陰キャに彼女はできない
砂糖琉
嘘告白
この世には陽の者と陰の者で分かれている。
俺は圧倒的に後者の方だろう。
小さい頃からアニメが大好きでクラスメイトからはオタクだと散々バカにされていた。
そういう感じでバカにされているうちに人と関わるのが嫌になって、俺の周りには当然友達がいなかった。
一人を除けば、だが。
その一人とは中学の頃に出会った桃色ショートの髪をした女の子、
でも最近、その桃とも疎遠になって高校に入ってからは一度も話せていない。
桃とクラスは一緒で何度も話そうと頑張ってはいるが毎回、無視される。
どうしたんだろう……もしかして桃まで俺をオタクとバカにし始めたのだろうか。
正直、友達でもない人からバカにされるのはどうだっていいけどたった一人の友達にさえバカにされるのはさすがに悲しい。
もしそうなら俺は誰も信じられなくなる。彼女は愚か友達一人すら作れないまま高校生活が終わってしまう。
そんなのは絶対に嫌だ。せめて友達一人ぐらいは頑張って作りたい。
幸いなことに学校は始まったばかりだからまだ完全にグループができているというわけではない。
明日誰でもいいから学校で話しかけてみようかな。
そして次の日、俺は「頑張ろう!」と意気込んで家を出た。
学校に着き教室へ入ると桃はギャルっぽい二人の女友達と楽しそうに話していた。
そんな桃たちの横を通って窓際の一番後ろの席へと歩く。
自分の席に着いて荷物を置くと同時になぜか桃が椅子から立ち上がり俺の方へと歩いてくる。
そして桃は俺の机の前に立ち止まる。
もしかして俺になにか話があるのか? どうしよう、何を話そう。
久しぶりで少し緊張する。
でも桃は前に立ち止まっているだけで何も話してこない。
なにか話さないと。
「えっと、今日はいい天気だね?」
俺は焦ってそう言うとなぜか桃が笑う。
確かにいきなり天気の話は良くなかっただろうか。
そもそも相手から自分の席に来たのだからなにか話があるに違いない。
それなのに突っ走っていきなり天気の話をしてしまった。
やらかした。
落ち込んでいると桃が「話があるんだけどさ」と話し始める。
「今日の放課後、体育館裏に来てくれない?」
「分かったよ。なんでも付き合うよ!」
「ありがと。それじゃあ放課後ね」
そう言って桃は自分の席に戻ってまた友達と話し始めた。
——あれ? 今なんて言われた?
なにを話そうかで頭がいっぱいで反射的に返事してしまった。
俺の記憶が正しければ、体育館裏に来てほしいと言われたのか? 聞き間違えだろうか。
放課後に体育館裏——アニメとかだと告白される一番定番な場所だ。
そんな所に呼び出してなにを話すのだろうか。
でも桃に限って告白はないだろう。
なにせ彼女は容姿が良くて男子からは結構モテている。
色んな男子が彼女に告白をしたが全員断られているらしい。だから裏では彼氏がいるなんて言われている。
そんな彼女が自分に告白なんてありえるわけがない。
とは言っても放課後に呼び出されたのは生まれて初めてだから緊張する。でもまた桃と話すことができると考えたら放課後が少し楽しみだ。
そしてあっという間に放課後になった。
桃は授業が終わると同時に友達と教室を出ていった。
先に体育館裏で待っているのだろうか。早く行かないと。
——この時の俺はまだ気づいていなかった。
どうして桃は友達と教室を出ていったのか。
