第16話 ダーンウェルで夕食を――
聖歴1386年12月も今日で終わりだ。
二人はようやく、南北街道とケリアネイアの合流地点、古代遺跡前宿ダーンウェルに到着している。
古代遺跡前宿ダーンウェル――。名前の由来となるダーンウェル遺跡が目の前に広がっている宿場町だ。
この場所が主人公たち五属連合軍と魔族の最終決戦場となった、という歴史的事実はしっかりと言い伝えられている。
というより、むしろそれこそがこの宿場町の最大の「売り」だ。
過去の遺物とはいえ、大英雄アルバート・テルドールたち冒険者ギルド『木の短剣』創設メンバーたちや、現ギルマスの実父、故ルシアス・ヴォルト・ヴィント公爵が活躍した、魔族侵攻防衛戦の舞台となった遺跡である。
この世界の起源ともいえる場所の為、今でも観光に訪れる旅行者や、英雄たちの
「アルバート・テルドールに、ケイティス・リファレント、レイノルド・フレイジャにジーク・ニュール陛下、クアン・ハアルジーン、チユリーゼ・カーテル、ユーフェリア・リュデイルイーさまたちがここで魔族の侵攻を食い止めたのさ!」
ルイジェンが目を輝かせて遺跡の方を指さす。
(もちろん知っているさ――。それにしても、ジーク・ニュール陛下か、やっぱり、国王を継いだんだな)
ユーヒは目を細めて遺跡の方を見やる。
ジーク・ニュールはレトリアリアの王族だ。
故あって、
その後改心した叔父との間で事実上の和解が成立したというところまでは書いたが、その後、彼が王になったかどうかの記述をした覚えはない。
一時期、アルたちと行動を共にしていた時期があり、冒険者としても活躍していた。
おそらくのところ、このルイジェン・シタリアもその『大英雄たち』にあこがれる冒険者の一人なのだろう。
そう言えば、このルイジェンの過去についてはあまり聞いたことがない。というより、ルイジェンが全く話そうとしないのだ。
彼ほどの年齢であれば、これまでにも冒険者パーティに所属していたことはあるだろう。それは、彼の知識を見れば明らかだ。
おそらくのところ、世界のあちこちにすでに訪れていると思われる。
「ねえ、ルイはアルバート・テルドールのような魔法剣士になりたいの?」
何の気なしに、ユーヒはルイジェンに尋ねてみた。
「――あ? ああ、まあな……」
意外に歯切れが悪い答えが返ってきたことで、ユーヒは少し話を進めることを躊躇ってしまった。
「――魔法って、誰にでも使えるわけじゃないんだろ?」
と、少しだけ「焦点」を変えようと試みる。
この世界において魔法は、限られた能力を持つものしか扱うことが出来ないとされている。が、それは人族に関しての設定だ。
精霊族や竜人族、妖精族、魔族の4種族は、属性の差はあれど魔法を扱えるものがほとんどだ。
人族はごく一部のもの、亜人族は全くのゼロという感じだったはずだ。
新生精霊族である彼はそもそも魔法を扱えるのだろうか?
そう言えば、彼が魔法を使っているのを見たことがないように記憶している。
「そうだな――。それより、夕飯だ! ここの名物は、「オコノミヤキ」だぜ? レトリアリアは結構穀物産業が盛んでな。ダイワコクから入って来た「オコノミヤキ」という料理がハーツ産の小麦と相性が抜群で、ハーツとこのダーンウェルの名物料理になってるんだよ。ほら、混んでたら大変だからな、とにかく行こうぜ――」
そう言って、そそくさと駆け出してしまう。
ユーヒもさすがに初めて訪れる町で相棒とはぐれでもしたら面倒だと、慌ててルイジェンの後を追った。
(…………、なんという事だ、これはまさしく『お好み焼き』ではないか――!)
ユーヒは、目の前の鉄板で今まさに焼かれている円盤状の料理を目にして、さすがに驚いた。
いや、確かにルイジェンも「オコノミヤキ」と言った。が、まさか全くそのものが出てくるなんて思いもしなかったのだ。
『
「一応、ブタタマとイカタマを一枚ずつ注文したから、半分ずつにして食べようぜ? あ、それから、ヤキソバも一人前注文したから
さっきは遺跡に目を輝かせていたかと思ったら、今度は「オコノミヤキ」に目を輝かせているルイジェン。
このハーフエルフ、なかなかに『
なるほど、それで――。
ルイジェンがユーヒと一緒に行動してくれるという理由が分かったような気がした。
ルイジェンは一応、ユーヒが雇っている「用心棒」という形だ。その報酬は、食費と宿泊費・交通費だ。つまり、ユーヒに付いて回るだけで、ただで食べたいものが食べられる。
それに、ユーヒの目的地は最終的にはシルヴェリア王国王都だが、その前にソードウェーブにも寄らないといけない。つまり、結構あちこちに行けるというわけだ。
(まあ、いいけどね。一人よりは数倍心強い――)
「ん? どうかしたか? 口に合わないってことはないだろう?」
「いや、何でもない。ルイがやたらと美味しそうに食べるから、見惚れてただけさ。さあ、僕も食べるぞ!」
そう言うなり、返しヘラをうまく使って「オコノミヤキ」をすくうと、ハフハフと口を動かす。
(なつかしいな――。お好み焼きなんて、本当に久しく食べなかったから――)
この日ユーヒは、久しぶりに味わう「ソースとマヨネーズ」という最強コンビを堪能したのだった。
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