身はどこですか?」


「マーメイルスカーレット王国です!」


「……はい?」 





 私の名前は、工藤太一。30歳。高卒で就職して4年、その後、起業するという夢を叶えるために、7年間、全国のリゾート施設に派遣社員しながら通信制の大学に通っていた。30歳になって、自己資金にめどがたち、観光業が盛んな田舎で自給自足をしながら、カフェを営業している。そこそこ安定したので、人員を補充して、営業時間拡大と回転率を上げるため求人をかけた。3か月すると応募がきた。求人サイトは使わず、窓に求人募集の張り紙を出したかいがあった。ケチっていたわけではない。ほんと、誰もこないと思った。来た時はガッツポーズをしたものだ。

 さて、本日は面接日だ。桜が舞い散るこの季節、私はどのような人生を雇用を通して、応援ができるのだろう。お店のドア鈴が鳴る。


 チャランチャラン。


そこには、紫に近いロングヘアーが特徴的な美女がきた。おお、これはエプロン姿が様になりそうだ。


「こんにちは、ようこそおこしくださいました。」


「こんにちは。本日、面接をさせて頂きます。三浦優香です。」


「おー!面接の子だね。よろしくお願いしますね。」


「本日は。よろしくお願いします。」


「どうぞ、そこにおかけください。」


「はい、失礼します。」


「面接……の前に何か飲む?」


「……。」


「遠慮しないでいいから。そんなかしこまらなくていいよ。リラックスしていいからね?」


「ありがとうございます。それでは、アイスコーヒーをお願いします。」


「はい、承りました。」


 アイスコーヒーを入れて、三浦さんに渡す。


「はい、どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 パソコンを出し、履歴書の入った封筒を渡される。


「面接を始めましょうか。」


「はい。宜しくお願い致します。」


「お名前と出身地からお願いします。」


「ミウラ・ユウカです。出身地は、マーメイルスカーレット王国です。」


「……はい?」


 聞き間違いだろうか?話を進めよう。


「おほん。耳遠くなったのかな。年かなー。前職は何ですか?」


「勇者です。」


「……冗談?ハハハ、面白いね。どんなことしてたの?」


「悪役令嬢から転生して、魔王を討伐しておりました。」


「うんうん……うん?」


「世界を平和にしたことが私の強みです。」


「スケールが広いね……。」


「御社に入社した際には、お店の平和を守ります。宜しくお願い致します!」


 一礼するミウラさん。


「ねぇ君?さっきからふざけてるの?」


「いえ、本気です。」


「なんで女勇者がここに来てるんだよ!」


「求人募集に応募したからです。」


「その通りだけど、そうじゃないだろぉ!」


「先ほどから店長おかしいですよ?急に大きな声だして……。真面目にやって下さい。」


「お前が言うか!?」


「面接を進めて下さい。」


「……。えぇー、趣味・特技は?」


「趣味は、読心術。特技は剣技です。剣神の称号を保有しております。」


「け、けんしん?……就職先間違ってないか?それに心読めるってなに!」


「はい、店長が今私に抱いている感情は、書類審査で落とせば良かったですね。」


「まじかよ。」


「それは、雇用機会均等法に反すると思いませんか?」


「ここで法律持ち出すなよ。漢字のニュアンスだけで言ってるだろ。パラドックスして頭混乱するわ!」


「ツッコミがくどすぎて、胸やけしそうです。」


(貧相なむ―。)


 突如、剣が顕現し、喉元に刃を突き立てられる。


「女勇者は、そういう宿命を背負っています。どこが貧相って?」


(私も魔王と同じ末路かもしれない。)


 太一は額に汗をかき、青ざめる。


(やべぇーよ。とんでもない人来ちゃったよぉぉぉぉぉ。)


 さらに、喉元に刃を突き立てるミウラ。


「私を雇うか?ここで暗殺されるか選んでください。こう見えても、元々は悪役令嬢なのでうっかり手が滑ってしまいそうです。」


(キャラが大渋滞してるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!)


「店長に向かって、まずこの刃物を向けないでぇ!」


「雇いますか?」


「これ脅しだよね!?」


「私の世界では、戦争が日常です。これは、コミュニケーションです。」


「物騒すぎるだろ!」


「……。そうですか。もういいです。」


そういうと、ミウラは剣を大きく振りかざしてくる。


「雇いますから!命だけは勘弁してください!」


「ンフっ……よく言えました。」


 悪役令嬢の女勇者がいやらしくほほ笑む。立場逆転してないか?


