第16話 続・夏の日のお出かけ
たどり着いたラノベコーナー、数えきれないほどのラノベが表紙をのぞかせている。メジャーな異世界、学園ものからそこまで有名ではない伝記や群像劇まで、幅広いジャンルが置かれている。
白石さんと一緒にそれらの中から目的の作品を探しだす。他の人から見れば何気ないことに感じるかもしれないが、オタク心としてはこういう仲間と一緒に探求する時間こそが最も幸せなひと時なのだ。
「あ、大宮君、ありましたよダンバズ」
「ほんと? どこどこ」
「これです」
「あったあった、ありがとう。そういえばさっき向こうの棚に白石さんが好きそうなのがあったよ。表紙に青髪の女の子が書いてあるやつ」
「そうですか、じゃあちょっと見てきますね」
白石さんが探しに行くのを横目に見ながら俺は他の作品を探すために今いる本棚の裏側に回る。するとそこにはひとりの先客がいた。
俺よりは少し年下目に見える少女。肩より少し下まで伸びた黒髪はきれいに整えられていて、俺の姿に気づくと一瞬こちらを一瞥したがすぐに手元の本に目を戻した。
俺は少女の邪魔にならないように隣に立ち目当ての本を物色する。本に目を走らせている間、ライトノベルの読みすぎで一瞬何か話しかけられたりするのかと思ったりはしたのだが、もちろんそんなことはなくお互いに黙って手元を見つめるだけだった。
しばらくして探していた本を見つけたので俺は白石さんのいる本棚に向かった。
「どう? 見つかった?」
「ありましたよ。やはり大宮君のおすすめはいい作品が多いですね」
「てことは買う感じ?」
「はい、そうすることにします」
あらかた購入する本を探し終えたので、俺たちは本命の良作漁りを始めることにした。探し方としては定番のあらすじ評価から個人的邪道の表紙買いまでいろいろあるのだが、俺は基本あらすじを読んでからさらにネットのレビューまで読んでから決める。
ネタバレを食らうこともたまにあるのだが、それよりも精度が上がることの方が大事だと考えているのだ。あと金欠だからね……
「白石さんってさ」
「なんでしょう?」
なんとなく気になったので白石さんにも聞いてみることにした。
「本選ぶときってどこを見て買うか決めるの?」
「あんまり意識したことはなかったですね……でも軽く触れてみて直感でいいなと思ったものは買ってみることにしてますよ」
返ってきたのは意外な答えだった。てっきり白石さんはそういうところは慎重に選ぶのかと思っていたのだが。
「ちなみにさ、表紙買いってする?」
「……しますね、わりと。それなりのレベルの作家さんにはそれなりのレベルのイラストレイターさんがつくと思っているので」
「実際どうだったの」
「まあ若干良い作品の割合が増えはしましたけど、あんまりおすすめはしませんね……」
白石さんも表紙につられている自覚はあるらしく自嘲気味に笑う。まあ表紙買いも悪ではないのでイラストが好きな人にとっては適した手法ではあるだろう。
「私次はあちら側の本棚を見に行きますけど大宮君はもう見ちゃいましたか?」
「いや、まだだよ」
「それでは一緒に行きましょう」
白石さんが選んだのは先ほど黒髪の少女がいた本棚。しかしたどり着くともう彼女の姿はなかった。
「あ、大宮君これなんかどうですかね。会えないAI彼女の育て方、あらすじは結構いい感じですよ」
白石さんが自信あり!といった表情で手渡してくる。どれどれといって受け取って試しに目を通してみると、確かにストーリーのあらすじは悪くない。むしろいいのだが……
「ごめん白石さん、俺人外キャラ苦手でさ。でも確かにストーリーはよくできてると思うよ」
「なるほど……それはすみません」
先ほどとは打って変わってしゅんとした表情を見せる彼女。なんだか最近表情豊かになってる気がするのだが気のせいだろうか。
「そういえば大宮君が苦手なジャンルは初めて聞いた気がします」
「そう?」
「そうです、ネットのアカウントを見ているとこの人は好き嫌いが無い人なのかと」
「いやいや、全然好き嫌いするよ」
「なんか意外ですね……ふふっ」
急に笑いだした白石さん。まったくツボがわからず俺は少し困惑した。
「どうしたの? 俺なんか変なこと言った?」
「大宮君も人間らしいところがあるんだなって」
「なるほど……?」
「まあ気にしないでください。そんなに悪い意味でもないので」
いまだによくわからないが白石さんが言うならそうしておこう。
それから1時間弱ラノベ漁りを続けた後、俺たちは会計をすませ休憩に店舗内にあるテナントのカフェに入ることにした。雰囲気としてはスター〇ックスコーヒーをもう少しカジュアルにした雰囲気のお店だ。
店舗内に入ると休日ながら仕事をしている人が数人、俺たちと同じように読書をしている人も結構見受けられた。
「俺はこのチョコバナナミントフラペチーノにするけど、白石さんは決まってる?」
「すみません、少し迷っています」
「いいよ全然、ゆっくり選んで」
入り口にあるメニュー看板を見つめる俺たちを中のカウンターにいる店員が微笑ましそうに見つめているが、まったくの誤解なのでやめてほしいものだ。
「決めました。私これにします」
白石さんが選んだのはアーモンドキャラメルラテ、と抹茶チーズミルクレープ。個人的に後者は正直味に若干の不安要素があるのだがまあ気にしても仕方ない。
注文する商品の名前を頭の中で反芻しながら俺たちはカウンターに向かった。
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