しあわせの味
有理
しあわせの味ver桃
「しあわせの味」ver桃
山口 桃(やまぐち もも)
桃山 暁人(ももやま あきと)
桃N「ふんわり香る、甘いジャム」
暁人「ももちゃん、おはよう」
桃N「私が選んだ淡いピンクのカーテンがゆらゆら揺れる。」
暁人「また寝たふり?」
桃N「甘い甘いひたすらに甘い、それが私の毎日だ」
暁人(たいとるこーる)「しあわせの味」
______
桃「アキ君。何見てるのー?」
暁人「んー?格闘技?」
桃「そんなの怖いー!ね?変えていい?」
暁人「いいよ。動画だし。何見よっか?」
桃「あ、これは?この間まで上映してたやつ、ラブロマンスでー、」
暁人「いいよ。ももちゃんが好きなの見よ?」
桃「一緒に決めたいのー!」
暁人「じゃあ、俺からのおすすめはコレかな?」
桃「どんなやつ??」
暁人「アクション映画なんだけど、恋愛シーンもあってさ結構泣けるからおすすめ」
桃「じゃあそっちにする!」
暁人「お、ラブロマンスはいいの?」
桃「だって、動きないとアキ君寝ちゃうんだもん」
暁人「ももちゃんの肌がふわふわなのが悪い」
桃「何それ、太ったってこと?」
暁人「違うよ。こう、男とは違うーなんて言うの?柔らかくて甘いいい匂いして」
桃「変態」
暁人「好きでしょ?」
桃「うん、好きー!」
暁人「ほら一緒に見よ」
桃「うん!」
暁人「あ、飲み物だけ淹れてくる。何がいい?いつもの?」
桃「うん!アキ君の淹れてくれるお茶美味しくて大好き」
暁人「隠し味が入ってますから」
桃「そうなの?」
暁人「そう。ちょっと待っててね」
桃N「紅茶の香りに混ざる桃の香り。ピンクの花柄が可愛い白いティーカップ。ティースプーンもお揃いで一度も入れたことはない角砂糖の入った小瓶。どれもこれもがおとぎ話みたいな可愛いでいっぱいだった。」
暁人「ん?考え事?」
桃「アキ君が持つと似合わないね」
暁人「そりゃあね」
桃「私が持つとどう?」
暁人「可愛いよ。ももちゃんはお姫様だもんね」
桃「様になってる?」
暁人「バッチリ」
桃「アキ君顔は中性的なのに似合わないの何でだろう」
暁人「俺はだってお姫様じゃないからさ」
桃「そうだけど…」
暁人「王子様に可愛いは要らないの。」
暁人「ももにぜーんぶ、あげる」
桃「ふ、ぐ、ぎ、」
暁人「な、何?」
桃「痛い!様になりすぎてて胸が痛い!もはや発作だよアキ君!どうしよう白昼夢見てるかもしれない」
暁人「残念ながら夢ではないなあ」
桃「よくそんな甘ったるいこと平気で言えるね」
暁人「ももちゃんが可愛いのが罪なの!俺のせいじゃない!」
桃「ばーか」
暁人「お姫様はそんな乱暴なこと言いません」
桃「はいはい」
暁人「ほら、見よっか」
桃「うん」
暁人N「白い壁いっぱいにプロジェクターで映されるブロンドヘアーの女性。彼女の跨るバイクはハーレーのトライグライド。華奢な体がより映えてチェイスシーンが大好きな映画だ。ふと隣の彼女を見るとつまらなそうに欠伸をしていた。」
桃「…」
暁人「ももちゃん、眠い?」
桃「ううんー。かっこいいねこのバイク。」
暁人「これハーレーのトライグライドウルトラって言ってさ、結構人気あって」
桃「ふーん」
暁人「…」
桃「…」
暁人「ももちゃんは馴染みないか」
桃「バイクはさすがに乗ったことないなー」
暁人「そうだよね」
桃「あ!出会った出会った!この2人でしょ?結ばれるの」
暁人「お、さすが。」
桃「何となく雰囲気で分かっちゃうんだもんねー」
暁人「この後またさっきみたいな銃撃戦が、」
桃「密室に2人、私たちみたいだね」
暁人「うん」
桃「私もこの人みたいにこうやって、アキ君の首に」
暁人「…そういう感じ?」
桃「んー?」
暁人「…」
桃「ほらアキ君も真似して」
暁人「…こう?」
桃「ん、そう。」
暁人N「ベッド上で行われる情事を、俺たちはソファの上で行った。終わる頃には映画もエンドロールを迎えてそのまま当たり前な日常に交わっていく。」
桃「はい!アキ君。これ」
暁人「んー?」
桃「私からのお手紙です!」
暁人「ありがとう。」
桃「帰って読んでね。」
暁人「いつも書いてくれるね。」
桃「うん。私、アキ君大好きだからいっぱい伝えたくて!」
