閑話 私、捗、GSDC入会しました!

「君を試させてもらっていた。すまない」

 毒島さんは、私にそう言って頭を深く下げた。

 私は毒島さんの所属する探偵組織GSDCに入ることにした。GSDCといえば、昨年日本中を騒がせた、空から無数の槍が降ってくる事件のトリックを見破り、犯人逮捕まで至らせた団体だ。そんな優れた団体であるGSDCに入ることは、私がクライム・フリークを追ううえ、自分の推理能力を上げるうえでも役立つし、まあ、とにかく入ることにした。

 GSDC関西支部の事務所は、京都府京都市の北大路沿い、鴨川付近にある雑居ビルの地下一階にあった。事務所内には、見るからに高そうな大きな黒色のソファー一対とその間に焦げ茶色の木の机が一つ、奥に社長室や校長室でよく見るコの字型の大きな机があった。

 毒島さんは電話での印象と違い、渡部篤郎似のイケオジだった。白髪交じりのオールバックの髪がかっこよくグッドだ!上下灰色のスーツも似合っている。

「いえいえ、結果、GSDCに私が入れたわけですし、気にしなくていいですよ」

 私は顔の前で右手を縦にして左右に振りながら、そう言った。

 そのとき、事務所ドアの開く音がした。三人の人物が事務所に入る。

 一人は、右側が三角と左側が四角のフレームのメガネをかけ、黒い髪の毛が肩までかかっている、ひょろ長く背の高い、八尺様のような体型の男。黒いタートルネックのTシャツとジーパンというスティーブジョブズな格好をしている。顔はまつげが長く鼻筋も通っており、栗原類系だ。

 もう一人は、茶髪混じりでセミロングのストレートヘアの女性で、有村架純と戸田恵梨香を足して割ったような顔だ。とにかく美人ということである。背丈は私ぐらいの小柄で、白いGジャンにモスグリーンのワンピースを組み合わせたファッションをしている。

 最後の一人は、芸人の銀シャリが着ているような青いスーツを着て、白いカッターシャツ(これは西日本方言か)の首元に何故か赤い蝶ネクタイを付けている男だった。背も平均男性より低く、その姿は、読売テレビ放送の某テレビアニメのあの人気キャラクターに似ていた。

「待ってたよ、みんな。今日から当GSDCのメンバーになった新人のはかどるさんだ。簡単に自己紹介してくれ」

「おお・・・アイドルの捗さんじゃないですか、まさか僕と同じく探偵だったとは!歓喜、感激、雨嵐。どうもミステリー小説大好き探偵、浜大津はまおおつみことです。浜大津って名字だけど東京出身です。豊富なミステリー知識を使って解決するので、ナード探偵って言われてます。一番好きなミステリー小説は『美濃牛』です」と三角、四角メガネの長身男。

「京都支部では、なにげにウチ以外の女性は初めてやね、初めまして千本通せんぼんどおり耳塚みみづかって言います。こんな名前やけど、滋賀県出身やからね。犯人やと思う人の身辺調査をするために、とことん尾行したり、SNS監視したり、その人の家から出たゴミあさったりしてるから、周りからはストーカー探偵って言われてます。ウチは不服なんやけどね。あんまりミステリー読まないんやけど、一番好きなミステリー小説は『狂骨の夢』かもしれへん」と美女。

「俺は、ドナン、名探偵だ。お酒を呑んで酩酊状態になったとき、壁に何度も頭をぶつけることで、脳が活性化し推理能力を上げることで数々の事件を解決してきた。この推理方法から、この世界では、酩酊の間に探偵の探を挟んだ、”酩探酊”と呼ばれている。よろしくだ。俺の一番好きなミステリー作品は『金田一一の事件簿』だ。よろしく頼む」とドナン。

「ドナン君は探偵ネームしか名乗らなくて私たちも本名を知らないんだ。探偵ネームって今は廃れた文化でさ、名乗っているの関西支部だと私とドナン君だけなんだ」と笑みを浮かべながら毒島さんは語った。

