第17話 分岐点の麓
白石さんとの2回目のお出かけ、家で遊んだ分も含めると3回目になるのだが、こうして2人でいることにもずいぶんと慣れてきた。
最初は俺のような人種とは縁のない人なんだと心の中で勝手に決めつけていた中で、彼女という人間と初めて出会ったあのオフ会での出来事はまさに衝撃的という他ない。
曝け出された彼女の俺と似た側面。オタクという共通点は俺たちにとって関係を深めるのには十分な効果をもたらしてくれた。回数を重ねるごとに近くなっていく距離感。
そんな中で俺は彼女のひとつの違和感に気づいていた。俺が彼女と出会う前から頻繁に見せていた仕草、あの意味ありげな口元だ。最初の方は割と頻繁に見かけていたのだが、距離が縮まっていくごとにその回数はだんだん減り最近はほとんど見ていない。
俺の心に芽生えた虚無感のように、彼女の心にも何かしらの変化があったのだろうか……今の俺には知る由もない。
***
「それじゃあそろそろ出る?」
「ですね、そうしましょうか」
1時間半ほど前に入店した某有名店に似たカフェにて俺たちは注文したドリンクやフードを味わいながら本屋で購入したラノベを読んでいたのだが、そろそろお開きにしようということになった。
入るときに微笑ましそうな目を向けられた店員さんから退店時の挨拶をもらいながら俺たちは店を出る。ちなみに余談なのだが白石さんの頼んだ抹茶チーズミルクレープは、一口分けてもらった結果普通に美味しかった。世の中組み合わせは試してみないとわからないものだな。
書店を出て歩き出すとついさっきまで忘れていた暑さが襲い掛かってきた。入店するときと比べるとだいぶ落ち着いてはいるのだが、それでも30度はありそうな暑さに心の中でため息をつく。だってここから自転車漕いで帰るんだぞ。
入口から少し出たところで白石さんは俺に向き合って、
「それでは今日もありがとうございました。とっても楽しかったですよ」
そう言って今日1番の笑顔を見せてくれた。そこまで喜んでもらえると一緒に出かけた側としても嬉しい限りだ。
「こっちこそ、誘ってくれてありがとう。また何かあったら誘って」
「はい、そうします。大宮君もよろしくお願いしますね」
「もちろん、じゃあまたね」
「さようなら」
白石さんと別れて俺はそのまままっすぐ駐輪場まで向かったのだが、彼女は服装の関係上バスで来たらしく、駐輪場とは反対の位置にあるバス停の方へ歩いて行った。
それを見送った後俺は自転車に乗って、暑さから逃げるようにいつもよりもペダルを漕ぐ足に力を入れて走り出した。
***
家に着いたのは4時を過ぎたあたり。玄関の扉をくぐると奏がいつものように出迎えてくれる。
「お兄ちゃんおかえり! どこ行ってたの?」
「先週家に来たお姉ちゃんとお出かけしてきたんだ」
「そうなんだ! いいなー奏も行きたかったあ」
「それじゃあ今度お姉ちゃんに話してみるから、それでいいか?」
「うんっ!!」
期待で目をキラキラさせる奏、OKしてもらえるかは正直分からないが話すだけ話してはおこう。
奏と一緒にリビングに入るとリビングでは父さんと母さんが座ってテレビを見ていた。奏と話す声が聞こえていたのだろう、2人とも俺が帰ってきていたことには気づいていた様子だ。
「お帰り祐太。母さんから話は聞いたがどうだった、楽しかったか?」
「うん、そりゃもちろん」
「そうか、よかったよかった」
今までの俺だと今日のようなことはほとんどなかったため、父さんも友達ができたと思い嬉しそうに頬を緩ませている。
「そうそう祐太、冷凍庫にアイス買ってきて入れてあるから食べてもいいわよ」
「え、まじで?」
炎天下の中自転車を往復してきた俺にとってここでのアイスはまるで砂漠に振る恵みの雨のようなものだ。言われた通り冷凍庫に向かうと中にはカップ型の高級バニラアイスが2つ入っていた。
「1つは奏の分だからちゃんと残しておくのよ」
「はいよ」
俺がそんなことをするような男に見えるのだろうか。いやまあ2回くらいは知らずに食べちゃったりはしたけどさ。あれは故意ではないから情状酌量の余地はあるはずだ。
なんてことを考えながらアイスをすぐに食べ終えた俺は水分補給にコップ1杯の水を飲んでから自分の部屋へと向かった。
部屋に着くなり俺は買ってきたラノべの中から何冊かを取り分けて机の上に並べて電気をつける。並べられた本はどれも俺がよく厳選して選び抜いた新作ばかり。これらを読んで感想をまとめた後にレビューとともに投稿するのだ。
ちなみに残った側もさらに2つに分ける予定で片方は自分で読む用に、もう片方は近々開催される第2回のラノベオフ会にて布教する用になる。
前回俺がおすすめした作品は参加者からどれも好評だったので今回のも喜んでもらえると嬉しいのだが。オフ会の日程をどうするか考えながら、俺は自分用の本のラベルをはがし始めるのだった。
ーーーーー
〇軽く質問
物語の進度がだいたい20パーセントくらいまで来ました。差し当たってこの先のストーリーの進め方で迷っているのですが、なるべく必要な部分だけを書いて話数を少なく完結させるのと、多少長くなっても物語に説得力と深みを出すために話数を多くするのどちらがいいでしょうか。
短くする場合はおそらく60話程度、長くする場合は100話程度になるかと。
それと現時点で読んでいての白石さんと祐太の心の距離というか、親密度はどのくらいでしょうか。(100をMaxとして)
コメントする方は参考までに教えてもらえると幸いです。
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