第8話:落ち着け!ただのメッセージだ

自宅のマンションに到着し、エントランスの前で郵便受けに入れてある雑巾を取りだして、タイヤを拭いてから、オートロックを解除してマンションの中に入る。


↑ボタンを押して5階に止まっていたエレベーターを呼び、チン!という音と同時に開いた扉を片手で止めつつ、パンタを中に入れ、立てかけながら7階のボタンを押す。


10階建ての7階、1番奥の角部屋が僕の部屋。松平先輩の超豪華タワマンから徒歩でも5分ほどだった。


うちのマンションの裏手にもスーパーがあって、こちらの方が軒並み安く、閉店も24:00と非常に助かる。

先ほど立ち寄ったスーパーもあるにはあるのだが、あちらは閉店が22:00でバイトの帰り道に寄る時くらいしか利用していない。

他にも総合病院まで歩いても15分ほどだし、ドラッグストアも近い。


別方向に足を運べは商店街もあるし、その向こうには大きな公園もあるし、その先には年1回大きな花火大会が開催される河川敷もある。

一人暮らしをする上では最高の周辺環境ではないだろうか?


「河川敷を通っていくサイクリングコースもあるしね」

アルミフックの壁にかける前のパンタに話しかける。

 

「高校には多少時間はかかるけど、お前がいれば時間も気にならないし楽しいもんな」

フラットハンドルとサドルを使い捨ての紙ウエスで拭く。


するとキッチンとリビングの間仕切り用に据え置いた棚の上からスマホの通知音が聞こえる。


確認すると送信者名は…夏夜?


「かや?かよ?なつよ?って、とにかく誰??あ、松平先輩か?」


紙ウエスをゴミ箱に入れスマホを手に取る。

なぜかスマホが震えているのはバイブレーター機能ではなく、自分の手が小刻みに震えていたのだった。

 

(お、お、落ち着け!ただのメッセージだ)


スマホを持つ震える左手を一度離し、グッパ、グッパと開いて閉じてをしてから、改めてスマホを持ち、右手の人差し指でアイコンをタップ。


kayo.mと表示されている白い猫のアイコンをタップして、松平先輩からのメッセージを見る。


『浅見くんこんばんは。

おかえりなさい。

先ほどはありがとうございました。

帰宅して落ち着いてから公園でのことを思い出して、

とても恥ずかしいところを見せてしまったなと反省しています。

併せて浅見くんには感謝しています。

心細くてどうにかなってしまいそうな私を慰めていただいてありがとうございました。

今度お礼をさせてください。

/夏夜』


「うは~!!!松平先輩からのメッセージ!交換したのは夢じゃなかったんだ!しかもメッセージでもやっぱり超絶丁寧!なんかいい匂いもするし(100%気のせい)」


スマホを天井に向かってかざし、嬉しさのあまりその場でクルクルと回り出す。


いやいや、こんなことをしている場合でもない。既読をつけてしまったし、早速返信しなければ。


『松平先輩こんばんは。ご丁寧にメッセージありがとうございます。ただいまです。

先輩もおつかれさまでした。公園でのことは気にしないでください。僕ごときが松平先輩の役に立てたのなら、多分家族にこのことを話せば、微生物のくせにでかした!と珍しく褒められるに違いありません。これからもお気遣いなくご連絡ください』


「よ、よし!これで失礼は無いはず…だよな?多分…。誤字もないし」

送信ボタンを押してキッチンへ向かった。

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