筋肉フェチの私が、乙女ゲームの悪役令嬢に転生したので筋肉で全て解決します!
樹脂くじら
プロローグ
私は筋肉が好きだ。
しなやかマッチョ、ごりマッチョ、細マッチョ……ありとあらゆるマッチョが好きだ。
自らも鍛えるべく、趣味で筋トレに励んできた。
しかし、現実は厳しい。
「あのさぁ、こんなのも出来ないの? 社会人何年目?」
上司からの叱咤が私の心を打ちひしがる。田舎は仕事が少なく、ようやく入社できたのはブラック企業。
毎晩の残業、昼食を抜かされる日々。身も心もボロボロで、筋トレをする余裕も失っていた。
そんな中、帰りのバスでプレイした乙女ゲームが唯一の慰めだった。
ゲームの中の世界で、私は別の自分になれる。
だが、そのバスが事故を起こし、私は命を落としてしまった。
目を覚ますと、ふかふかのベットに横になっていた。
絹を身にまとい、驚き辺りを見回すと、近くで話し声が聞こえる。
「ルナお嬢様大丈夫かしら?」
「旦那様も奥様も政略結婚の道具だからといって、放置して酷いわよね……」
「いくらシフノス王子との婚約できたらかといって、熱があってもお稽古事を休ませないんだもの呆れるわ」
驚きで叫びそうになるのを必死に耐える。使用人達の陰口で乙女ゲームの『儚き運命』の世界の悪役令嬢ルナに転生していることが分かった。
舞台は中世ヨーロッパを元にした剣と魔法のファンタジー。
モンスターや獣人、魔族とも暮らして、平和な世界だ。
魔法のおかげで冷蔵庫やお風呂なんかもある現代人にも優しい設定だ。
でも、悪役令嬢には優しくない。
使用人達の話を聞くかぎり、原作と変わらずシフノス王子とも婚約中なのだろう。
儚い見た目と穏やかな性格、気が強い悪役令嬢のルナとは正反対の性格で、剃りは合わなかった。
そのせいで愛されていない婚約者と馬鹿にされ、主人公でもあるヒロインに助けられ、八つ当たりに全員に冤罪をかける。
それがバレてしまい、婚約破棄され追放をされる。
哀れで惨め、悪役令嬢とは名ばかりで、ただのか弱い人間だ。
しかし、こういう時転生したら元あった知識を活かせるのだろうが、生憎私は頭も良くないし器量も悪ければ、運動音痴。何も活かせることはない。
存在すら忘れられる。
まるで、本当の私みたいだ。
……せっかく転生したのに、それでいいのだろうか。
ここは乙女ゲームの世界じゃなくて、私が夢見てるだけかもしれない。
それでも、せっかく新しい世界にいるのだから
何か
前世とは違う
そう、せめて
「腹立つ上司の顔面を殴れるようになりたい!!」
立ち上がりファイティングポーズをとる。
鏡には8歳のまだ未発達の子供が映っていた。
諦めるには早すぎる年齢だ。
殴りたかった上司はもういない。
だから、殴るべき存在が出てきた時に戦えるようになる!
前は疲れてできなかった筋トレをして、腹筋をシックスパックに割る!
何かあった時に録音して労基に駆け込むことができる行動力とメンタルを作るには、心身ともに健康でなければならない!
つまり、筋トレだ!
私は決意を新たに拳を天高くあげる!
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