「そういや、私も自己紹介しないと、探偵ネームは毒島ぶすじま小狭しょうきょうだけど、本名は壬生川みぶがわ義信よしのぶ。関西支部の支部長を一応やらせてもらっている。推理法法は試行推理、犯行で使われた凶器や毒、薬などを実際に自分で実際に試してみて、推理するんだ。特殊な訓練を受けているから、被害者たちと違って私は死なない。さすがに人体を引きちぎられる事件とかの再現不可能な事件は小さな再現になるけど。この一見不死身ともとれる私の身体から、この世界で悪魔と言われ始め、そこに私の毒島、まあこれは私のバイブルである野球漫画『ストッパー毒島』から取ったんだが、その探偵ネームから悪魔の毒々探偵と言われるようになったんだ。一番好きなミステリー小説は『すべてがFになる』かな。一番読み返しているし。タイトル回収が最高なんだよ。いつ読んでもあのシーンで感動している」

 四人の探偵たちの自己紹介が終わった。私も自己紹介と横に居るシャン・プーの紹介をした。その後、しばらく昨今のクライム・フリークの事件に関して談話した後、一緒に鴨川デルタまで歩いていき、飲み会を開くことになった。

 飲み会の最中わかったことなのだが、私は新人なので、しばらくの間は、ナード探偵こと浜大津さんに付いて捜査をして、GSDCのノウハウを学ぶことになるらしい。私はどうせなら同性の千本通さんと一緒に組みたかったが、ストーカー探偵をする際に人が多いと不都合があるからなのだろうし、文句は言わなかった。

 飲み会の最中、私はずっと疑問に思っていたことをノンアルしか飲まず、他のメンバーと違って酔っ払ってない浜大津さんに聞いてみた。

「GSDCって何の略なんですか?」

「GSDCは、God Summer Detective Club つまり神・夏探偵倶楽部の略なんだ」

「神?夏?」

「ははは、そう言うと思ったよ。神と夏って言葉でピンとこないってことはミステリー小説をあまり読まない口かい?『神』と『夏』ってのはミステリー小説の名作のタイトルに含まれることが多いんだ。例えば、『夏』なら、ミステリー界に衝撃をもたらした京極夏彦の『姑獲鳥の夏』、その展開で数々の読者たちに驚きをもたらして、最近だと変わった帯でも話題になった『向日葵の咲かない夏』、個人の方が行った奇書選手権で堂々の一位を取った麻耶雄嵩先生のド名作であり、唖然とする展開でお馴染みの『夏と冬の奏鳴曲』、後、最近復刊した青春ミステリー小説『ぼくと、ぼくらの夏』、乙一の衝撃的デビュー作『夏と花火と私の死体』があげられるね。で、次は『神』。児童書レーベルなため、数々の子供たちに図書室でトラウマを与えた『神様ゲーム』。メフィスト賞第二回受賞作で後続作品に多大なる影響を与えつつ、その奇怪な内容からバッシングを受けた『コズミック 世紀末探偵神話』とその次に出たシリーズニ作目、全てのミステリーの総決算と言われた『ジョーカー 旧約探偵神話』、コンパクトにまとまって考察しがいのある秀作『龍神の雨』とかね。おっと道尾秀介が二作品も入っちまった。僕が道尾ファンだからだゆるしてください。まあ、まあ、実はこれは偶然なんだけどね。聞くところによると、『神様ゲーム』と『夏と冬の奏鳴曲』が好きな人がこのGSDCを創設しただけらしい。ほら、このニ作品のタイトルの頭文字をとると神・夏になる」

 だったら、最初から、最後の部分の話を言えよと思ったが、オタクという者は自分の知識を人に話すのが好きな人が多いため、彼もその口だったのだろう、そして、この話の勢いから言ってミステリーの話をこの支部では最近あまりできなくて久々に話せてうれしかったのだろう、そう思い、少しかわいそうになり、怒ることはやめた。


