第3話:公園で泣いていたのは

家の近くの方まで戻ってきて、ふと牛乳が切れていることを思い出した僕は、帰り道のスーパーに立ち寄った。


「やっぱりこれだよね。もーもー印のやつ」


成分はあまり気にしていないというか、そもそも成分調整とか低脂肪、無脂肪の違いがよく分かっていない。本当はちゃんと調べて選んだ方がいいんだろうけど、味が気に入っているしお安いのでもっぱらこれ一択。


(ここからなら自宅にはそう遠くないし、家までパンタと散歩するかな)


ショルダーバックから取り出したエコバッグに、もーもー印の牛乳を入れて店を出て、パンタのフラットハンドルに引っ掛ける。

 

(ん? なんか音がするな)


パンタから僅かではあるけれどカラカラと音がすることに気がつく。


「あれ? フロントディレイラーなのかな? 少しトリムしてみるか…」

すぐ近くにある公園にパンタをとめる。

 

もう自宅も近いわけだし、パンタはいつも部屋に持ち込んでいるので、部屋の中で調整してもいいんだけれども、気がついた時にすぐに手を入れないと万が一パンタが不調になったら非常に悲しい。


(やっぱり少しチェーンが干渉してるぽいのかな。とりあえず、ちょっと軽く応急処置的にやっておいてそれでもダメなら家に帰ってから本格的にメンテしよう)


微調整してからタイヤを回してみると、カラカラ音が消えた。


「良かったぁ。もしかしたら今朝から音がしていたのかな? ごめんねパンタ」


手洗い場までパンタを移動させて、手を洗おうとした時…。


「グスっ…、ひぐっ…ぅぅ…」


(ん? 鳴き声? 誰かが泣いているのかな?)

 

蛇口の水を止めて口にくわえたハンカチで手を拭きながら泣き声のする方に目をやる。


声が漏れないようとしているのか手で口元を抑えながらベンチに座って泣いている女性の姿があった。


(どうしたんだろう? 大丈夫かな?)

 

その場にパンタを停めて女性の方へと歩みを進め、大丈夫ですか? と声をかけた。


「す、すみません。大丈夫です。グスっ、お気遣い、ありがとうございます」


泣き顔を見られたくないのか顔を向こうの方に捻りながら答える女性。


(あれ? この声は…もしかして松平先輩?)


いつもアルバイト先での明るい姿しか見たことがないし、先ほどまでとうってかわった松平先輩の様子に驚きを隠せない。こんな局面に出くわすとは信じられないけど…。


「あの…、もしかして松平先輩ですか?」


え? と泣き顔のまま驚いた表情でこちらに体を向き直す松平先輩。


「浅見くん…? グスっ」


僕は慌ててショルダーバックのジッパーをおろして、中からさきほど使ったハンカチではなく綺麗なハンドタオルを取り出す。


「これ、使ってください。これは今日まだ使ってないやつなんできれいなままです」

松平先輩にハンドタオルを差し出した。


ありがとう、と消え入るような声で受け取って涙を拭く松平先輩。


「一体どうしたんですか? 泣かなきゃいけないようなことが何かあったんですか?」

 

バイト中には見ることのない松平先輩の憔悴した状況に混乱してしまい、心配で仕方の無い僕は思わず聞いてしまった。


「お見苦しいところを見せてしまって本当にごめんなさい。浅見くんのお手を煩わせてしまって…」


「いや、この状況で僕のことを気にする必要は一切ありません。今そんな心配を松平先輩がする必要もありません」


「ありがとうございます…。ヒグッ…。

お恥ずかしい話なのですが、実は…」


松平先輩は理由を話し始めた。

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