第7話  Side瑠璃

 あれから返信が無いままに月が変わった。

 彼女の誕生月だ。


 もう会わないんだろうか。

 ずきんと重く胸が痛む。


 こんなの、この業界よくあることじゃないか。

 今予約されても、次もとは限らない。

 たまたま彼女とは続いていただけで。

 予約するも連絡するもお客さんが決めること。


 なのに────。


「はぁ……俺の方が沼ってるじゃん」


 俺は腕に抱えたうさぎのぬいぐるみを見下ろして呟いた。

 彼女への、誕生日プレゼント。


 ゲームセンターで欲しがっていたあのぬいぐるみだ。


 クレーンゲームが苦手な俺が、かなりの時間をかけてようやく手に入れたもの。

 ただ舞ちゃんの喜ぶ顔が見たくて、ひたすらゲームを続けた。

 事なかれ主義でマイペースな俺があんなに必死に誰かのために何かをするなんて。


「はぁ…………」

 何度LIMEを送っても既読すらつかない画面に、ため息をひとつ落とす。


 もう一度会いたい。

 ちゃんと伝えたい。

 手を繋がないのは、舞ちゃんが嫌だからとかじゃないって。

 一緒にいると幸せだって。

 いられるだけで舞い上がって、色々頭の中がめちゃくちゃになるって。


 君が──大好きだ、って…………。



「そうだ……!! 確か舞ちゃんにもらった名刺があったはず……!!」

 ゴソゴソと机の引き出しを漁ると、それはすぐに見つかった。


 この嘘にまみれた業界では珍しく本名を名乗って、しかも丁寧に名刺まで渡してくれた彼女。

 今はただその生真面目さに感謝したい。


 そして俺はその桜色の可愛らしい名刺を手に、家を飛び出した。



 ***


 たどり着いたのはあるオフィスビル。

 名刺を貰った時には気づかなかったが、俺の会社の近くだ。


「すみません、こちらに舞さんは──」

「え? えっと、舞とはどういう……」

「お……お付き合いしている者です!! つい最近、ですけど……。突然連絡が途絶えて……」


 俺は何をやっているんだ。

 こんなところまで来て、嘘までついて。

 これじゃまるでストーカーじゃないか。


「すみません……、やっぱり俺──」

「舞、前の彼氏のことがあったから、言えなかったんですね……きっと」

「え──?」


 前の彼……って、この間復縁を迫ってきたあの男か。


「舞は先月の終わり頃倒れてそのまま入院しました……。元々今月が移植手術を受ける予定で……」

「移殖!?」

「前の彼氏は病気と知るや否や別れを切り出したんです。だからきっと言えなかったんだと……」

「っ……」


 馬鹿正直な彼女のことだ。

 それすらも打ち明けるべきかと悩んだことだろう。


 いろんな思いをもって会ってくれていたんだ。

 俺に──偽りだらけの俺に……。


「確か今日です、移殖の日!! 午後からって!! すごく難しいから、命がどうなるかわからないって言ってた……!! 今なら間に合うかも……!!」

「っ……!! 病院の場所、教えてください──!!」


 ストーカーでもいい。

 このまま後悔だけはしたくない……!!



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