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砂糖鹿目

Hello World

しょう来のゆめ


伊藤陽子いとうようこ


 私はしょう来、人の役にたつことをしたいです。

私のか族は皆んな人の役にたつしごとをしています。

なので私もか族の皆んなと同じく、人の役にたちたいです。


2024年8月9日


何故か私は小学生の時に一生懸命書いた作文を思い出した。

今となっては何も分からないが、多分血塗れの道路で仰向けになって倒れているのだろう。


「あぁ、死ぬんだな」


理由もなく伸ばしてきた髪が血の温もりに包まれて行くのが分かった。

さっきまで眩しかった電灯が段々と光を失い、遂に完全な夜になった。


「大丈夫ですか?」


私は少ない力を振り絞ってこう言ったと思うが、実際どれだけ正確に発音できていたかは分からない。


「私は将来、人の役に立つ事をしたいです...」


今思うとあれは幼いながら私が生きた証拠を残したいという、意思表明の様な物だったのかもしれない。

私は力のある限りあの作文を朗読し続けた。


2024年7月4日


「ねーちゃん起きて!ほら!遅刻しちゃうよ〜!」


「もう少し寝させて」


「ダメ!」


「あと1日」


「ダメ!」


「もう1時間」


「ダメ!」


「じゃあ、妥協して5分でいいから」


「ダメ!」


「分かった、分かった」


私の一日は妹で始まる。

産まれてから17年間、目覚ましで一度も起こされた事が無いのは8割ぐらいコイツのせいだと言っても過言では無い。

私は学校に行くための身支度を整えると、妹と一緒に高校へ向かった。

妹はこう見えても私と一歳しか違わないれっきとした高校生なのだ。


「ねぇー、ねぇー、姉ちゃん!」


「どうした?」


「好きな人いる?」


「いないよ。成美なるみは?」


「ねぇー、ねぇー、姉ちゃん!」


「え?無視?」


こう妹の名前を呼んでいると、私が陽子で妹が成美というのはどうも納得いかないと思い始めた。

正直交換した方が違和感無いだろう。


「今日いい天気だね!」


「そうでもなくない?曇りだし」


「ねぇー、ねぇー、姉ちゃん」


「え?無視?」


多分コイツは「ねぇー、ねぇー、姉ちゃん」という駄洒落を気に入っているのだろう。

そのお陰で私のあだ名は


「おはよう、姉ちゃん」


「おはよう」


「姉ちゃん、今日は随分早いね」


「いつも通りだと思うんだけど」


「姉ちゃん、昨日は何してたの?」


「特に何も、いつも通りの休日だけど」


「姉ちゃんと風呂入った?」


「お前、姉ちゃんって言いたいだけだろ」


「バレた?」


まあ、正直嫌かと聞かれればそうでもない。

結果去年まで完全陰キャだった私が今年に入ってクラスに馴染み始めたのはこれのお陰なのだから。


「やっぱり朝は姉ちゃんじゃないとぉ」


「やめろ」


さっきから話しているコイツは、佐原蒼子さはらそうここのクラスで去年から付き合いのある唯一の人物だ。

多分友達と言っていい仲だと思う。


「私、姉ちゃんの妹になりたいの。ダメ?」


蒼子は私に顔を異常なまでに近づけてきた。


「妹は沢山です。というか近い!」


「えぇ〜、ケチ」


「そういう問題じゃないだろ」


「じゃあ、私が姉ちゃんでいいから〜」


「いやいやいや」


因みに彼女は誰もが羨む顔面とスタイルをお持ちだが、この性格故にモテないし私以外の女子とも見たところ関わりがない。

何故私に固着するのかは不明だ。


「はーい、皆んな席につけ。今日は突然だが転校生を紹介する」


教室が突然騒めいた。

今日転校生が来ることなんて誰一人として聞いていなかったのだ。

当然私も少し驚いた。


「はいってきていいぞぉー」


(前々から適当な先生だとは思っていたがこんな時まで適当とは、、というか蒼子は何故席に座らないでここにいるんだ)と心の中で思っていると、今丁度クラスの噂である転校生が堂々と入ってきた。

黒髪短髪のボブヘア、身長は少し小さめ。

そして何より私達(最低でも私と蒼子)の度肝を抜かしたのは彼女の瞳だった。

何とそれは綺麗な白色だった、本当に不純物も何もない現在何万とある色の中で最も白に近い色をしているだろうと確信できるほどには白だった。

性別は、女、、嫌、男?、んーやっぱり女?、、男?、え?、どっち?