 女勇者に脅されて始まる異世界生活。

工藤太一はこうして、異世界からきた女勇者と労働することになった。雇用を通して人生を応援するはずが、人生の窮地に立たされることになろうとは考えもしなかった。



 ▼面接2▼


 今日も面接だ。昨日、悪役令嬢女勇者を雇用した。働きぶりは見事なものだ。しかし、下心が沸いてしまうとこうなる。


「あー、手が滑ったー。」


 と包丁が飛んでくる。

お客様が下心を出すと。


「あー、手が滑ったー。」


 とフォークが飛んでくる。

弁護士に相談しようとすると、


「あー、手が滑ったー。」


 と川に投げられる。


「……。」


 このままでは命がいくつあっても持たない。お客様の客足も遠のいていく。


(こうなっては、まずい。どうにか、人を補充して、シフトを減らしてあげよう。)

(これは、働き方改革だ)

(決して、逃げているわけではない。)


 さて、面接の時間だ。桜が舞い散るこの季節、私を救うヒーローは君だけだ!

お店のドア鈴が鳴る。


 チャランチャラン。


「こんにちは、ようこそおこしくださいました。」


「こんにちは。本日、面接をさせて頂きます。京極魔王です。」


「……。」


 魔王が来てしまった。


 面接は沈黙から始まった。


「……。」

「……。」


 私から切り出さないとな。


「京極魔王くんだね?出身地は?」


「魔界です。」


「……。うん。そだね。」


「父と母はいません。負の感情から生まれるものなので。」


「そうか……大変な幼少期だったね?」


「はい。」


「では、次の質問です。魔王くんの長所と短所は?」


「吾輩の長所は、人々を恐怖のどん底に落としこむことです。短所は、最終回で必ず討伐されることです。その短所を克服するために、裏ボスを登場させます。しかし、それもチート勇者のレベルマックス廃人ゲーマーによって蹂躙されます。吾輩は、そのような卑劣な輩にも屈しない、諦めない胆力があると自負しております。」


「うん、しっかりSWOT分析ができているね。でも、お客様を恐怖のどん底には追い込まないでね?」


「はい。」


「えーどうして、ここに応募したの?」


「負の感情が強かったからです。とある女勇者が男客を跪かせ、ムチをもち、高笑いしている誰かの妄想を見ました。男たちは、それに馬乗りされようが、喜んでいるようでした。ここでなら、吾輩の強みも活かせると考えましたことが決め手になりました。」


(元悪役令嬢女勇者と奇跡的なシナジー生み出したるぅぅぅぅ!)


「うちはそういうことをするお店じゃないからね?」


「え?」


「そうだよ。カフェだから。」


「あー、女の店員さんがいるから。……ガールズバー?」


「ちげぇよ。」


「え?」


「え?じゃねぇよ。なに、きょとんとした顔してんだよ。」


「じゃーパフパフするお店か!」


「勘弁してくれよ。魔王ってだけでキャラが濃いのに、現代に精通した変態だよこいつ。」


「田舎にはそういうお店が少ないので、競合他社がいない。この一帯のシェアは独占できますぞ!」


「風営法違反で取締受けて、ネットニュースになるわ。」


「……残念です。」


「はいはい、それじゃ―、君の希望は何かない?」


「はい、貴社の規定に従います。採用された際には、精一杯働きます。」


「そうだねー。1週間後に連絡するよ。この履歴書返送しようか?」


(たいていこれで採用はされることはない。察してくれ)


「いえ、結構です。使いまわしはしません。」


「分かったよ。それじゃー連絡ー。」


 すると、女勇者が出勤してきた。


「あ!あなたは、魔王!復活していたの!?」


「お、お前は、勇者ユウカ!」


「ここであったからにはお前を倒す!」


 剣を顕現させる。


「ならば、迎え撃つが宿命ぞ!負のエネルギーを我に集まれ!」


すると、負のエネルギーが魔王に集まっていく。そのエネルギーは、なぜか映像化されている。

ん?なぜ私の寝室が?

あれ?私が出てきたぞ?

