第三話 世に永遠に生くる者なし No One Lives forever 4 ②
凪は冷ややかに言った。
正美は言葉に詰まった。まさに、彼もそう考えたらからこそ提案したのだ。話が教師レベルになれば事はもみ消される、と。
「なら、僕が」
彼は食い下がった。
凪は彼の手を取って、軽く握ってきた。
「ありがと。でも、ごめんね。これはフツーのあんたなんかがついていける話じゃねーのよ」
「そんな……!」
と彼が言いかけたところで、男の指導教師たちが三人も女子トイレにドカドカと入ってきた。
「貴様、またか!」
教師たちは凪に向かって怒鳴った。
凪は平然としている。
「あ、あの」
と正美が彼らに話しかけようとしたが、教師たちは彼には見向きもせず、ただ彼の手にあるタバコを取り上げて、
「これが証拠だぞ、おい!」
と凪に突き出した。
凪は無言だ。
そのまま、彼女は指導室に、ほとんど犯罪者のように連れていかれた。
正美は心配そうな顔で後を追ったが、途中で教師に「おまえは教室に戻れ」と言われて彼らを廊下から見送った。
周囲に誰もいなくなったところで、彼の顔からゆっくりと表情が消えていった。
「…………」
ばたん、と指導室のドアが乱暴に閉じられる音が廊下に響くと、正美はきびすを返して歩き出した。
その顔には、もう何の動揺も残っていない。
「…………」
彼は凪の言った〝一致〟という言葉を心の中で反芻した。やはりあれは、どう考えても一番最初に実験した鈴宮孝子が失踪扱いになった時期と〝一致する〟という意味にしかとれない。
彼女は何かを知っている。
それも、相当に深く、だ。
「…………」
彼の無表情が一瞬だけ破れ、その下の素顔が見えた。
それはまるで、一週間一滴の水も飲んでいない砂漠の放浪者のような、渇ききって毛穴がざらざらにささくれだっているような、ひどく殺伐とした乾涸びた眼光だった。
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