第6話 ようやく目的地が定まった
そうか――。「ユフィ」ももうこの世界を去ったのか――。彼女ならもしかしたら生きているかもしれないと思ったけど、ダメだったか。
あと、可能性があるとすれば、竜族の人たちだろうが、どうだろう?
妖精族も長寿の設定だったが、さすがに精霊族以上のものではない。亜人族に至っては、人族とほぼ変わらなかったはずだ。
でも、もしここが僕の書いた世界だったとしても、そこから1000年も経過しているのなら、僕の知識では到底この世界を推し量ることは出来ない。
しかも、「物語」の主軸は聖歴160年代だ。つまり、1200年以上も前のことになる。それだけの時が過ぎていれば、何もかもが変わってしまっていたとしてもおかしくはない。
ユーヒは考えを巡らせる。
だれか、頼れる者はいないか――。
(あ! いるじゃないか! 絶対に死なない存在が――!)
ユーヒはそのことにようやく気が付く。そして、目の前で2杯目のカレーにがっつくルイに向かって叫んだ。
「ルイ! この国に、エリシア大神殿はあるかい!?」
いきなり大声で問われたルイジェンは、危うく、カレーをのどに詰まらせるところだった。
「――!! な、なんだよ急に大声で! エリシア大神殿は、シルヴェリアにしかないよ! レトリアリアには大神殿はないんだ」
「あるんだね!? エリシア大神殿は!」
「ああ、エリシア様はこの世界の創造主だからな。各地に聖堂はあるけど、エリシア様と交信できるのは唯一シルヴェリアの大神殿だけだ――って、もしかして、お前、エリシア様と話そうなんて思ってないだろうな?」
「え? 話せないの?」
「ったりまえだろ! 俺の話聞いてたか? エリシア様はこの世界の創造主だって言ったろ? そんなえらい方と、一般ピーポーのお前が話なんてできるわけないだろうが!」
「――でも、話せる人はいるってことだよね?」
「そりゃあ、大神官様と数名の人は話せるけど――。あ、そういえば、ギルドマスターも話せる人の一人だったか――」
「ギルドマスター?」
「ああ、冒険者ギルド「木の短剣」の第2代ギルドマスター、伝説の人だよ。それでいて、とんでもない美人と来てる。噂ではすでに、1000歳を超えたって――」
「――!! メルリア!! メルリア・ユルハ・ヴィント!! 彼女は健在だったのか!!」
ユーヒは興奮を抑えきれず、椅子から立ち上がってしまった。
さすがに、周囲の人たちの注目が集まる。
「おい! 大声で呼び捨てにするなんて、どうかしてるのか!? とにかく、座れって!」
「あ、ああ、ごめん、つい――」
そう言ってユーヒは椅子に腰を下ろす。
メルリア・ユルハ・ヴィント。
ルシアス・ヴォルト・ヴィントとアリアーデの間に生まれた子供で、アルやケイティの死後、冒険者養成所の所長になった女性。
彼女は、人族のルシアスと、竜族のアリアーデとの間に生まれた異種族間混血児だ。たしかに、基本寿命は竜族より長いと設定した覚えがある。
「ルイ、取り敢えず、これから向かうべき場所がいくつか見つかった」
「え? どういうことだよ?」
「君の話を聞いて、僕も少しだけこの世界のことを『思い出してきた』ってところだよ」
「そうか、それはよかったな? まあ、俺には関係ない話だけど、な?」
「そうでもない――」
「え? どういうことだよ?」
ルイはこの会話中二回目の言葉を繰り返した。
「君に頼みがある。僕と一緒に旅をしてくれないか?」
――――――
「そうですか――。とりあえず、人生において目標を持つことはとても大切なことですからね」
ヘルメさんはそう言ってふわりと微笑んだ。
ルイと食事をとった後、国際魔法庁に戻り、一晩ゆっくりと寝かせてもらった。
昨日のドタバタな一日はあっという間に過ぎ去って、早くもこの世界2日目が始まる。
ユーヒは、食堂で、用意されていた朝食を頂きながら、この魔法庁の長官を務めるヘルメ・ラセリーヌに今後のことを話していた。
ここは、レトリアリア王国のケリアネイアという街。
かつて、アルと共に戦った、ジーク・ニュール(=ジークバルト・キュール)が若き頃を過ごした場所だ。
当時はさびれた農村だったのだが、その後、レトリアリアの王都レトリアーノと港湾都市ニアルタの中継地として、それなりの発展を遂げたようだ。
そもそもレトリアリア王国は東西に長い国土を持っており、西側は、レトリアーノの北に位置する新港湾都市ハーツが開拓され、レトリアーノとの間に走る「南北街道」が設けられたことで、急速に開拓が進んだのだが、東側は山がちで、なかなか思うように開拓が進まなかったらしい。
そこで、ケリアネイアを拡張整備し、ニアルタとの中継点として位置付けた。
これにより、東側も徐々に発展がすすみ、今ではこのケリアネイアはレトリアリアの東の拠点と言われるほどにまで成長しているとのことだ。
「はい。とりあえず、ソード・ウェーブへ向かおうと思っています。つきましては旅費なんですが、どのくらいかかるものでしょうか?」
「そうですね――。ここからだと、西へ向かってハーツから定期船に乗るのが一番早いのでしょうが、乗船だけでも500Gほどかかります――」
「ご、ごひゃくゴールド!!」
これは、いきなりの難題が降って来た。今の手持ちは、昨日の食費で使った残り、100Gほどだ。これでは全く足りない――。
目的地は決まったが、なかなかに大変な旅になりそうだ。
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