良かった

ささの

第1話

 学校からの帰り道。

「佐藤お前点数ひっく!」

「そんな事より海行こうぜ!」

 Q、これらの言葉を同じ人間に言われたときの最適解を答えよ。

A、腹パン。

俺は拳を固める。張本人の村木の腹に狙いを定め、思いっきり腕を振った。思わぬ攻撃に地面に伏した村木はうめく。

 「いってえよ馬鹿。」

 「知らん。お前が悪いだろ。」

 今回のテストで俺はクラス最低点を取った。しかも一番簡単な現国でだ。勉強に重きを置いていない俺でも悔しい。そんな俺の葛藤をつゆ知らず、村木は勝手に話を進める。

「今回の現国さ、海のやつあったじゃん。」

「分かんね。」

「あれでさ、海行きたくなった。」

「こっから? 電車で行っても片道三時間だろ。」

俺の高校「山田高校」は名の通り山にあり、かつ県で一番内陸にあるので、学生で海に行くのは一苦労だ。俺も家族以外と行ったことはない。

「だからさ、行こうぜ。」

「ばっかじゃねえの。いつ、どうやって、金は?」

「明日、放課後、電車、小遣い前借り。」

片道三時間。大体往復で五千円は使う。行けば小遣いは全て海に流れる。

「明日? 普通に学校あんじゃん。部活はねえけどまだ六月だろ。」

「いいじゃん青春しようぜ〜制服デート。」

「きっしょ。」

村木はどうしてもと俺の制服の袖をグングン引っ張る。二年目の制服だが、村木のせいで三年目にはびよんびよんになる未来しか見えない。

「だってさー来年受験だぜ? 去年はコロナでまともに遊べなかったし。」

去年は酷かった。何故か学校でコロナが爆発的に増加し、結果学級閉鎖が相次いだ。お陰で、学校行事で出来たのは学校祭くらいだ。それの制限も酷かったけど。

「…まあ確かに、けどあと何人か誘おうぜ。せっかくだし藤原は?」

「じゃあ藤原と泉も誘っとく。」

「頼んだ。」

藤原は俺と村木と中学三年間クラスで一緒に馬鹿やっていた。泉は村木の家庭教師の弟さんらしく昔から仲がいい。静かだけど俺たちが馬鹿やっても大体何とかしてくれる。他にもあーだこーだ計画を適当に決めていると家に着いた。村木と別れる。牛丼を作っている最中の母に、明日のことを話すとカンカンになって怒られた。決してフライパンを叩いた訳ではない。何とか母に取り入り、来月分の小遣いをゲットした。貰う直前に「次のテストはもちろんいいんでしょうね?」とたいそう楽しそうな顔で言われたので、バッと金を取りダっと部屋まで逃げた。まさに脱兎のごとく。リュックを置き、流石にやるかと現国の参考書に手を伸ばしたとき、俺のスマホが鳴った。欲求に負けスマホを掴む。村木からのラインだ。

『藤原も泉もいいってさ〜忘れんなよ!』

それは良かった。返事の文章を考えていると、ふと浮かんだ疑問を投げかける。

『てか明日海で何すんの? 泳ぐのはまだ無理だろ。』

『まあテキトーに? 笑』

村木の雑さはDK故なのか元からなのか。呆れるほど楽観的だが成績は良く、何故かテスト前週は俺が教えられている。理由は俺の部屋の漫画の山な気がする。その後は勉強を忘れユーチューブをみていた。

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