第10話 エリシアさまはあいかわらずのようです


 ああ、どうしましょう!?

 希望の種を精製できたと思ったのに、どこへ行ったか分からなくなってしまったわ!?


 エリシアは1000年以上ぶりに「希望の種」を生み出すことに成功した。そして、この世界の新たな問題に対応するために、エリシアは迷わずその種を、人族世界に投入したのだが――。


 1200年ほど前――。

 エリシアは二つの「希望の種」を人族世界に投下した。そしてその「種」は思った以上の成長を遂げ、見事に実を結び、この世界を危機から救った。


 魔族侵攻――。


 当時はそう呼ばれた。


 これまで分け隔てられていた魔族が彼ら固有の世界を破壊神ゼルダによって奪われた結果、竜族世界へ侵攻しこれを占領。さらには人族、精霊族、妖精族、亜人族ののこった四属世界に対し、さらなる侵攻を目論んだ。


 これを阻止するために、エリシアは二つの「希望の種」を人族世界へと投入したのだった。


 それから1200年以上たったが、世界は新たな脅威にさらされることが明らかになったのだ。


 その問題に対処するために、ようやくのことで生み出した「希望の種」を人族世界へ投入したのだが、なんのトラブルか、その行方が全く知れないのだ。


(なんか、投入するときに変な違和感があったのよね~。でも、「ま、いっかぁ」って投入しちゃったんだけど、あれがまずかったのかなぁ~)


 エリシアの適当さはどれだけ悠久の年月が経とうと変わらない。


 だが、この世界を生み出した創生神が察知できない存在など、あろうはずがない。もし仮にそういう存在があるとすれば、それは「この世界の摂理」から外れる存在ということになる。


(ま、さ、か、ね~)


 久しぶりに生み出し、投入した希望の種だ。

 おそらくどこかで掛け違えがあったに違いない。


 でもまあ、それほど焦ることはない。いずれにしても、その「種」はなんだかんだと紆余曲折を経ても、そのうち私の目に留まることになる。


 なぜなら、その存在は「特別」なのだから。



 アルもケイティも、最初は小さな命だった。それが、若者になり、自我が芽生え始めた途端に急激な成長を遂げ、最後には問題をしっかりと解決するに至った。


 本当に人族の成長には驚かされる。


 ほかの種族にはない、圧倒的な「成長力」。これこそが人族の特性だ。


 人族という種族は、秀でた身体的・精神的能力というのはない。


 例えば、竜族なら圧倒的な量の魔素保有量、精霊族ならその知性、妖精族なら魔法精通度、そして亜人族には身体能力がある。

 しかし、人族は、そのどれにおいても他の種族を凌駕するものがない。


 ただ一つあるのは、「協調性」と言えるかもしれない。


 他のものと交感し、話し合い、共通の目的を見出し、助けを求め、また、他者を命に代えても守ろうとする。


 この種族は、世界のことを自分の家族のことと同様にとらえ、考え、行動できるという一種独特と言える風潮がある。


 「勇気ブレイブ・ハート」――。


 なるほど、その言葉がふさわしいのかもしれない。


 そして、他種族のものは、この人族の「勇気」に触れ、ともに行動したいとそう思うのだろう。


 かつてルシアスと行動を共にした竜族の姫アリアーデや、アルやケイティと行動を共にした亜人族のクアン、精霊族のユーフェリアなどもそうだった。


 そしてその「勇気」は後を継ぐ者に継承されてゆく。


 その代名詞ともいえる存在が、「冒険者ギルド『木の短剣』」であり、そのギルドマスターである、メルリア・ユルハ・ヴィントであるだろう。


(さすがにメルリアの存在は今となっては大きすぎるという感があるけど――。彼女の世界に対する想いは、しっかりと父親のルシアスや、アル、ケイティなどの諸先輩から受け継がれている。彼女がいる以上、冒険者ギルドの精神は変わることはないでしょう――。でも――)


 そのメルリアもすでに1000歳を超えた――。


 外見はその年齢ほどの老いは見せず、今も若々しいままだ。だが、世界初の混血児である彼女が、どういう成長曲線を描いて人生を歩むのかは、エリシアにも予測がつかないところがある。

 竜族の寿命は約1000年、人族に至っては80~100年というところだ。


 これまでの人類最長年齢をすでに大きく超えているメルリアが、この後急激に老化を迎えてもおかしくはないのだ。


 そこに加えて、「この問題」――。

 これは破壊神ゼルダの復活などではない。つまりは、この世界そのものの根幹に大きな「欠陥」があるということだ。


 この『欠陥』をどうにかして修正しなければ、次回の破壊神復活まで待たずに、この世界は自然崩壊してしまうだろう。



(結局今回もカギを握るのは、『世界の柱』なのよね――) 


 エリシアはただ、「それ」をどうにかしてやり遂げる存在として、再びこの世界に「希望の種」を投入したのだ。

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