ANOTHER END 〜キミが辿った1つの未来〜

@thirdXross

第1章「図書室の魔女」

第1話「天上の誓い」

僕の名前は風宮竜かぜみやとおる。竜と書いてとおると読むのだ。ほぼ100%りゅうって呼ばれるけど。

星翔せいしょう学園に通う普通で平凡な高校2年生であり、普遍的で変わらない毎日を送っている。

いや、送っていたはずだった。

今日この日、彼女に会うまでは。


「さあ愚者よ、共にこの学園を統べようぞ!」


初対面の。

開口一番の一言目がこれである。

まさしく異常。おそらく、僕の人生の中でも一二を競ってもおかしくは無いほどの異常。いや、ぶっちぎりの1位である。


「あの、僕たち初対面ですよね…いきなり人の事愚か者呼びはちょっ」

「愚者は愚者であろう?それとも何か?ザ・フールと横文字で呼んで欲しいのか?全く、欲張りな奴だ」


言葉を遮られた。しかも畳み掛けられた。

やばい。目の前のこの女は間違いなくネジが2本は確実にとんでいる。

内心ビビり散らす僕だったが、あまり顔には出さないでいられたのか、目前の少女はまるで平静を崩さなかった。いや、これ多分僕のこと見てないな。目は開けてるしこっち向いてるけど見てない、そういうの分かる時ありますよね。


「いやあの僕はそもそもあなたの名前も」

「私は天上華恋てんじょうかれん。音楽室の天上人コンダクターと呼ばれている」


誰に?と口を出しそうになったので必死になって手で抑える。

いやほんとに。

1年間は間違いなくこの学園に通ってるけど、そんなフレーズ一回も聞いたことないんですが?。

頭の中ではてなマークが2、30周はした頃、再び彼女は告げた。


「そして其方は放課後の愚者━━━━━風宮竜であろう?」


そんな、ツッコミどころ満載の彼女のセリフを他所に、僕はある1つの疑問に思い至っていた。

どうして、こんなことになったんだっけ。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


春満開のこの季節。

花粉も全開のこの季節に、僕の鼻は限界を迎えつつあった。

昼も夜もなしにくしゃみと鼻水の応酬に手を焼かされ、目ん玉の痒みに一度手を出したら止まらなくなるギャンブル味を感じながら新学期の初めを過ごしていたのである。

そんな、始業式から1週間が経った頃のこと。

僕は旧軽音部の残していった備品を整理する仕事を担任から(なぜか)押し付けられていた。

初めに言っておくと、軽音部との関わりは一切ない。マジで。だから最初やれって言われた時は本当に困惑した。

"旧"軽音部なだけあって昨年度の卒業生が最後の代だったらしく、今は部員が居ないということで、その軽音部の顧問である僕の担任が備品整理を仰せつかっていたのだ。

卒業前にやれ、という話である。


「うぅ……先週金曜に発売されたばっかのゲーム進める予定だったのに」


ベリアルダイスと呼ばれるRPGなのだが、これが結構面白い。サイコロの出た目で主人公のパラメーターやスキルが変動するギャンブルチックなギミックもあり、これが大きな特徴だろう。何せ、ほぼ全てのダンジョンやボス戦で付きまとってくるシステムである。又聞きしただけだとイライラしそう感半端ないだろうが、これが結構イライラする。普通に。

そのせいでここまでは進めようと思ってゲームを始めても全然進まなかったことが割とあった。ストレス値半端ないのである。

今回発売されたのはナンバリングでの最新作ということでベリアルダイス3と題打っている。


「つべこべ言わずに手を動かしてな」


と、僕の呟きに反応したのは件の担任の青山教諭である。青山先生のことで僕が紹介できるのは世界史とか歴史系担当ってことと意外と着痩せするタイプだということ。いらないや。

多分どこで自己紹介するにしても絶対言ってるからねこの人。


「なんで僕なんですかね…。音楽室使う人たちに手伝ってもらえばよかったじゃないですか。ほら、吹奏楽部とか」

「うちのクラスで部活入ってないの風宮だけだからな」


ハハッと笑いながら理由を告げられる。

そういえばそうだった。クラス替えしたばかりで新しいクラスメイトたちについてあまり気にしたことはなかったけどそうだ。

この一週間、僕は帰りに教室を出る度に思っていたっけ。

なんで皆帰らないんだろ?って。


「それはそうですけど…」


特に気の利いた返しもできるはずなく、ぐうの音も出ない僕だった。

そんなこんなで1時間半ほど2人で作業を続けていたのだ。ちなみになぜ2人だったのかは青山先生の目算で2人いれば終わる作業だと思ったから、とのこと。1時間半もかかったけどね。

まあ、広くない音楽準備室だし2人か3人と見繕うのが妥当だなと思う自分も居るのでグチグチ文句は口に出さないでおく。

作業が終わり、戸締りを任された僕は音楽室と準備室の鍵を握りながら忘れ物等ないか確認をした後。

ようやく終われる、そう思って準備室を出て鍵を閉めようとした時のことだった。

ガラガラと音を立てながら音楽室のドアが開けられたのである。

全く警戒していなかったこともあり、体全体でビクッと震えてしまった。

誰が開けたのか、恐る恐るドアの方に目をやると、わざとらしく歩幅を広く保ちながら悠々と歩みを進める変な女子生徒が居た。

彼女は室内を見渡した後、僕という人影があることに気づいたらしく、こちらに向かって歩みを進めてきた。

そして開口一番。


「さあ愚者よ、共にこの学園を統べようぞ!」


これで、現在に至るのである。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…なんで僕の名前知ってるんですか?」

「見れば分かる。私は"天上人コンダクター"だからな!」


答えになってないんだよな。僕の方は一切心当たりないのに。

全く知りもしない面識のない人から一方的に知られてるのって、こうやって直面してみると案外恐怖してしまうものなんだな。

結構本気で怖い。


天上人コンダクターさんh」

華恋かれんで良い、私が許す」


いきなり名前呼びとかハードル高いの!

