必ず幸福になる薬
学生作家志望
夢のために
「すいません、ほんとうにすいません。」
「こんなもん、提出するな!ゴミが。」
今日も、僕の書いた記事は僕の目の前で破られゴミと言われてしまった。僕は、立派な新聞記者を目指していた。子供の頃からずっとかっこいいって思ってた。でも、現実はいつだってゴミだ。
ゴミ、ゴミ、ゴミ。じゃあ何を書けばゴミと言われないで済む?馬鹿正直に書くからダメなのだろうか。少なくとも嘘を書くような記者にはなりたくないのだが。
カタッ………カタッ………
時計の針の音が鮮明に聞こえる静かな部屋。僕は1人、今日も文章の正しい書き方について学んでいた。
文章は大好きだ。なんだって書くことができる、なんだって肯定してくれる気がする。幼稚園の時にいろんなヒーローものを見たけど、僕の中のヒーローはずっと自分の書く文章だった。
文章のために生きて、文章のために這い上がってきた。そしてやっとここまできたんだ。いい大学にも入ったしそれなりにいいものを書けてると自分の中で勝手に解釈していた。
でも、ゴミだった。あいつにとっては、ゴミだった。
「好き勝手言いやがって………あいつ、あいつ、あいつ、あいつ、あいつ………」
ピーンポーン
「っ?なんだよこんな時間に、誰だ?」
さっきからうるさい時計を確認すると、あっという間に針が深夜の1時をさしていた。
「はーい。」
なんだか不気味だったが、出ないというのも抵抗があった。僕は、扉を恐る恐る開いた。
「こんばんは。ここの家のまさきさんであってるかな?」
「あ、はい。そうですが………なんでしょうか?」
「わたくし、実はある宗教の勧誘をやっているものでして。」
「すいません、宗教は………」
ギッーー
宗教という言葉を聞いた瞬間に僕はドアを大急ぎで閉めようとした。しかしそれをその男が止めた。
ガッ!!
「あのっ!!ブログ………いつも見てますよ。書いているんでしょう?あなたが。」
「ブログ………なんで、知って、、」
確かに書いている。と言っても文章の練習のためにちょっとした日記のようなものだ。だから、他の人が見ているかどうかなんてもちろん気にしていないし、ましてや個人情報なんて載せたことがない。
なら、なんでバレた………?
「あなたの文章、とっても素敵ですよね。」
「えっ?」
嘘が感じられない。なんだその目、なんだその声………
それに、僕の文章が「ゴミ」じゃない?素敵jなんて、初めて、
「わかりますよ、あなたは困っているんでしょう?今までたくさん努力をしてきたのにクソみたいな上司のせいで記事が通らないって。」
「は?なんで………」
「何もかもわかるんです。あなたにあったこと、あなたの気持ちまで全てが。さあ、もう大丈夫です。わたくしがあなたを助けてあげましょう。必ず幸福になれますよ。」
「必ず、幸福に。」
◆
「ほら、祈るのです。神はいつも我々を見てらっしゃるのです。幸せになるために、チャンスをくださっている!」
「はぁ………はあ、」
祈る、祈る。僕と同じようにしている信者、仲間がいる限り、祈り続けるんだ。きっと幸せになれる、きっと、きっと。
仲間たちの声、息で意識がもってかれそうになる。頭がどんどんおかしくなっていった。気づけば時間はどんどん、過ぎていく。
「あれ、もうこんな時間か。」
2時間ほど祈ったあと、僕は疲れてその場で寝てしまっていたらしい。その時には仲間はすでにみんな帰っていた。
「さて僕も、帰らなきゃな。今日も文章の練習だ、明日も出勤だし。」
トン──────────
「まさきくん、いつもお疲れ様。」
「あ!
「いいんだ、疲れて寝てしまうことくらいよくあることさ。それくらい日々励んでいるということだよ。」
「ありがとうございます!」
なんて優しいんだろう。この人からは優しさとそこからくる温かさしか感じない、素晴らしい人だ。
「ところで、今日は一つご褒美があってね。」
「はい?と言いますと?」
「これだよ。」
座っていた宮さんの後ろになにか二つ物があった。それを宮さんは後ろ手でゆっくり取ると僕に見せてきた。
「なんですか、これ?」
「これはね、必ず幸福になる薬だよ。」
手に待っていたのは透明な水と紫色の錠剤だった。
「神様がこれを飲むとよいと仰っているんです。ついにまさきくんにもそんな大きなチャンスがやってきたんですよ。」
「ほんとうに、これで幸せになれるんですか?」
「ええ、そうだとも。これを飲めばなんだって自分の思った通りになります、記事だってきっとうまくいく。あなたの理想の世界になるんです。」
「理想の………わかりました。」
幸せになるんだ。これで、僕の夢も叶うんだ。
ゴクッ
必ず幸福になる薬 学生作家志望 @kokoa555
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