第5話 ここは、僕の作った世界?


「はい、これで登録完了です! えーと、ユーヒ・ナメカワさん、これが冒険者見習章と、支度金の120Gゴールドです」


 そう言って受付嬢が革袋一つと、革のタグプレートを渡してくれた。

 タグプレートはなぜだか2枚付いている。 


「ユーヒさんのご出身なんですが、ハーツなのですね? もしかして、ルーツはダイワですか?」

「へ?」


 唐突な質問に、ユーヒは思わず戸惑ってしまう。


「あ、ああ! こいつの父方のルーツはぜ? さあ、もういいだろう? 早速依頼が無いか探してみようぜ?」


 ルイジェンがそう言ってユーヒの腕を引いた。


(ほら! いつまでもそこに居るんじゃねぇよ! いくぞ――!)


と、小声でユーヒに向かってささやくと、さらにぐいと強く引っ張った。


「ユーヒさん! 登録ありがとうございました! これから、冒険者ギルド『木の短剣』の益々の繁栄のためご活躍をお願いしますね!」


 そのユーヒに向けて、受付嬢がそう声を掛けた。


(「木の短剣」――? え? 冒険者ギルドの名前――)


「ちょ、ちょっとまって! ルイ! 冒険者ギルドの名前、「木の短剣」っていうのか!?」 

「なんだよ急に大声出して。そうだよ、冒険者ギルドの名称は昔っから変わってないんだ。「木の短剣」――ウッデン・ショート・ソードの頭文字を取って、「WSS」ともいわれるけどな。そんなことより、早くずらかるぞ? まずは、行くところがあるだろう?」


 まさか! まさか、まさか、まさか――!


 こんな偶然があるのだろうか? いや待てよ? よく思い出してみれば、これまでにも何か聞いたことのあるような名称を耳にしているような――。


 ここは、「あの世界」――なのか?



「――ほら! 早くしろって! 行くぞ、ユーヒ!」


 ルイジェンはそう言ってなおもユーヒの腕を引く。そうだな、今はとりあえず訝しがられる前にここを出た方がよさそうだ。

 二人の様子を不審に思い始めたギルド職員たちがすこし怪訝そうな顔でこちらを見ている。


 ユーヒとルイジェンはそのままもつれ合うような格好で冒険者ギルドの扉から外に出た。



――――――



 ルイジェンがユーヒを引っ張っていった先は料理屋だった。


 二人はテーブルに向かい合って座り、独特な形状をした器に盛られた料理を頂いている。カレーだ。


「ん、は~~~!! やっぱ、これが一番だよな~! この辛さが食欲をそそって、何杯でも食べられそうだ!!」

ルイジェンはさっきからそんなことを連呼しながら、器の料理に夢中になっている。


「なあ、ユーヒ! もう一杯、いいか?」


 あまりに屈託ない笑顔で言うもんだから、ユーヒも思わず微笑み返して、どうぞと返してやった。


「さんきゅー! すいませ~ん! もう一杯同じもの貰えますか~?」


と、即座に店員に声を掛けるルイジェン。


 そうして、空の器を店員に渡すと、ユーヒに向かって声を掛けた。


「んで? 何か思い出したのかよ?」

「え?」

「さっき、冒険者ギルドの名前がどうとか言ってただろ?」


 ルイジェンがやや上目づかいでこちらの様子を伺ってくる。


 どうしようか? さっきからそのことを考えている。

 「国際魔法庁」、「ゲート」、僕の生まれとした「レトリアリアのハーツ」、冒険者ギルド「木の短剣」、「精霊族」、「妖精族」、「人族」などの用語――。


 それに共通するものがある。


 ――『レジェンドオブシルヴェリア』。


 僕の書いたファンタジー小説だ。


 でも、それをここで話したとして、信じてもらえるはずはない。だけど、もしそうなら、確かめなければならないことはたくさんある。



「あのさ、ルイ――。いくつか質問したいことがあるんだけど、いいかな?」

「あ? なんだよ改まって? ちゃんとカレーもご馳走になったんだ、夜伽する以外なら付き合ってやってもいいぜ?」


「ははは、それは僕からも遠慮しておくよ――。まずは、冒険者ギルドの本部がある場所なんだけど、その街の名前はソード・ウェーブって言わないか?」

「ん? ああ、そうだよ、本部があるのはシルヴェリア王国の北の公国領ソード・ウェーブだ。街というか、一つの公国の名前だな」


「そう、なんだ――。あと、さっき受付のお姉さんが言ってた、ルーツの話だけど、ダイワっていうのは国の名前かい?」

「ああ、このケリアネイアから北東の港湾都市ニアルタから北へ海を渡った場所にある国さ。もともとは「ダイワコク政権領」とかいう独自政権があったらしいが、それをもとに「ダイワ」という国家が誕生したって聞いてるぜ?」


「――ダイワコク政権領……。もしかしてそこに、剣ヶ峰けんがみねという大きな山は無いか?」

「剣ヶ峰を知ってるのか? ああ、あの山は今もダイワの管轄になっている。地中深くにはなにやら遺跡が発見されたらしいが、ダイワが完全管理しているから、中には入れないらしいぜ?」


 やはり間違いない――。この世界は「あの世界」だ。


「ところで、今は何年なんだ?」

「たしか、聖歴1386年――だったかな?」


 聖歴1386年――。


 なんてことだ。あの世界の最終話が聖歴386年だった。

 つまり、それから1000年後の世界ってことか――。


「ルイジェン、少し立ち入ったことを聞くけど気を悪くしないでほしいんだ。君って精霊族なのかい? だとしたら今の君の年齢はいくつなんだ?」

「ん? ああ、かまわないぜ? 別に隠すことでもないからな。俺は精霊族と人族の間に新しく生まれた種族のハーフ・エルフ族さ。いわゆる精霊族、エルフはもうこの世には存在しないよ。最後のエルフ、ユーフェリア・リュデイルイーがこの世を去ったのは500年ほど前の話だからな。俺の年齢はちょうど200歳だ」

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