んでもって苗字呼びもちょっと怖いから別の称し方で呼んだのに。

あと言葉さえぎらないで欲しい。その癖は治すべきだと思う。口に出して注意はしないけど。


「か、華恋さんは何の用事でここに?」

「無論、其方を探していた」

「へ?僕を?なんd」

「私にとって必要だからな。其方は」


ほんとグイグイくるなこの子。

疑問符をつける余裕くらいくれよ。

うーん。本当に欠片ほどの心当たりもない。見てくれはめっちゃいいし、これだけ整った顔立ちの子なら印象に残ってるはずなんだけど。

いったい何者なんだこの子は。


「私の未来のために」

「はあ……。それで、僕に何させたいんです?」


言っておくが僕は結構めんどくさがり屋だ。今日だって頼まれたから作業してただけであって、自主的にこういうことをやる気は起きない。何度でも言うが、やる気は起きない。

ただ、わざわざ僕に頼んでくるという事情を考えるとどうしても断れないのだ。別に力仕事も手作業も得意な訳では無いし、僕やりますよーみたいな雰囲気を醸し出している自覚だってない。むしろやだやだオーラならオート稼動中である。


「其方は知っているな?星翔学園に潜む8名の異端者の存在を」

「いや、知らないですけど…」

「その8名だが、このまま放っておくと良くないことが起きてしまう」


想像は容易い、と続ける彼女。

何を言っているのだろうかこの人は。素直にそう思ってしまった。こっちの話聞かないし。

まず異端者とは。はぐれ者?超能力者?たしかに、いやに人気のある生徒なら居ないこともないけど。

彼女の物言いは、僕の理解とはまた別のものであるように聞こえた。


「私と其方で変えるのだ。この学園の未来を」


言葉だけとってみれば。

口で言うだけなら、という風に捉えられても仕方がないような言葉。

だけど僕は、対面した彼女に気迫のようなものを感じていた。

まっすぐと、真摯に正直に。

彼女のどこにも、ふざけた様子は一切なかった。

だから、決めてしまった。

これから先、きっと多分。何度でも言うが。

僕は、頼まれると断れない性質たちなのである。


「まだ、イマイチぱっとしないんだけど」


めんどくさがり屋なのに、頼まれると断れない性質なんて矛盾してないかと我ながら思っている。

自称めんどくさがり屋なんて言われたこともある。

でもそういう矛盾があるのが人間なんだよな、と最近は思うようになった。

誰だってひとつの考えを一生貫き通すことは容易いことではないだろう。もしそんなことができるなら、それは羨ましいと感じる。

これは、人によって感じ方が違うかもしれないけど。

妥協のない一生、なんて幸せそのものだろう。

僕はそう思う。


「僕に手伝ってほしいってことは伝わったよ」

「…そうか。そう言ってくれると信じていた」


まだ手伝うと返事した訳じゃないんだけどな。

どうやら快諾の言葉と受け取られてしまったみたいだ。

今回は言葉を遮られなかった。そのことが彼女の動揺を表しているのではないか、そんなことが頭をよぎりはしたけれど。

彼女も自分で自分がおかしな態度をとっていることに自覚があるのかな。

このテンションを維持するのって疲れそうなものだろうし。

実際、相手をしている僕の方が疲れてきそうなんだけど…。

そんなこんなで、気がつけば良い時間だった。

音楽室の外に人の気配はない。ただ、沈む夕陽を横目に、僕と彼女が音楽室で佇んでいるだけ。

数瞬の間、脳内に駆け巡る思考の電流。

彼女は、僕を探していたと言った。

面識はなく、名前すら聞いたことがない。なら、彼女の正体として考えられることは絞られてくる。


「きみ、1年生でしょ」

「ああ、言ってなかったか。其方の後輩にあたるな」


一応、後輩であるという自覚はあるようだが、口調が変わる様子はなかった。彼女は素でこのキャラクターを貫いているらしい。

自分語りになるが、人の顔を覚えるのには自信がある。名前があれば尚更だ。そんな僕だから、彼女の顔を見た事ないことには確信があった。

一つだけの、違和感を除いて。

上手く説明できないけど、なんというか、彼女はこの学校に馴染んでいるような、そんな気がした。

見たことない顔、昨年一文字として校内で交わされなかったその名前、だから彼女が新入生だと結論付けたわけだけど。

なぜか、彼女はこの学校の生徒として馴染んでいるような気がした。

たった1週間、されど1週間ということか。


「それじゃ改めて。これからよろしくね」

「こちらこそ。よろしく頼む」


自分でも流されやすいな、と思ったけど。結局悪くないと終着するのが僕という人間なのだ。

これが、僕とおかしな彼女の出会い。

そして、物語の1ページ目である。

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