新人ダンジョン配信者、悲鳴をあげながら逃げる様子が大手の配信に映り込んでバズってしまう 〜悲鳴を聞きたいって言われても困るよ!!〜

金澤流都

悲鳴でバズった件について

1 変な性癖のチャンネル

 僕は叫んだ。


「オビョワアアアアアアア!!!!!!!!」


 後ろからすごい勢いで金属スライムの群れが追いかけてくる。僕は必死で逃げている。

 くそっ、ダンジョン配信初日からツイてない。レベル3になってふつうのスライムくらいなら倒せるようになったので、初心者なりに装備を整えてダンジョンを探索するぞ! と思ったらこれだ。


 金属スライムはとにかく硬い、僕が主に使う銃器での攻撃は弾いてしまうだろう。

 つまり完全に、デビュー戦でイレギュラーが発生し、逃げざるを得なくなっている。

 配信のコメント欄を見る余裕なんてなかった。とにかく走りながらひたすら悲鳴が出る。


「ウボゥァアアアアァアアアアァ!!!!!!!!」


 なにやら立派な配信機器を構えた大規模クラン所属のパーティと思われる人たちの横を追い抜き、僕は涙目で走っていた。


「ホゲァアアアアアアアアアア!!!!!!!!」


 ダンジョン第一層は様々な配信者がいる、だからきっと僕のこの醜態はいろいろな配信者の配信に映り込んでいることだろう。


「おい、あっちから金属スライムの群れがきたぞ!!!!」


「なんだあいつ福の神か!?」


「むしろ福男じゃね!?」


 僕はゼエハア言いながら、どうにかダンジョンの出口に辿り着く。腕に装着したスマートデバイスで、配信の様子を見るものの……当然同時接続はゼロであった。


 僕はトボトボと歩いて、ダンジョン出口のロッカーに武器の拳銃を預けた。こんな装備では金属スライムとは戦えない……。

 明日はもうちょっとマシな戦いができたらいいなあ。せめて同接10くらいの。僕にだって有名になりたいという欲はあるのである。


 ◇◇◇◇


 1 名無しさん

 あのやべえ悲鳴のやつだれだ


 2 名無しさん

 鯨座旅団の配信に映ってた福男?


 3 名無しさん

 え、鯨座旅団に映ってたん? 金のリンゴ組にもがっつり映ってたよ


 4 名無しさん

 あの悲鳴は癖になるわね


 5 名無しさん

 たぶんこいつじゃないかな 初陣だったっぽい(蓮太郎チャンネルのURL貼り付け)


 6 名無しさん

 初陣、しかもソロで金属スライム引いちゃうのは持っているというかいないというか


 7 名無しさん

 それにしても癖になる悲鳴だったわ 変な性癖のチャンネル開いたかも


 8 名無しさん

 あれ聞いて興奮しない女いないでしょ


 9 名無しさん

 男だって興奮するよあの悲鳴


 10 名無しさん

 ちょっと動向を注視する必要がありそうな新人配信者だわね


 ◇◇◇◇


「ウホァ!?!?」


 朝起きてスマホを確認するなり変な絶叫が出て、アパートの隣の人が壁をドンドンしてきた。すみません朝早くから……。

 なにやらダンジョン配信専用アプリ「ライヴダンジョン」で、昨日の金属スライムから逃げるだけの動画が、500回程度の再生回数を獲得したようだったのだ。

 まだ収益化で生活費を手にするほどではないが、それでも素晴らしい。喜びの雄叫びが出かかるが朝こっ早い時間のアパートの部屋なので我慢する。

 でもなんで金属スライムから逃げるだけでこんなに再生回数が稼げたのだろう。わからないが、きょうを頑張るモチベーションは湧く。


 アパートの茶の間では姉貴が帰ってきたまんまのスーツ姿で、コタツの上にビールの缶を出しっぱなしにしてぐうぐう寝ていた。そろそろ起こさないと仕事に差し障るのではないか、と姉貴を揺さぶり起こす。


「おーすまん蓮太郎……ぐうぐう寝てしまったな……ダンジョン配信初日はどうだった?」


「潜ってるときは同接ゼロだったけど寝てる間に500再生行ってた。これはもしかするぞ」


「素晴らしい。早くダンジョンで稼いで姉貴を楽させてくれ」


 僕は適当にシリアルなんかを用意して、姉貴と食べた。姉貴は顔を洗いヨレヨレのスーツを脱ぎ、かけてある別のスーツを着て仕事に向かった。電車のなかでメイクするらしい。会社勤めの人は大変なんだなあ。


 SNS「ボヤイター」のアイコンをふと見ると、ものすごい数の通知が来ていた。なんか炎上させちゃったのだろうか、と戦々恐々しつつ開いてみると、急にフォロワーが増えたようだった。チラホラ「音響機器いいのにした方がいいですよ!」みたいなリプライもあるが、初心者なのでそんな余裕はない。

 なんだかワクワクしてきた。そういうわけで、きょうもダンジョンに行くことにした。配信開始の時間をボヤイターでポストし、ダンジョンに向かう。


 ダンジョンは東京のあちこちに口を開けた「異星」とのつながりである。

 異星には魔物と俗称される、この世界とは違う仕組みの生き物が棲んでおり、そいつらを研究することによって地球の生活をよりよくしよう、というのが「ダンジョン学」である。

 そのダンジョン学の最先端にいるのが、僕たちダンジョン配信者なのだ。


 僕、滝沢蓮太郎は、新人ダンジョン配信者である。

 ダンジョン配信のライセンスは原チャリと大して変わらない感じで免許が取れる。そんなわけでダンジョン入り口で軽く武器の練習をして、レベル3となり本格的にダンジョンに潜り始めたわけなのだが、きょうこそ何らかの戦果を上げるぞ! と張り切って入ったダンジョンで、僕はまたしても金属スライムに追いかけ回されていたのであった。


 そしてその「金属スライムに追いかけ回されるだけ」のライブ動画が、同時接続5000を楽々と超えていたことに、僕はさっぱり気づいていないのだった。(つづく)

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