第二話 炎の魔女、帰る The Return of the Fire Witch 2 ②

「いいか、オレだけじゃないんだ。エコーズもおまえを捜している! ここで演技のために腕一本失ったら、確実におまえの負けだ!」


 なにを言ってるのか、さっぱりわからない。


「しない、もうしないよぉ! もうクスリなんかに手を出さないからァ! やめてお願い、許してェ!」


 京子は泣き叫んでいる。クスリ?


「草津秋子を殺したくせに、なにを言ってる!」


 凪は凄んだ。

 わたしは心臓が止まるかと思った。

 草津秋子──

 それは、行方不明になったうちの一人、一年の生徒の名前だったからである。


「知らない、知らないよ! あたしたちじゃないよ、あたしじゃないよぉ! クスリはあの子からもらってただけで──」


 そのとき、みしり、と京子の腕から嫌な音がした。

 ヒィ、と京子が白目をむきかけたとたん、


「……ちっ! 普通人か!」


 と一言うめいて、凪が急に手を離した。

 ごろん、と京子は土手の上に転がった。


「京子!」


 わたしはあわてて彼女のところに駆け寄って、抱きとめた。


「大丈夫。関節を破壊する前にやめた。少し痛みがあるだけで、すぐに消える」


 凪が言った。


「う、うう……」


 京子はふるえている。


「な、なんなのよいったい!」


 わたしは叫んだ。


「事情は木下本人から聞くんだね、末真さん」


 凪の声は平静そのものだった。


「ううう……」


 京子はがたがたと歯を鳴らしていた。よほど怖かったのだ。無理もない。わたしも同じだ。


「いくらなんでも、これはひどいわ!」

「でも、表沙汰になるよりはましだろう、木下」


 凪が言うと、京子はびくっ、と身体を固くした。


「いいか、これに懲りたら、他の仲間たちと同様、つまらない誘いに引っかかるんじゃないぞ。わかったな」


 そしてきびすを返す。


「ちょっと、待ってよ!」


 呼びかけると、凪は今度はわたしの方を向いて、そして言った。


「末真さん、あんたも、いつまでも五年前のことを引きずってんじゃない。あんまりこだわると、たたられるぜ」


 男の子みたいな口の利き方が、そのボーイッシュな顔立ちにどうしようもないほどに似合っている……でも問題はそんなことではない。


「な、なんで──」


 なんでこの人が、五年前わたしが殺人者にねらわれていたことを知っているのだ!?


「ち、ちょっと待って──」


 わたしは彼女を呼び止めようとしたが、炎の魔女はそれ以上は何も言わず、この場から歩み去っていった。

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