 飲み会が終わりタクシーで帰り、自宅マンション。畳の部屋でまた私はマインドフルネスをして、精神世界に入った。

 ”常闇”で思う。

 思えば、ナード探偵、ストーカー探偵、名探偵ドナン、悪魔の毒々探偵、変な探偵ばかりの支部だ。

 ナード探偵はまあ、自分の知識を活かして解決するわけだから、普通の探偵っちゃ普通の探偵なのだろう。

 ストーカー探偵も尾行、SNSの監視という点では普通の探偵と一緒だが、ゴミを漁るという行為はよくわからない。そういや、ゴミ漁りで思い出したが、大昔の週刊誌は芸能人のゴミ漁りをして、プライベートを明かすというゲスの極みみたいなことをしていたという。そこからしばらく経って、村崎百郎というライターが『危ない1号』という雑誌でゴミ漁りをするルポを書いたこともあった。後に村崎は『鬼畜のススメ:世の中を下品のドン底に叩き堕とせ みんなで楽しいゴミ漁り』という本まで出版している。村崎は著書の中で漁ったゴミと対話を続けることで他者理解、人間理解ができると語っている。ゴミ漁りを行うことに対して、私自身は否定的立場だが、良くも悪くも、それだけゴミ漁りという行為は、ゴミを捨てた人の細部や裏を明かすことができるのだろう。そしてそのことが一冊の本を出版できるくらい、世の中の関心を引いていたのだろう。というか、村崎といえば、鬼畜系、電波系という言葉を流行らせた人間でもある。電波系・・・この間の事件(起きてはいなかったわけだが)と妙な符号がある。私があの事件を推理する上で思い浮かべた美少女ゲームでの毒電波という概念も、この電波系の歴史の流れから生まれたものなのだ。電波系、といえば、『電波的な彼女』という作品もヒロインが電波系の女の子で主人公と前世で繋がりがあり、忠誠を誓う。この作品は、4巻が全然出ないことで有名だ。私が生きているうちに出るのだろうか。

 次は名探偵ドナン。明らかにあのキャラを意識した格好だが、メガネだけ無いのが腑に落ちない。まあ、それはさておき、あいうえおっと、かきくけこ。彼の推理は酩酊状態で頭をぶつけてその刺激で脳を活性化する酩探酊。はっきり言って狂気の沙汰に足を突っ込んでいるが、この推理方法は理にかなっているのだろうか。

 頭を刺激…そういや、ガモウひろしが『とっても!ラッキーマン』の次に週刊少年ジャンプで連載した作品で『ぼくは少年探偵ダン♪♪』というものがある。全2巻で打ち切られた作品だ。1巻の強烈なインパクトの表紙は見応えがあり、精神世界で、表紙を浮かび上がらせた私は思わず爆笑してしまった。この作品では、事故によって頭に穴が開いた主人公が、その穴に酢を入れる推理ならぬ、”酢入り”で推理力を上げて事件を解決に導く。酢を入れることで、脳に刺激が行き、脳が活性化しているというわけだ。また、『でんぢゃらすじーさん』で知られる曽山一寿の短編集『そやまつり』収録作「学べ!!天才太郎」では、脳がむき出しになった小学生が登場する。彼の家来であるおじさん、ぼぶが指で直接彼の脳を刺激することで、瞬間的に彼の脳は活性化するのだ。だが、その後彼は…それは置いといて、とにかく、脳を酢や指で刺激することで脳を活性化することはありふれたことなのかもしれない。マッサージをすることで、身体に良い刺激が来て、疲れがとれて元気になるように頭をぶつけ刺激したら、脳も元気になるのだろう。いやこの例え合ってないか。 

 最後に、悪魔の毒々探偵、最初彼の推理を聞いたとき、やべえと思ったが、某少年漫画の電気使いのように、様々な毒物、薬物を試して抗体ができているのだろうし、凶器に関しては常人より出血がしにくい体質と考えたらできるのだろう。または、宇宙海賊コブラのように身体が治りやすい体質なのかもしれない。悪魔の毒々といえば、映画では『悪魔の毒々モンスター』という作品がある。所謂B級映画ではあるが、なかなかの名作だ。有機廃棄物が入ったドラム缶に入った主人公の身体が溶けて、モンスターみたいになってしまうという物語だ。化学物質を扱った作品であるし、その映画を知っている人が彼の通り名にタイトルの一部を使ったのだと思われる。

 まだ新人で気が置けないのか、飲み会でも、先輩たちがあまり自分自身のことを語らないので、私の持っている知識でGSDCの先輩たちのことを推理してみたが、うーん・・・結局の所変わり者集団であることに変わりは無さそうだ。果たして私捗はこの集団でうまくやっていけるのだろうか?

 

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