なんか、パソコンをみてる。

ん?手を……。


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 工藤太一は、勇者と魔王の間に入り、仲裁する。


「ヤメルンダ!」


「そこをどきなさい!店長!」

「これは宿命なんだぞ!店長」


「もぅヤメルンダ。……魔王は一緒に働く仲間なんだから。これ以上争うな。」


「店長……。」

「ほんとうですか!ありがとうございます!」


「持ち物はあとから連絡するから、とりあえず、今日は帰っていいぞ。魔王くん。」


「はい!吾輩、精一杯勤めさせて頂きます!失礼します。」


 魔王くんは帰っていった。そして、女勇者は私をゴミを見るような目で離れていく。


「店長……。自家発電……。」


「もう、やめてぇぇえぇぇぇえぇぇ!」


工藤太一は顔を真っ赤にして、うずくまってしまった。


 ▼面接3▼


 私、工藤太一は、元悪役令嬢女勇者と変態魔王を雇用した。

店長……、いや、マスターとなった。猛獣どもを飼いならしています。


仲良くなったので、ミウラさんからあだ名をつけられた。


「マスターベーションからちなんで、マスターって呼びますね?」


 彼女はニコニコしていました。

……。私たちは最強パーティー!思考放棄して前向きに頑張ろう!

このパーティーならお店も繁盛間違いなしだね!


となるわけがないのである。


なぜかって?こんなことが口コミに書かれてしまった。


『ハッピークラッシャー不祥事カフェ』……と。


原因は、魔王くんにあった。経緯はこうだ。


「魔王くん、1番カウンターにカフェラテ2つお願い。」


「はい!マスター!」


 カフェラテを運ぶ魔王くん。

それを受け取ったカップルのお客様は激怒した。


「どういうこと!ゆうくん!?この女だれ!」


「な!?どうしてこの映像が?」


「最低っ!」


 ベチン!っとぶたれる彼氏。


「浮気していたなんて!帰る。二度と連絡してこないで!」


「待ってくれぇぇぇ!」


 カップルの分かれる瞬間を目撃してしまった。戻ってくる魔王くん。


「マスター……あの男最低ですね。」


「……。」


 ほかにもこんなことがあった。


「魔王くんホットミルク2つ、3番テーブルにお願い。」


「はい!マスター!。」


 ホットミルクを運ぶ魔王くん。

それを受け取った夫婦のお客様は激怒した。


「どういうことだ!麻由子!?この男はだれだ!」


「……どうしてっ!この映像が!」


「男とホテル……家にまで連れ込んでいたのか……。」


 脳破壊される夫。


「違うの!あなた!これはドッキリよ!」


 見苦しい言い訳をする団地妻。


「しかも……この男、上司の……ウッ。」


 さらに、脳破壊される夫。


「違う!これは!リモートで……リモートよ!」


 見苦しい言い訳をする団地妻。


「……。探さないでください。」


「あなたァァァァァァァァァ!」


 泣き叫ぶ団地妻。戻ってくる魔王くん。


「あの団地妻……そそり……いえ、最低ですね。マスター。」


「……。」


 このことが世間様に拡散されて、カップルや夫婦がよりつかなくなった。


「どうしてくれるんだよぉぉぉぉぉぉ!」


 工藤太一は叫ぶ。


「どうしました?マスター?」


「まじで、勘弁してくれよぉぉぉ。あのカップルと夫婦常連だったんだぞ?」


「おかずではなかったんですか?」


「学生もこなくなるし!」


「世の中の学生は、だいだいただれてますからね。同人誌みたいに。」


「町のデートスポットになるって役所の人が言ってくれていたのにぃぃぃ!」


「公務員なんて体裁が第一ですから。」


「この口コミレビューされてから、広報も市長もドン引きだよ!なぞのカメラもった記者が張り込んでくる始末だよぉ!」


「恥を知れって言ってやりましょう。手のひら返しなんて役人とマスゴミの常道手段です。」


 頭を抱える太一。やれやれとする魔王。


「ふぅむ……マスター。どうせ、みんな不祥事が怖くて逃げたんです。」

「人間は裏事情抱えているもの。それでも、精一杯生きているから、魔王は敗れる。」


 遠い目をしている魔王。太一の肩を叩いてほほ笑む。


「吾輩がついています。安心してください!」


 キラーンと歯を輝かせた。


「安心できるかァァァ!」


 現在、恐怖のどん底に落とされている。みんな魔王砲におびえています。

……ということで、魔王くんのシフトを減らすため、新しい人を雇うことにした。

本日は面接日だ。桜が舞い散るこの季節、私は誰かの不祥事を回避して、明日を迎えることができるのだろうか。


 チャランチャラン。


「こんにちは、ようこそおこしくださいました。」


「こんにちは。本日、面接をさせて頂きます。マルディグラ=クリスティーンです。」


 精霊を携えているナイスバディな金髪碧眼美少女がきた。


「……。」


「……。」


(ものほんの冒険者キタァァァァァァァァァァァァ!)

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