緊張しながらも体育館裏へ行くと桃が髪を触りながら待っていた。
体育館裏は人があまり来ないから静かだ。風の音だけ微かに聞こえてくる。
そう思っていると体育館に人がどんどん入っていき次第に声が聞こえ始める。
部活の声出しだ。放課後だから仕方がない。
今はまだ静かだけどこれから人が集まってもっと声は大きくなっていく。その前に用事を済ませよう。
待っていた桃に近寄って話しかける。
「ごめん、少し遅れた」
「大丈夫、私も今来たところだから。来てくれてありがと」
「それで話って?」
「その……」
桃がそう言うと一気に真面目な雰囲気に変わる。
改まってどうしたんだろうか。
もしかして俺は知らないうちに桃が嫌がることをしてしまったのだろうか。
だけど高校に入ってからはまともに話せていない。
中学でも桃とはうまくやっていたはずだ。喧嘩をしたことだって一度もない。
不安に思いながら待っていると桃が口を開く。
「私、ずっと前から京介のことが——好きでした! 私と付き合ってくれませんか!」
桃は頭を下にして俺に向かって右手を差し出してくる。
もし今、桃の手を取ればその瞬間に生まれて初めての彼女ができる。
彼女……考えたこともなかった。
そもそも俺は友達を作りたいのにその段階を飛ばして恋人を作るなんてしてもいいのだろうか。
確かに桃のことは好きだけど、それは異性として好きというわけではない。
今まで桃のことをそういう目で見たことがないと言えば嘘になるけど——桃は色んな人から好かれている。
俺なんかと釣り合うとは思えない。
それと俺が桃の手を取らないのはもう一つ理由がある。
桃は今まで俺にそんな素振りを見せたことがなかったのだ。
友達としては好きだけど異性としては好きではない——お互いそういう関係だった。
桃もそれは薄々気づいていただろう。
それなのにいきなりこんな告白——なにかあるに違いない。
とは言っても、今まで告白をされたことなんて一度もないから、なんて告白を断ればいいのか分からない。
どうしよう……
桃の手は微かに震えている。
今まで異性として見ていなかったとしても今日は頑張って告白をしてくれたのだろう。
やっぱり俺は桃の気持ちを無下にはしたくない。
「俺は……」
告白の返事をしようとするといきなり桃が吹き出して笑う。
さっきの真面目な雰囲気がなくなり、一気に不穏な空気が漂う。
どうして桃は笑っているんだ? さっきの告白は本気なのか? もしかして俺はまた人にバカにされているのか? どうしてこんなことをするんだ? 意味が分からない。
困惑していると桃の後ろからギャルっぽい二人組が出てくる。
朝、桃が楽しそうに話していた人たちだ。
「桃、あんた演技うますぎ」
「せっかく相手の子が返事しようとしてたのにー」
「ごめん、さすがに耐えきれなかったわ」
三人組が俺を嘲笑う。
「どうして……」
急なことで頭が回らなかった。それでも答えはすぐに分かった。
これは、罰ゲームで告白したのだと。
もしかして朝、三人で楽しそうに話していたのはこの罰ゲームのことを話していたのか。
そういえば授業が終わったあと、三人で教室を出ていた——桃以外の二人は先に体育館裏で待ち伏せしてこの罰ゲームを後ろで見ていたのだろう。
俺になんの恨みがあってそんなことをするんだ。
中学の頃は確かに桃と俺は友達だった。
もしかして友達だと思っていたのは俺だけで裏ではオタクだとバカにしていたのか?
