第19話

「羊子が現れなければ、多分、悠は最終的には私の彼女――ううん、お嫁さんになってくれるって思ってた」

「お嫁さんって、……無理じゃん」

「ふふ。未来はまだ分からないじゃない。――まあ、それは置いておいて。良くも悪くも私たち、私と悠の関係はこのままじゃ変わらないって思ってしまったの。ごめんね。悠は羊子が好き、なのに」


 永遠とわの瞳から雫が落ちていく。あの日、子どものようにぐずって泣いた永遠とは違う、自分だけ大人になったフリをして全部を諦めた永遠の姿だった。


「……う。違う!」


 羊子ちゃんが声を張り上げて、永遠をにらんだ。


「悠センパイはあなたの事が好きだって何で分かんないの!?」

「いいの、羊子。私、分かってるから。」

「悠センパイと一緒にいて、嫌ってほど分かった。悠センパイが本当に好きなのは永遠さん、あなたなの。悠センパイが優しくて女の子に甘い事を知って、体を重ねても、心までは手に入らなかった。あたしを通して見ていたのは永遠さん! あたしは永遠さんの代わりだった! ……そうですよね? 悠センパイ!」


 羊子ちゃんの大きな瞳から大粒の涙が溢れる。静かに諦めの涙を流す永遠と違って、羊子ちゃんの涙は情動的だった。


「悠、私には分からないわ。本当にあなたが好きなのはどちらなのか。私は羊子だと思っているけど、羊子は私だと言ってくる。あなたの心はどこにあるの? 私たちのどちらをあなたは選ぶの?」

「私、私は……」


 ドクン。

 大きく心臓が鳴る。

 

 不器用な私を信じてずっと側にいてくれていた永遠。

 私の寂しさを理解して愛して心の隙間を埋めてくれた羊子ちゃん。


 二人は性格も容姿も出会いも過ごした期間も全然違う。違うのに、どうしてなんだろう。

 どうしてこんなにも二人の事が好きで好きで仕方ないんだろう。


「そんなの選べない。……最低だと思うけど、私、二人の事が同じくらい好き。ごめん、ごめんなさい……。最低で、……ごめんなさい」


 私の「ごめんなさい」は語尾が掠れていて、汚い声になる。喉も目頭も鼻の奥も熱くて痛いけど、本当に辛いのは二人だから私は今にも出て来そうな涙を堪えた。


 二人の事が好き。

 選べないから。とは言えなかった。

 こんな最低な私に泣く権利なんてない。


「悠センパイはあたしと永遠さん、どちらも好きなんですか?」

「うん……」

「…………なるほどね。想定外ではあるけど、悪くはないと思う。あなたはどう思うの? 羊子」

「まあ、不本意ではあるけど、それが悠センパイの出した答えなら」


 悪くはない。不本意。

 ローテーブルの向こう側で繰り出される言葉にピンと来ない。

 そのうち何かを納得して頷きあった二人の視線が私の方へ向く。


 私の予想とは違って二人の顔は喜びに満ちていた。

 びっくりするぐらいの笑顔。それもわざと作った笑顔ではなく、蕩けるような心底嬉しいって感じの笑顔だ。


 タイプが違うとは言え、顔面偏差値九十オーバーしてそうな二人の笑顔なんて直視出来ない。目が、目がぁぁぁっ……!


 気が付くと永遠が私の右隣、羊子ちゃんが私の左隣に座っていて、三人でベッドに腰掛けていた。


「悠」

「悠センパイ」

「ふぁいっ」


 美少女二人を両隣に侍らせた(?)私はまさしく両手に花状態な訳で。

 それだけじゃなく、好きな人……ライク通り越してラブな人が側にいて、緊張しない方がどうかしてる。


 私の心臓が和太鼓なら和太鼓選手権世界一を取れそうなぐらい心臓がドコドコいっている。ちなみにそんな選手権があるかは知らない。


「末永く幸せになりましょうね?」

「私たちを惚れさせた責任、ちゃんと取ってね?」

「は、え? 幸せ? 責任? え、え? な、何? なんで……?」

「なんでって悠がどちらかを選べないんなら」

「あたしたちが悠センパイを選びます」

「私たち三人で」

「「彼女カノジョになりましょう?」」

「えぇぇ!?」


 驚いた私を素早くベッドに押し倒して、素っ頓狂な叫びをあげた色気ゼロの唇を塞いだのは羊子ちゃん。

 その隙に色気ゼロの部屋着のズボンを脱がしたのは永遠。


 本当に仲良くないのか疑わしいほどの連携の取れた手付きで、今からに及ぼうとしてくる。


 押し付けられた羊子ちゃんの唇は息継ぎをさせない長いキスだった。

 逃げ惑う舌を絡めとられて、唾液が唇の端から溢れる。

 頭が酸欠でぼんやりとしてきた頃、ようやく羊子ちゃんのキスが終わった。

 大きく息を吸い込むと、じんじんと頭が痺れる。


 するとすぐ様、今度は永遠が私の唇を塞いだ。

 羊子ちゃんの情熱的なキスとは違って、永遠はゆっくりと私の唇を啄む。

 ちゅ、ちゅ。と、合わさった唇から濡れた音が小さく漏れる。優しくも私の官能を的確に刺激するキス。


「はい、バンザーイ」

「ふふ、悠センパイ、イイ子」


 部屋着のTシャツを脱がされ、私はブラジャーとショーツだけの姿にされる。

 永遠と羊子ちゃんが、じぃっと私のその姿を見ていた。


 二人の熱に浮かされた潤んだ瞳に見つめられるだけで背中が粟立つ。

 今は触られていないのに、二人の視線が私の顔に、胸に、お腹に、脚に、そして、ショーツに向けられるだけで、期待して体がぶるりと震えた。


「あたし、悠センパイのおっぱい好きです。適度な大きさで感度が良くて」

「私は悠の全部が好きだけど、あえて言うなら脚かしら。健康的で美味しそう」


 羊子ちゃんは迷わず私のブラジャーを外すと、やわやわと私の胸を優しく揉んできた。


「や、あっ……だめっ……」


 性感帯を刺激されて身悶える私の脚を永遠が掴んだ。そして太ももの内側、ショーツのクロッチ付近の一番柔らかいところに舌を這わせてくる。熱く滑る舌先が私の体に火を着けた。

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