「はじめまして!青山輝あおやまあきらです!」


情報が整理できてない中で彼女(彼?)の自己紹介が始まった。

ハキハキしながら淡々と喋る彼(彼女?)の姿はこのクラスの人間を釘付けにした。


「はい、ということで青山さんの紹介は終わったが。何かこの子に質問はあるか?」


先程私は「ハキハキしながら淡々と喋る彼(彼女?)の姿はこのクラスの人間を釘付けにした。」と言ったが。

別にそれは彼(彼女?)の話をしっかり聞いていたという訳では無く、それは彼女(彼?)が男なのか女なのかをじっくり考察していたに過ぎない。

つまり彼(彼女?)自身に釘付けだったという訳だ。


•••


クラスはこれまでにないくらい静かになった。

それもそうだろう。

色々話していた(であろう)青山さんの話を誰もまともに聞いていなかった状況の中で、「貴方は♂ですか?♀ですか?」なんて誰も聞けるはずがない。

クラスはこのまま沈黙を貫くだろうと思われたその瞬間であった。


「はい、じゃあ佐原」


(マジか)


何と佐原がその沈黙の掟をいとも容易く破ったのだ。

クラスの視線の全てが革命家の如く堂々と手を上げる佐原の姿に注がれた。


「好きな色は何ですか?」


この質問に対してのクラスの反応は、大まかこれらの派に分かれただろう。

[何故今そんな質問を?派]

[ここで質問をした勇気は褒めてやろう派]

[目の色はコンタクトなのか生まれつきの物なのか分かるかもしれない!流石佐原さん!そこに痺れる憧れる!派]

私はといえば[何故今そんな質問を?派]だった

、だが彼女の意図をまだ私達は知る由もなかった。


「うーん、特にありません」


[何故今そんな質問を?派]「今悩んだのはどういうことなのだろうか?何かを隠しているのかそれとも単に心当たりを探っていただけだろうか?それは目の色に関係が(以下略)」

[ここで質問をした勇気は褒めてやろう派]「黙秘」

[目の色はコンタクトなのか生まれつきの物なのか分かるかもしれない!流石佐原さん!そこに痺れる憧れる!派]「落胆」

彼女のこの行動は賛否分かれた。

もうこれで質問は終わり、多くの者がそう思った。

だがしかし、ここで彼女の思惑が実行される。


「はい、じゃあ佐藤」


一人!


「はい、じゃあ小山」


二人!!


「はい、じゃあ木村」


三人!!!


どうなっているだこれは!?続々と勇者が現れはじめたのだ。


(ハッ!)


私は彼女の思惑に気づいてしまった。

彼女は青山さんの性別をどうにか聞き出す方法を探っていた。

そして辿り着いた答えが第一回目の質問をすること!

あの状況で一回目に質問をするというのはとんでもない勇気がいる。

だがしかし、逆に一回誰かが質問をして仕舞えば好奇心に駆られた者達が続々と質問をするであろう。

その度にクラスの中では「質問をしてもいいんだ」という空気が流れ、そうする事で「貴方は♂ですか?♀ですか?」という誰もが気になる質問をするハードルを下げ、最終的に誰かがその質問をする。

つまり佐原は封を切ったに過ぎないが効果はビックバン並に強力、佐原の手のひらの上という訳だ。

圧倒的知略!圧倒的観察者!圧倒的実行者!圧倒的感激!圧倒的感謝!圧倒的感心!

クラスの人間もその意図に気づき始め、続々と質問!、質問!、質問!!

だがしかし!


「好きな食べ物はなんですか?」


違う!


「好きな映画とかありますか?」


違う!!


「好きな季節は何ですか?」


違う!!!


