僕に寄り添ってくれる人
なんだこれ、おかしい何かがおかしい。
頭がおかしくなったのか、それとも全身がおかしくなったのか。何もわからない、ただ混乱する。でもその混乱に、快感があった。何もわからないことにすら快感があった。
なんだって今なら簡単にできる気がする、
そしてなにより全部が
「気持ちいい………」
視界がぼんやりする、頭を突き抜けていくその快感がたまらない。何も聞こえなくなる、何も集中できなくなる。ダメだ、これ、
「おーいまさきくん。聞こえなくなっちゃったかな?………気持ちよさそうだな、これは、教祖様に伝えておくよ、じゃあね。」
「ふ、ふ………」
喋れない、なんか聞こえた気がする。でも何が起きてるんだ?帰ったのかな、宮さん。まあ、そんなことどうでもいい!僕は救われたんだ、神様に。
今日からずっと、幸せだ………
ピッ
宮と名乗る男はポケットからスマホを取り出し、ある人物へ電話をかけ、慣れた言葉でこれを報告した。
「また1人、やっておいたよ。これであのまさきって馬鹿は完全に洗脳できたね。あ?効き目か?そりゃもちろん、ちゃんと効いてるだろうよ、まあいつもよりはちょっと強かったかもな笑この、幻覚剤。」
◆
「君の記事は素晴らしいよ!大好きさ、これを出せばたちまち我が社の新聞は売れるだろう!」
どうした、こいつ。つい先週までは僕の記事を破ってたじゃねえか。でも、やったぞ。僕の記事がみんなに見られるってことだろ?
「ありがとうございます!また期待に添えるように頑張りますね!」
「あああww気持ちいい、なんだこの快感は。今まで僕がヘコヘコしてきたムカつくやつらが全員僕に頭を下げて、記事を書いてくださいって言ってきやがる!!」
「ははははははははw笑い、が止まらねえよ!!!」
会社のやつから道端の知らないやつまでみんな、僕を祝福してる。優秀か?有名人か?僕は天才か!!
「僕がトップだ!!最高だっ!!」
ズシャッ
「がっ…………あ、、ぅ。なんだ、これ。どこだここ、、」
気付くと僕は白い壁に囲まれた空間にいた。
「最寄り駅のトイレ………?なんで、」
状況を確認すると、目の前に便器があって僕はその前にしゃがんでいる状態。それにより最寄りのトイレだと気付いた。
「なんか変なにおい………。」
僕は明らかにいつもの便とは違う、異臭がする便器の中を覗き込んでみた。
「うわ!!どうなってんだこれ。」
便器の中に黄色い何かが浮かんでいるのが鮮明にわかった。
「う、ゲロだ、、そんな、どうしてだ。しかもさっきまでの気分が………悪く、」
頭が痛い、身体中が悲鳴をあげてる。気分は確かに上がっていた。なのに、なのに。
ドンドンドンドン!
ドアを強くノックする音が聞こえた。しかもかなり近い、順番に叩いている………?
だんだんと近づいていくノックの音。
ドンドンドンドン!
隣のノックの音が鳴った次の時だった。
ガチャッ!!!!
「え?」
勢いよく開かれたドア、そしてその先には2人の大きな男が立っていた。
「常田まさきさんですね。署まで連行いたします。」
「は………?おい、ちょっと、まって!僕が何したって言うんだ、おかしいですよ!」
「はぁ、困るんですよあんたみたいなの。自分が何したのかもわからないような犯罪者!」
「いいからほら、行くぞ!」
「っな!ちょっ!!」
ガッ!
腕を無理やり強い力で拘束されてそのまま僕は駅のトイレからあっという間にパトカーまで連れてこまれてしまった。
くそ!なんだってこんなことに。おかしい、何かがおかしい。僕はさっきまであんなに幸せだった。どうしてだ、幸福になるんじゃないのか………?
「君の記事は大好きだ。」
「もっと記事を書いてくれ。」
「君の書くものは全て受け入れよう!」
何を書いたってみんなが僕を肯定している。今まで僕を擁護してくれるのは自分の文章だけだった。それが今はまったく違う、幸せなんだこれで、僕は幸せなんだ!
