人間おでん
呑みすぎてしまった。
呑みすぎてしまったのだ。
私は泥酔状態のまま、駅へと向かう。
泥濘に足を取られたまま私は歩く。
ふらふらといつ倒れてもいいような状態で、
その足のまま、或る光が見えた。
野畑にひとつ街灯があるような、
そんなようなものを感じた。
私は千鳥足のまま、その光を追う。
息の荒さがやけに目立つ。
私は笑い上戸なのだ。
不思議と笑えてくるのだ。
その場所は、おでん屋台のような場所。
酔いの影響で鼻が効かないせいか、
おでんの香りはしない。
暖簾をくぐり、そこでもう一杯と
口角を上げながら店に入ると、
まさに餅巾着のような顔をした
店主がそこにいた。
いわば、人間の顔部分が餅巾着なのである。
「らっしゃい」
店主は声を出した。私の他に客などいない。
そんなこともあるかと私は、
大根と竹輪麩を注文した。
店主はそれを掬う。
しかしながら肝心の出汁の中には
絵に描いたようなおでんの具は見えない。
茶色の湯気が漂うばかりだ。
おたまで彼は大根をとる。
そこには大根ではないが、
大根のような円を描いたものが或る。
皿に盛る。
続けて彼は違うエリアからものを掬う。
次には指のようなものが出てきた。
間違いなく、人の指だ。
私はようやく正気に戻ると同時、
足早にそこをさろうとする。
「お客、代金」
ハッとなり、財布を後ろポケットから出した。
払えばいい、払えば許されると。
「12万7000円」
片手で頭を抱える。
私はどうやら夢の中にいたのだ。
目が覚めて辺りを見渡す。
店の中には店主しかいない。
おでんの匂いがする。
確か会社の人間10数名で居酒屋に来たのだ。
帰られた、帰られたのか!?
しばらくの間寝てしまったようだ。
店主がこちらへ寄ってくる。
「12万7000円」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます