第2話 俺、和風なファンタジーに転生する。
転生したわ。
もしくは、超技術で俺の記憶だけを体験した赤ちゃんが産まれたかだ。
「夜虎! 夜虎! 頑張れ! 頑張れ!」
生後半年近くがたった。
俺は我が家で、母さんに向かってハイハイしている。
畳がちょっと膝に痛い我が家は、日本家屋である。
たまに外を見るが、田んぼと川しかない。
テレビや冷蔵庫といった電化製品もあるので、現代なのだろう。
俺は日本に生まれ変わった……ということか?
「きゃぁぁ!! 夜虎は天才よ! ハイハイ界の天才よ!」
「だぁ!」
「この麗しいお目目! ぷにぷにのほっぺに、まるでちぎりパンのような腕! 完ぺきだわ! 天才よ! THE 赤ちゃんよ!」
俺は今日何十回目だと、ただ母さんが喜ぶので、やれやれとため息まじりにハイハイする。
しかし、めちゃくちゃ褒めてくれるので悪くない気分だ。
それにハイハイですら前世ではできなかったからな。
全然楽しいぞ。ハイハイ。もっとやろうぜ! ハイハイ!
「あ、そろそろおっぱいの時間ね。チューチューしましょうね」
「だぁ」
そういって俺を抱きかかえて、おっぱいを吸わせる。
前世もまだガキだったとはいえ、少し気恥しいが生きるためには仕方ない。
しかし、これが遺伝のなせる業か知らないが、一切そういう目で母親を見れないのだ。
そも赤ちゃんの体に性欲なんてないのだろうが。
しかし、俺の母は見れば見るほどに美人である。
名を香織と言うらしいが、黒髪ロングの大和撫子といった感じか。
俺を見るときだけは光悦の表情でヤンデレみたいな顔になる。ちょっと怖い。
そのあとトントンとされながら俺はウトウトと眠りについた。
しばらくして目を覚ますと、母親はテレビを見ていた。
俺はベビーベッドの上で、体をごろんとさせ、テレビを見る。
そこには、何度もみたことのあるニュース番組と同じ形式で今日起きた出来事が流れていた。
「続いてのニュースです。本日正午、霊度3の
前言撤回します。
ここ日本っぽいだけでした。
なぜならテレビの画面には、真っ黒な鬼のような化け物がいた。
そしてそれを何やら稲妻のようなものを纏った男が、まるで手を槍のようにして貫いていた。
筋肉モリモリの人間にしか見えないが、まるでターミネーターだ。
革ジャンがやけに似合う。
「わぁ! パパかっこいい!」
「だぁ……」
よく見ればあの筋肉モリモリマッチョマンは俺のパッパだった。
たまにしか帰ってこないが、あの嘘みたいな筋肉は確かに父親だろう。
肩にちっちゃい重機でも乗せてるのだろうか。
どうやらこの世界は日本、並びに世界はそのままに
「帰ったぞ! 夜虎は元気か!」
「あ、パパが返ってきたわよ」
「だぁ」
すると先ほどテレビに映っていた父親が帰ってきた。
帰ってくるなり、俺を抱きしめてヒゲでじょりじょりしてくる。
痛いからやめてほしい。
俺は引きはがそうと、力強く叫んだ。
「だぁ!!」
「愛い奴、愛い奴」
だめだ、何も伝わらん。
「あなた、夜虎が辛そうよ? ほら」
「む? そうか……すまない、夜虎」
そういって俺は母親に渡された。
やはり母さんの方が安心するな。
するとスマホらしき音がなり、父さんがスマホを見る。
「……すまない、また
「もう? やっと帰ってきたのに……たまにはおやすみしても」
「そうはいかん。せめて俺が頑張らなくては。ただでさえ紫電家は日本守護の任すらも危ういのだからな。それに誰かが俺の助けを求めている!」
「もう……好き!」
「俺もだ! 香織、夜虎! 愛しているぞ!!」
そういって母さんと俺にキスして、父さんは走って行ってしまった。相変わらずラブラブである。
東京といっていたが、こんなド田舎と東京を往復とは相当に多忙なのだろう。そもここはどこだ?
