第30話 メルリア・ユルハ・ヴィント
「お待たせしました。ギルマスの――」
と、言いかけたその美しい女性は、そこで言葉の続きを言うのをやめ、ついで、
「ルイジェン!? あなたなの?」
と、驚いたように小さく叫んだ。
ユーヒはその様子を見て、ルイジェンとこの女性、恐らくメルリア・ユルハ・ヴィントが知り合いであると初めて知ることになる。
「え? ルイジェン、知り合い、なの?」
虚を突かれたユーヒが思わず隣にいるルイジェンに声を掛ける。
「わりぃ、なんか、言いそびれちまって――。――ご無沙汰しています、メルリアさま。ルイジェン・シタリア、只今帰還いたしました」
そう言ってルイジェンは「敬礼」をする。
「敬礼」は、いわゆる王国や公国の家臣が主人に対して行うものである。いくら相手がギルマスと言っても、冒険者同士は敬礼をしない。それは、冒険者同士は先輩後輩はあっても主従の関係ではなく、あくまでも「仲間」だからだ。
つまり、ルイジェンは、メルリアの家臣だということなのだろうか?
「お帰りなさい、ルイ。元気そうで何よりだわ。いろいろと話したいこともあるけど、その前にこちらの方をご紹介して?」
そう言ってメルリアがユーヒの方に視線を移す。
――――――
僕は、息をのんだ。
この子がメルリア・ユルハ・ヴィント――。
すでに1200歳以上になっているだろう彼女だが、変わらず20代後半の容姿を保っている。
母のアリアーデもこのくらいの容姿をずっと保って生きていた設定だったが、やはり、それを受け継いでいるのだろうか。
僕は、すぐに言葉が出てこない。ただ、あまりの感動に体がぶるぶると震えているのを止められなかった。
やがて、ルイジェンが僕のことを紹介する。
ルイジェンは、僕の名前を告げたあと、これまでの経緯を「報告」した。
その間、僕はただメルリアをじっと見つめて、駆け巡る頭の中を整理しようと奮闘している。
聞きたいことがたくさんある――。
僕が描かなかったアルやケイティの最後の姿。ルシアスの最後もだ。それにアリアーデは? ゼーデは? 竜族の再興はどこまで進んでいるのか? ベイリールで見た「オルトマン&カーテル商会」、つまり、リカルド・オルトマンとチュリ(=チユリーゼ・カーテル)はそういう関係になったのか――など、山のように聞きたいことが溢れてくる。
「――というわけです。メルリアさま、どう思われますか?」
あまり聞きなじみのない、ルイジェンの丁寧な口調。それすら、気にならない程に頭の中がいっぱいになり、まずは何から聞けばいいのか、いまだに整理がつかない。
ルイジェンの話を聞き終えたメルリアが、こちらに視線を向けてくる。
さあ、なんて言えばいいんだ――?
と、言葉に詰まる。
すると、彼女はふわりと微笑んで、こう言った。
「ようこそ冒険者ギルドへ、「
僕は、その言葉を聞いて、なぜだかわからないが涙が溢れ出てくる。
ただただ、涙があふれて、のどがぎゅうと締め付けられるような気分に見舞われる。
言葉が、でない――と、そうおもったのだが、自分の想いとは裏腹に、口が勝手に音を発した。
「――『ルーキー』……。アリアーデがアルを弟子にすると決めた時もそう言ったんだ。『ルーキー、あなたは私の弟子になるのよ』ってね……。ははは、まさか、その言葉を、彼女の娘の君から、僕が聞くことになるなんて、全く人生ってのは、こんなにドラマチックなものなのか――」
最初に口から出たのは、それだった。
そう口にした後、ようやく自分の気持ちに整理が付く。やはり、結局はこの子に頼るしか方法は無いのだと覚悟を決めた。
「メルリア・ユルハ・ヴィント。君にお願いがあってここまで来た。エリシアに取り次いでくれないか?」
僕の言葉に彼女はどう反応するだろうか?
無礼者と、吐き捨てるか?
だが、いまさら後には引けない。僕にだって僕の人生がある。
これには僕の人生が掛かってるんだ。
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