俺は耐えきれなくなって涙目になりながらその場を逃げ出した。
そのまま学校を出てひたすらに走った。
「はぁはぁ」
学校を出てから五分ほど走っただろうか。
ただひたすらに走ったせいでここがどこなのか分からない。
とりあえずまだ歩き始めると公園を見つける。
公園に入ると中には誰もいなかった。
俺はブランコに座って休憩する。
これからどうしよう……もう友達を作れる気がしない。というかあんなことがあったあとだからどうしても作ろうとは思えない。
もう誰も信用できない。
そういえば中学の頃もこんなことがあった気がする。
あれは中学二年生——ちょうど二年前ぐらいだろうか。
俺はその時から色んな人にバカにされていた。
バカにされるだけで特になにもされていなかったから俺は気にせずに無視していた。
そんなある日、うちのクラスに転入生がやってきた。それが今日、罰ゲームで告白してきた子——佐倉桃だ。
俺と桃は席が隣になった——後ろの窓際の席だった。
桃は容姿が良かったから転校初日から男子の注目の的だった。
俺はその時から友達が一人もいなかったからそんな桃のことも一切、気にも留めていなかった。
だけどその時の桃は誰にでも優しい清楚だったから根暗な俺にも優しく話しかけてくれた。
『隣の席だね! これからよろしくね!』
『え!? う、うん。よろしく』
桃と初めての会話はこんな感じだった。
それから事ある毎に桃は優しく話しかけてくれた。
初めはお互い少し距離があったけど俺たちが仲良くなるのに時間はかからなかった。
三日程度でお互い敬語をやめていたと思う。
そして桃がこの学校に来て一週間が経った頃には俺たちはすっかり仲良くなっていた。
『おはよう、また深夜までアニメ見てたの?』
『おはよ、昨日のアニメ面白すぎて寝れなかった』
俺たちは毎朝、決まってこの会話をしていた。
それからも学校では桃とずっと一緒にいた。
桃がいる生活が当たり前になっていったけど、それと同時に友達がいるのは良いことだと俺は思った。
そして時間はあっという間に過ぎていった。
桃がこの学校に来て一ヶ月が経ったぐらいの時に事件は起きた。
突然、俺はクラスの男子からいじめを受けるようになった。
靴を隠されたり、教科書に落書きをされたり、授業中に丸めた紙がいきなり横から飛んできたり——しょうもない嫌がらせが多かった印象だ。
いじめの理由としてはオタクの俺が可愛い桃と仲良くしているのが気に入らなかったらしい——今、考えるといじめる理由もしょうもない。
正直、あまり気にしていなかったから俺は無視していた。
だけど隣の席にいた桃はその嫌がらせを無視しなかった。
ある日、いつも通り嫌がらせを受けていると隣にいた桃がクラスの男子たちに言う——
『どうして恭平に嫌がらせをするの? 文句があるなら正面から言いなさいよ!』
それを言ってから男子たちの嫌がらせはなくなった。
嫌がらせはなくなって嬉しいことのはずなのになぜか桃はその日を境に元気がなくなった。
もしかしていじめがなくなるのは桃にとって都合が悪いことだったのだろうか。
やっぱり桃はその時から俺が嫌いだったのだろうか——今、考えるといじめがなくなったのに元気をなくすのは意味が分からない。
もう、そうとしか考えられない。
桃を仲の良い友達と思っていたのは俺だけだったのか……もう、立ち直れそうにない。
無心でブランコに乗ってから数時間が経った。
小雨が降ってくる。
だけど、どうしても家に帰る気になれない。
次第に雨は強くなっていき、気づけば土砂降りになっていた。
それでも俺はブランコから立ち上がる気になれなかった。
もう、いっそのこと風邪をひいて明日の学校を休もう。
そう思って雨に濡れているといきなり雨に当たる感覚がなくなる。
頭の上になにかがある。
「あの、風邪ひいちゃいますよ?」
雨の音と共に女の人の声が聞こえてくる。
顔を上げると黒髪ロングの制服姿をした女の子が俺に傘を傾けてさしてくれている。
雨に濡れた髪のせいで相手の顔はよく見えない。
「私の家ここから近いんで、この傘使ってください! この傘は返さなくていいので!」
傘を受け取ると女の子はカバンを傘代わりにして走って公園を出ていった。
女の子が着ていた服はうちの学校と同じ制服だ。
顔はよく見えなかったけど、それでも綺麗だと思えるほどの美人だった、と思う。
でもあんな綺麗な人、うちの学校で見たことがない。
年上なんだろうか?
この傘を返すために名前を聞いとけばよかった。
傘は返さなくてもいいと言われたけどさすがにそれは申しわけない。
「帰るか」
もう今日は家に帰らなくてもいいと思っていたけど傘を貸してくれた人のおかけで帰る気になった。
風邪をひくわけにはいかない。
あの子は俺のために傘をささずに家に帰ったんだ。
もしこれで俺が風邪をひいてしまえばあの子の優しさが無駄になってしまう。
もう充分濡れているから傘をさすのは意味がないかもしれないけど濡れないに越したことはない。
俺はあの子から貰った傘をさしながら家に帰った。
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