まぁこれからわかるだろう。のんびりいこう。
その夜のことだった。
俺はベビーベッドを卒業した。
布団の上で母親は嬉しそうに俺をぎゅっと抱きしめて、ずっとなでなでしてくる。
だが、俺もこのときをずっと待っていた。
母親が完全に眠ったことを確認して、ハイハイする。
ふすまを開けるのは結構な力が必要だったが、なんとかこじ開けてリビングまでハイハイする。
これが洋風の家だったなら、ドアを開けることはできなかっただろう。ふすまでよかった。
「だぁ」
居間には、ずっと気になっていた本棚がある。
そこには今日から始める呪術基礎編という本があった。
「だぁ」
前世ならただの創作か、ファンタジー小説か何かだと思っただろう。
しかし、この本はきっと本物だ。俺の直感がそう言っている。
本棚の一番下の段にあってよかった。
俺はそれを手に取って開く。
なになに? 呪術と呪力――日本ではそう呼ぶが世界では魔術並びに魔力と呼ぶのが一般的だ。
呪術とは……呪力と意思により、指向性と性質変化の属性を与えたものである。
いいぞ! やっぱりこの世界には魔法がある!
そこには、どこかで聞いたことのあるような内容が、確かに体系的に書かれていた。
俺はそれを夢中になって読みふけった。
まるでファンタジー小説を読んでいるようで、わくわくした。
ゲームや、アニメの中だけの魔術。
それが今俺の手元にある。そして使えるようになるかもしれない。
気づけば朝まで俺は読みふけっていた。
まだ半分しか読んでないが、しかし、俺がいないことを知った母さんは、めちゃくちゃ焦るだろうから戻っておくか。
俺は本を閉まおうとする。
しかし最後だと、一つだけ試したいことがあった。
呪力は誰にだって存在すると書いてある。
そして生まれ持った性質は、決まっているとも。
例えば水、例えば氷、例えば炎などの五行が基本だが、風や光など様々な種類があるらしい。
生まれ持った呪力、そして生まれ持った属性。
その二つを駆使して、祓魔師は
ならば俺はどうなんだろうか。
この世界に生まれなおして、俺は一体どんな力を持っているのだろうか。
まだなんで俺が転生して、もう一度チャンスを与えられたかはわからない。
でも一つだけこの人生で決まっていることがある。
病院で、生まれ、病室で生涯を過ごし、生みの親からも捨てられた俺。
後悔しかなかった人生だ。
だからこそ、今度こそ俺は全力で生きる。
ならあんな化け物が存在している世界で、強くならなくては。
まぁ理由なんて色々つけれるが結局のところ一つだけだ。
――わくわくする。
前世では歩くことすらできなかった俺が、呪力という不思議パワーであんな化け物と戦えるほど動けるかもしれない。
怖さもあるが、そんなもの一生動けず、あの狭い部屋で死を待つだけに比べれば些細な事だ。
今度こそ、目いっぱい走りたい。
俺は、願い、そして眼を閉じる。
本に書かれていたように体の中の呪力を意識する。
産まれてからずっと体の中を熱いものが巡っているのを感じる。
理解し、意識するだけで、体が熱くなってきた。
自分の意志でこの熱は加速するように、体中を高速で巡っていく。
そうだ、これを勢いそのまま手から放出すれば呪術になるのだろか。
難しい。
でもできそうだ。
本には、意志こそが呪力を動かすと書かれている。
意志の力で何とかなるのなら、俺ならきっとできる。
どう願っても、どう頑張っても。
何もできないあの時に比べれば!!
俺の意志はこんなにも熱く燃え滾っているのだから。
「だぁ!」
バチッ!
床が焦げた。あとめちゃくちゃ眠くなった。
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