第9話 ユーヒ、お前いま、幾つなんだ?


「あ、そうだ! パラメータ・ウインドウ――!」


 ユーヒは早速ウインドウを開いてみる。

 昨日は開いてすぐ閉じたのであまりよく確認していなかった。が、見てみると、それ程詳細に記載されているというわけではないことに気が付く。


 パラメータの欄は4つ。筋力・体力・知力・器用さとある。それから、目安となるHPゲージも示されている。あと、なにもない空のゲージが一本。


 ゲージにメモリや数値は付いていないため、あくまでも、現在の最大値のうち何割が残っているか程度しかわからない。


「えっと、たしか、このウインドウの情報は、だったね?」

と、ユーヒが念のためルイジェンに確認する。


「まあ、別にギルドや役人に罰を受けるってことは無いけど、冒険者にとっては自分の情報が出回るっていうのは致命傷だ。堕落冒険者もこの世界には居るからな――」

「堕落冒険者?」


「ああ、冒険者崩れの賊だよ。元冒険者だったから当時の自分のパラメータは知っている。つまり、相手の数値がわかれば、自分より強いか弱いかすぐに判るというわけさ――」

「あ――」


「気づいたようだな? 奴らは自分より弱いとわかった冒険者を襲って、有り金を巻き上げる。場合によっては殺されることもある。だから、冒険者にとってパラメータの口外は禁忌なのさ」


 この世界「クインジェム」は、もともとは「闇の要素エレメント」がない世界だった。その為、基本的に人を殺したり、騙したりすること「自体」を快楽と感じる人は生まれなかった。

 人を殺したり騙したりする人間には、がある。何かしらの目的を達成するために行う手段の一つとしてのみ行うというわけだ。


 だけど、「闇の要素エレメント」が拡散されたことで、そういう人間もどうやら生まれるようになったのだろう。


「なるほど――。例えばそれは、どんなものが記載されているかも言わない方がいいってことかな?」


「そうだな――。ウインドウが見えるのは本人だけだからな。例えば、「私のウインドウにはこういう記述があります」と言ったところで、それを証明することも確認することもできないわけだ。つまり、言うだけ損ってことになる」

「そうか、それを証明できないってことは、嘘を言っていると思われても仕方がないわけだからね」


「まあそういうことだ。だから、基本的には何が書いてあるかは誰にも言わない方がいいってわけさ。それに、ウインドウの表示は人によって違うらしいとも言われているからな」

「人によって違うだって?」


「ああ、基礎パラメータという4つのパラメータは共通だ。だけど、それ以外の情報は個人差があるらしい。因みに基礎パラメータは筋力・体力・知力・器用さの4つだ」


 なるほど――。このシステムがどういう経緯で冒険者ギルドの冒険者にのみ付与されているのかはいまもって謎のままらしい。一説では、エリシア神の気まぐれによるものではないかとさえ言われていると、ルイジェンは言った。


「それで、どうなんだ? 何か変化はあったのか?」


 ルイジェンは、そのウインドウの内容に何かしら変化があったのかと聞いているのだろう。もちろん、今の話の通り、内容の詳細まで聞くつもりはないと思われる。


「そうだね、昨日よりすこし上がってるとおもう――」

「なら、それでいい。それ以上は確認の必要はないからな。つまり、だ。この程度でパラメータや他の部分に何かしら変化が起きるというのなら、それは間違いなく『駆け出し』に違いないということだ。引退した冒険者の話によれば、冒険者として寿命が尽きた場合、パラメータは上がることはなく、徐々に下がっていくと聞いているからな」


「さ、さがるの――!?」

「そりゃあそうだろう? 人ってのは年を取ったら老人になるんだぜ? いつまでも筋力や体力が衰えないってことはないだろうが?」


 なるほど、それは確かにその通りだ。

 このパラメータが現在の自分を表すものである限り、強くなるにしたがってパラメータが増加し、衰えればパラメータは下がるというのは当然の道理だ。


「ところで、いまさらなんだが、ユーヒ、お前いま、幾つなんだ?」

「え?」

「おまえさぁ、俺には年齢聞いといて、自分はまだ何も言ってないだろうがよ?」

「あ、ごめん、そうだったかな?」

「ったく、そうだったかなじゃねぇよ。見た目的には20歳前後かそれ以下って感じだけど――」


 え――?


 僕が20歳前後かそれより若いだって?


「おいおい、そんなことはないだろう? 僕はもうすぐ30だよ?」

「――!! おいおい、お前人族だろ? 冗談はよせ、さすがの俺もそんなウソには引っかからないぜ? 見くびるのもいい加減にしておけよ?」


「え? いや、嘘じゃないけど――」

「ちょっと待て。これを見てもまだ、お前そう言いきれるか?」


 そう言うと、ルイジェンは懐から小さな鏡を取り出し、僕の顔にかざした。その顔を見た僕は、見る見る青ざめてゆく――。

 そこに映っていたのは、明らかに今までの僕の顔ではなかったからだ。


「え、え~~!? なんで? どうして、若返ってる?? これじゃあ、高校生ぐらいじゃないか――!?」

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