幽霊花が咲く頃に
オトモダチ
1枚目の花びら
「こんな時間に何してるの?少年。」
9月の半ば。深夜22時過ぎの学校。その日は先生たち大人が全員帰っていて、学校には僕以外誰もいないはずだった。そう、はずだったのだ。
僕の名前は
約1年前の小学3年生だった頃の秋、僕に不幸が振りかかった。事件に巻き込まれたのだ。”けしごむ窃盗事件”に。
事件が起こったのは10月。けしごむを忘れた友だちの
その日は帰りの会が長引いて、みんなが急いで下校していた。だから、颯馬はけしごむを返すことを忘れたのだろう。明日返してくれるだろうと思っていた。しかし、次の日もその次の日もけしごむが返ってくることはなかった。数日経ってから彼に返すように催促すると、「けしごむ?そんなもの借りたっけ?」と知らん顔された。
「あのけしごむはお母さんに必死にねだって買ってもらったけしごむなんだ。お願いだから返してくれ。」そう言ってもまだとぼける颯馬。僕だけでは対処できないと思い、「先生に言うから」と警告すると「名前書いてなかったし、お前のだって証拠ないじゃん。」と返され、そこからのことはほとんど覚えていない。気づけば目の前の颯馬が吹っ飛んでいて、周囲がざわついて誰かが先生を呼んでいた。先に手を出したのが僕だったので、僕だけが怒られた。颯馬にケガをさせたことで親を呼ばれ、母親が相手の両親にものすごく謝っていたのを覚えている。母親にも怒られたしけしごむも返ってこなかった。
その事件があってから僕は周囲の人間を信用できなくなった。学校中のみんなが敵のように見えた。学校に行くのが怖くなって行くのをやめた。
母親は最初は僕を心配したが、母子家庭で仕事が忙しかったこともあって、次第に何も言わなくなっていった。それでも、学校に行くべきだと思っていた僕は4年生の夏休みに『2学期から学校に行く』と宣言した。このまま4年生が終わるのは負けたみたいで嫌だったのだ。
しかし、いざ2学期が始まると怖くなってしまい、まだ1度も学校にいけていない。それが悔しくて、まずは学校という場所に慣れようと深夜の誰もいない時間に忍び込んだのだ。
自分の教室の場所と席の場所を確認しようと4-Cの教室に向かう。階段を上って4年生の教室が並ぶ階に出る。一番奥にある4-Cに目を向けると、そこだけ教室の明かりがついていた。誰かが消し忘れたのだろうか?そう思って教室の扉を思いっきり開ける。教卓に腰かけて足をぶらぶらさせている女性と目が合った。
「こんな時間に何してるの?少年。」彼女の艶(つや)やかな唇から澄んだ声が発せられた。
赤茶のロングストレートの髪を靡かせながらこちらを見る彼女。メイクの知識がない僕でも分かるくらいの濃さ(派手すぎるわけではない)のメイクをしている彼女。髪色と同じ色のワンピースに薄手の黒いカーディガンを羽織っている。どちらも無地で派手な主張がなく、彼女のきれいな顔をより引き立たせている。
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