第11話
薄闇の中で意識が浮上する。慣れない肌触りのシーツと見慣れない部屋の風景に、私は今、自分がどこにいるか把握出来なくて焦って体を起こした。
ぼんやりした柔らかな優しい光の加減の明かりがベッドサイドのオシャレな卵型のランプだと気付く頃にようやく私は羊子ちゃんの家にいる事を思い出した。
「ん〜……、センパイ……?」
隣の温かな塊がもぞもぞと動いて私を『センパイ』と呼ぶ。
眠気をふんだんに含んだその声は、当然ながら家主である羊子ちゃんの声で、私は一気に意識を失う寸前の事を思い出して顔が熱くなった。
よく見れば私は一糸まとわぬ姿で、横で寝ていた羊子ちゃんは薄いピンクのベビードール姿である。
その事実にさらに羞恥心を掻き立てられる。
「あ、わ、私っ、帰らなきゃっ」
「んー、もう終電行っちゃいましたけど〜?」
私につられてすっかり目が覚めた様子の羊子ちゃん。
私は思わず女の子が二人で横になってもまだ充分な広さを誇る大きなベッドの上をジリジリと移動する。……てか、なんか本当に広いな!? キングサイズかな!?
「ベッドはクイーンサイズですよ、センパイ」
どうやら以前と同じように口に出していたようで、私の疑問に羊子ちゃんが律儀に答えてくれる。
言われてもクイーンサイズとキングサイズの違いなんか分からないけど、私の愛用するシングルサイズのベッドよりは遥かに広い事だけは理解できた。
「昨日のセンパイ、とっても可愛かったですよ」
「い、言わないでぇ……」
私は布団を被って亀みたいに丸くなる。
解決しなきゃいけない問題(永遠との事)を抱えているのに、拘束されていたとはいえ、羊子ちゃんと一線を越えてしまうなんて……。
もちろん羊子ちゃんとエッチをしたくなかった訳じゃない。好きだし恋人だし、いずれはそういう事もしたいって思ってた。思ってたけど!
一方的に私だけエッチな事をされて歳上としてリードも出来ずにヤられっぱなしって情けない……。
いやそれ以前に
「羊子ちゃん、聞きたい事があるの」
「なんですか?」
永遠と羊子ちゃんの関係。何かしらの因縁。
きっとここまで関わってしまったら、もう私は無関係ではいられない。
意を決した私は布団から這いずり出て来て改まって正座をしながら羊子ちゃんに質問した。
「羊子ちゃんと永遠って……」
「何で今、
「え……?」
穏やかに微笑む羊子ちゃん。その目は笑っていなかった。背筋がゾクッとする。得体の知れない悪寒に血の気が引くのを感じた。
「あの
「ち、違っ……」
「じゃあ、嫌い?」
「え、あ、その……、と、永遠は、大切な友達で……」
「大切、ねぇ……。あたしとどっちが大切ですか?」
「そんなの……比べられない、よ……」
「ふーん……。ま、いいですけどね。センパイがあの人を好きでも大切でも」
声色も表情も穏やかなのに羊子ちゃんの
その時だった。
――くしゅん。
空気を読まない私の鼻からくしゃみが出てしまったのは。
夏手前とはいえ、事後(恥)で一糸まとわぬ姿には肌寒い季節。
ぽかぽか温かな布団から出てしまった私の体は思った以上に冷えてしまっていた。
くしゃみが出た私は、きっと赤かったり青かったりしているんだろう。
恥ずかしいやら、焦る気持ちやら、色んな感情で一杯いっぱいだ。
「……ふ、ふふ。くしゅん、って。……あー、もう。……ごめんなさい。体、冷えちゃいましたよね?」
羊子ちゃんの肌を刺す氷のような雰囲気はいつの間にか消え失せていて、私の体に柔らかな毛布をかけるその眼差しは、まるで「しょうがない人」と語りかけてくるようだった。
「センパイ。センパイからキスしてくれませんか?」
「え、えぇぇ!?」
羊子ちゃんからの突然のお誘いに私は戸惑ってしまう。
そりゃ散々たくさんキスしたりそれ以上もしてしまったりしたけど全部受け身だった。
まだ私から羊子ちゃんへ恋人らしい事は何一つ出来ていない。
ゴクリ。羊子ちゃんにまで聞こえたかもしれない大きな音で生唾を飲み込んでしまう。
羊子ちゃんは既にまぶたを閉じて顔をやや上にしてこちらに顔を向けていた。いわゆるキス待ち顔というやつだ。
ベッドサイドのランプの柔らかな光だけ私たちを照らしている。その僅かな光が羊子ちゃんの可愛さを最大限に引き出していた。
羊子ちゃんの着ている薄いピンクのベビードールの肩紐の片方がずれている。
透け感のあるベビードールの下には薄っすらと羊子ちゃんの下着姿が見えた。
可愛さと色気が奇跡のコラボレーションを果たしている。
この際だからハッキリ言おう。
羊子ちゃんのキス待ち顔は果てしなくめちゃくちゃ可愛いと言う事を。
可愛さが限界突破していて、私からキスをするという緊急事態に脳がエマージェンシーコードを発動する。色で言えばオレンジ。すなわち緊急避難せよ。
だけど私は羊子ちゃんの事が好きだって事を証明しなきゃならない。
私は永遠との事で羊子ちゃんを不安にさせてしまっているんだと思う。
さっきの羊子ちゃんの冷たい雰囲気も私への不信感が原因……、のような気がしていた。
私は羊子ちゃんの両肩に手を置く。きっと私が緊張で震えているのが伝わっているだろう。
私は顔を近付けて羊子ちゃんの柔らかな唇に自分の唇を優しく押し付けた。
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