ドンッ!!!
「だから、お前は何を言ってんだよ!!」
男が机をバンバン叩いて僕の恐怖心を煽ってくる。でも僕は何もしていない、ただ記事を書いていただけだ。必死に働いただけだ。
「いや、言ってんだろ!さっきから!僕は救われたんだ!神に!」
「いい加減にしろよっ!!」
「いって………!」
座っていた僕の顔を何故か急に思いっきり叩いてきた。それによって近くにあった鏡にうつる僕の顔は真っ赤になって腫れていた。
「どうしてこんなことするんだ?僕は何をしたんだ?本当にわからない、教えてください。」
「はっ、だからさっきから何回も言っている通りだ。何度言わせたら気が済むのか。ならご丁寧に言ってやるよ。お前は、見事に騙されたんだよ。」
「だまされ………た?」
誰に、何を?
「お前、覚えてるか?便器の中にゲロがあっただろう?あれは、お前があのインチキ宗教に飲まされた薬の副反応によるものだ。」
「薬ってまさか、あれが?そんな、そんなわけない!!」
「あ?どういうことだよ?何が言いたい?」
「僕は騙されてなんかない、だってあの薬は僕を幸福にしてくれたっ!神様がくださった神聖な薬なんだ!!あれは、必ず幸福になる薬なんだよ!!」
間違ってない、そうだ僕は何も間違ってなんかない。
「そんなもんあってたまるか。必ず幸福になる薬?馬鹿馬鹿しい。そんなんがあったらなみんな飲んでんだよ。それをなんで飲まないかわかるか?嘘だからだよ!」
「嘘、じゃない。ほんとにあるんだあの薬は本物で、」
「嘘だ、全部嘘。お前の飲んだ薬は違法薬物だよ。簡単に言えば、幻覚剤と言われるものだな。」
「幻覚剤って、その副作用が嘔吐ってこと………ですか?」
「ああ、やっとわかってきたか。つまりな、お前がさっきから俺にさんざん言ってきた幸せとか幸福ってもんは、お前の妄想だ。幻だよ。」
幻、全部、嘘。
騙された、騙された。
「まさき、お前は妄想を本物の現実のように捉え、高揚した、そうだな?だがそれは全て嘘で実際にはお前があの時書いていたという記事は、全て通っていなかった。何も関らずお前は喜び、叫んだ。狂ったように動いた。」
「お前はそのまま会社を飛び出て最寄り駅に行き、そこでも何度も何度も叫んだ。壁を蹴ったり、殴ったりしながらな。そして最終的にはあのトイレに辿り着いて嘔吐した。ここまでが流れだ。」
妄想、僕の幸せは妄想?
嘘か、馬鹿正直だからダメか?
「どうだ?少しは自分がやったことを理、」
「結局、僕の文章はゴミなんですね。」
「なんだ?開き直るつもりか?確かにお前も被害者ではある。だが、違法薬物を飲んだことは許されることではない。開き直るな。」
「ゴミなんだろ?また破られた、僕の夢も希望も、全部破られた。僕は嘘が大っ嫌いなんだ、だから記事には一切嘘は書かなかった。でも、僕が馬鹿正直に書いた記事は一度も通んなかった。」
「だから?なんだって言いたい?お前はな、そうやって自分ができなかったこと、成し遂げられなかったことから逃げて、現実逃避をしていただけだ。」
「違う、そうじゃないんだよ!!逃げたくてあんな場所に入ったんじゃない、僕は、僕の書くものを認めてくれる人が隣に居て欲しかっただけなんだ………」
「僕の頑張っていることを肯定してくれる人が誰もいなかった。家に帰ってもずっと独り。だから、頑張ったねって褒めてくれるそんな仲間が欲しかった。」
また、視界がぼやける。手に何かがポタポタ垂れて、少しだけ冷たかった。
「罪を償って、また記事を書けばいい。長い人生だ、信頼なんていくらでも取り返せるよ。」
その時刑事さんが話した言葉に安心したのか、鏡にうつる僕は微笑んでいた。
必ず幸福になる薬 学生作家志望 @kokoa555
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