そう、いくらハードルを下げたとはいえ。

性別に関する質問は依然として高い、その質問するまでの空気にするには徐々に個人的な質問をする必要がある。

つまり誘導が必要なのだ。

だがしかし!


「好きな天気はなんですか?」


「好きな俳優はなんですか?」


「好きな...」


先程から、ノーリスクノーリターンな質問しか飛んでいない!

ホームルームもあと少し、出席確認を含めると残り5分と言ったところ。

一部の者は絶望!圧倒的絶望感に襲われていた!


残り4分、3分、2分、1分


結構誰も踏み込む事なく、残り1分!

皆が絶望!圧倒的絶望!!


「もうそろそろ質問も尽きたかぁ?、、じゃあ出席を、、」


「待ってください」


(!)


最後に手を挙げた者、最後の希望、最後の命綱。

これを選択した者はどちらにせよノーリスクでは済まない。

だが満を持して最後に声を上げた者!それは!!


(姉ちゃん!?)


そう!!伊藤陽子!!!


皆んな今までありがとな、そしてここまで待ってもらってすまねぇ。

私も決断に迷ったが、皆んなの姿を見てこんな最後あんまりだと思っちまった。

犠牲になる覚悟ができたよ。

ありがとな皆んな!責任は全て私が負う!


「青山さん」


(ドク、ドク、ドク)


「貴方の」


(ドク、ドク、ドク)


「好きな飲み物は何ですか?」


(!)


絶望!圧倒的絶望!!真の絶望!!!

聞き出せなかった!チャンスを失った!今までの努力が手のひらの水の如く消えていく!!!

絶望!涙!吐き気!怒り!!


すまねぇ、すまねぇ、皆んな。

私には無理だった、あの砦を越えるには力が足りなかった。

すまねぇ、すまねぇ...

皆が絶望のままホームルームが終わると思われたその時だった!


「あーあ、因みに青山さんはセラー服を着ている事からわかると思うが、一応言っておくと彼女だ」


(ハッ!!)


救われた、全てが救われた!!!

感謝!圧倒的感謝!!今までの先生に対する態度を反省!!!

涙!感激!!喜び!!!故の絶句!!!!

皆が沈黙の中、祝福を感じた!!

という謎のカ○ジパートを終え、昼休みになると女子が青山さんの方へ一斉に向かった。


「あれ?佐原はあっちへ行かないのか?ああゆうの好きそうだけど」


「うん、別に。私は姉ちゃん一筋だから!」


「あー、そう」


「すみません、姉ちゃん」


「はい?」


突然話しかけてきたのは朝来た時から今まで、ずっと机の上で突っ伏寝をしていた橋本長江はしもとながえだった。

彼女と話すのは人生初だ。(というか初対面で姉ちゃんって)


「ど、ど、どうかしましたか?」


本当に突然だったので、言葉に気をつけようと昔の陰キャ成分を少し出してしまった。


「今、昼休みですか?」


「そ、そうですけど」


橋本さんの瞳が突然覚醒したかのように見開いた。


「またかぁ!!」


クラスが騒めき始めた。

橋本さんは私と同じ陰キャだったはずだ、最低でも突然騒ぎ出すような人ではない。


「また記憶を消された!!もう何回目だ!!!」


「え?、え?、、え?」


「まあまあ、橋本さん。こんな所で叫ばずに、外で話しましょう?ね?いくらでも話聞きますから。ほら、姉ちゃんも来て」 


外に出ると橋本さんは少し呼吸は荒いながらも、さっきみたいに叫ぶ事はなくなった。

とりあえず一安心。


「どうしたんですか?突然叫んだりして?私と姉ちゃんにできる事はありますか?」


「ハァ」


橋本は大きく溜息を吐くと落ち着いた口調で喋り始めた。


「すみません、突然驚かせてしまったようで」


「い、いえいえ全然。大丈夫です、はい」


「で、何がどうしたんですか?記憶が消されたとか言ってましたが」


私達は外に置いてある長椅子に座った。


「実はここ最近、ここ数日間。午前に何をしたか記憶がないんです」


「「はい?」」

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