ひとりぼっちの流れ星
天島 常理
壱
私は、二人の男が、大家族の家族写真を見ながら、何やら愉快そうな会話を聞いた事がある。
「この写真は晦の、大掃除の忙しい中で撮った写真でね。」「なにしろ、家族全員が揃っているなんてことは滅多にない事だ、まあ、大方私が仕事の関係で家にいないのだけどね。ほらこれ、全員三角巾を着けていたものだから前の髪がめくれ上がってなんともみっともないだろう。」「子供たちだけでも七人いるからね、ものが多くて一日だけでは終わり切らない、片付けの終わっていない狭いところで家族身を寄せ合って寝ることもあったよ。」
背広を着て小綺麗な男はそういった。なるほど、そんな大家族の大黒柱だからこそ、背広を着て、一生懸命働いているのかと私は内心思った。
「だがしかし、皆いい顔をしているじゃないか、余程仲がいいのだろうね。」もう1人の男がそう言う。この男は、まるで背広の男とは身の丈が合わないような、まるで背広の男から金を巻き上げんばかりの風貌をしている。
いやしかし、見かけで人を判断するのは難しいのが、世の不思議な所である。この家族写真も同様である。その証拠に背広の男が汚泥の怪物を見たような顔をして話す。
「あぁ、全くその通り、私たち家族はとても仲がいい、でもね、この一番端っこに写っている子を見てご覧よ。」「この子は、京と言ってね末っ子でね、なんとも不思議な子なのだよ。この如何にも作った様な笑い顔がなんとも頭にくるのだよ。」我が子にそんなことを言えるものかと、私は思いましたがしかし、この背広の男は、至って家族の仲は良好であると、自分の本心は外面には出さず、内心刻々と我が子を恨み罵声を浴びせているのかと思うと、私は家族という、人生でもっとも色濃く、何より幼少の頃から、接してきている血縁関係に恐怖と強い不信感さえ芽生えました。そこで私は気分が悪くなるのを感じ、そそくさと家に帰りました。私の家は、生活には苦労したことはないのですが、あまり贅沢の無い生活を送ってきました。所謂躾に厳しく、子供を甘やかして育ててはいけないという、父親の厳格な性格からなるもので、私たちは、多少の不満は持ちながらも、両親、特に父親の、我々兄妹達に抱いているであろう、期待や、希望を、裏切らないようにと過ごしてきたのです。(まさかのことがありましたが。いえ、これは後々に話したいと思いますが。)
女中に自分の鞄を押し付け、階段を駆け上がり、自分の部屋に篭っていました。私は悶々と、所謂、やがて自分に訪れる、不幸な、そして理不尽な仕打ちに対して、所謂、子供ながらの想像力豊かな、脳味噌の発酵によって、恐怖心が更に、大きなっていくのでした。やがて日が暮れるのを感じていると、下の階から、母が夕飯時に私を呼ぶ声がしました。母は今は、所謂、専業の主婦(とはいえ女中がいるので祖母や友達と出かけることがほとんど)と言うものをやってはいましたが、昔は、とてつもないほどの、国という国を周り尽くした、所謂、世界を旅する、女冒険家のような女性だったらしいのです。私達兄妹は、この頃より少しばかり幼い時に、母に自身の体験談を話すように、迫ったことがあったのですが、父がそれを許さず(理由は分からなかったのですが、子供の教育上、刺激的な話だったからだと思います)。ですが、母はこっそりと、夜中に私の部屋に来て、子供皆を集め、静かな母の講演会が開かれたのです。今思うと、私の他人の子に無い感性は、母の話を聞いた影響からなのかも知れません。所謂、流してすぐの、混凝土に物が落ちると、まだ固まってはいませんので、物の形がついてしまうという事だと思います。私は慌てて起き上がり、足音はバタバタさせずに、急いで下の階にいきました。するとそこには、先程見かけた否、幼少の頃より、私の事を内心小馬鹿にしながらも、多少の面倒を見てくれた、背広の男がいたのです。この男は、私たち、大家族の大黒柱であり、私の父親。私こそが、先程の写真の件で登場した、作り笑顔が頭にくる不思議な子供、京と申します。
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