暁人「ありがとう。じゃあ行くね。」
桃「うん!気をつけてね!」
暁人「うん。じゃあ」
桃N「ガチャ、と、閉まる扉。部屋の温度がグンと下がる瞬間だ。」
______
暁人「こんばんは!ももちゃん」
桃「アキ君ーー!いらっしゃい!」
暁人「今回忙しくてさ、なかなか会えなくてごめんね」
桃「ううん!ね、早く上がって上がって!」
暁人「んー?」
桃「じゃーん!」
暁人「うわ、すごい…どうしたの?こんなに料理」
桃「アキ君来週お誕生日でしょ?」
暁人「来週、あ、そっか」
桃「早めのお誕生日会!しよ!」
暁人「ももちゃん…ありがとう!」
桃「主役さんはここに座って!」
暁人「うん」
桃「あ!手洗わなきゃね!洗っておいで!」
暁人「そうだね!お借りしまーす」
桃「はーい!」
暁人「?!」
桃「ふふ」
暁人「な、なにこれ、ももちゃん」
桃「サプライズその2ーー!」
暁人「これ、俺が欲しいって言ってたピアス?」
桃「そう!お誕生日プレゼント!」
暁人「ありがとう!」
桃「つけてつけて!」
暁人「うん。」
桃N「クロムハーツが彼の耳で光る。キラキラしたその瞳を見るのが何よりも好きだった」
暁人「どう?」
桃「似合う!王子様みたい!」
暁人「嬉しい!ももちゃんありがとう」
桃「ううん!ほら、手洗ってご飯食べよ?」
暁人「そうだね」
桃N「鍋の中で待つビーフシチューは最近通い始めた料理教室で習ったばかりのもの。パン屋さんのバケットにガーリックバターを塗ってトースターに入れる。細いグラスに注ぐシャンパン。トマトとチーズのカプレーゼにも摘み立てバジルを。マッシュポテトも冷凍のものなんかじゃない。」
桃N「今日の私は完璧だった。」
暁人「ももちゃん。今日泊まっていっていい?」
桃「もちろん!朝までゆっくりしたい」
暁人「俺しばらく誕生日噛み締めたい」
桃「アキ君のお誕生日なのに私も嬉しいなんて、変だよね」
暁人「ううん、それの方がもっと嬉しい」
桃「ね?アキ君。一生誰かといたいとか考える?」
暁人「一生?」
桃「うん。そういう人今までいた?」
暁人「あんまり気にしたことないかも。」
桃「私はね、お姫様になりたいんだー。」
暁人「今以上に?」
桃「そう。毎朝王子様に起こされて、桃のジャムと焼きたてパンとふわふわのカーテンに甘い紅茶。夢だなあ。」
暁人「そっか。」
桃「アキ君が王子様ならいいのに。」
暁人「そうだね。俺も、ももちゃんの王子様になれたらいいなって思うよ。」
桃「本当?」
暁人「うん。」
桃「嬉しいなあ」
暁人「ねえ、食べていい?全部美味しそう。」
桃「うん!もちろん」
暁人「いただきまーす」
桃「どうぞ!召し上がれ」
桃N「どうぞ。召し上がれ。」
______
桃N「ふんわり香る、甘いジャム」
暁人「ももちゃん、おはよう」
桃N「私が選んだ淡いピンクのカーテンがゆらゆら揺れる。」
暁人「また寝たふり?」
桃N「甘い甘いひたすらに甘い、それが私の毎日だ」
暁人「おはよ」
桃「おはよう。あ、お誕生日おめでとう。」
暁人「昨日も聞いたし、まだ先だよ?」
桃「だってその日会えないんだもん」
暁人「まあ、そうだけど。」
桃「会うたび言うって決めてるの。」
暁人「そうなの?」
桃「うん。たくさんたくさん言えば、私の方に傾くかなーなんて。」
暁人「なにが?」
桃「てんびん」
暁人「んー?何の話?」
桃「何でもなーい!」
暁人「変なももちゃん。」
桃「ふふ」
暁人「昨日のお礼で朝ごはん作ったからおいで?」
桃「…うん」
暁人「どう?」
桃「美味しい!」
暁人「よかった!」
桃「あのさ。アキ君」
暁人「ん?」
桃「昨日、話してたことなんだけどさ。」
暁人「昨日?」
桃「あの、」
暁人「あ、」
桃「ピピピ、と。彼のアラームが鳴る。」
暁人「ごめん、行く時間だ」
桃「ううん。いいの!気をつけてね」
暁人「また今度聞くから」
桃「大したことないから!大丈夫!」
暁人「そう?じゃあ、ゆっくり食べてね。」
桃「これ、また後から読んで?」
暁人「いつもありがとう。あと、コレも」
桃「うん。似合ってる。」
暁人「じゃあ」
桃N「行ってきますも行ってらっしゃいも言えない私達は、鈍色の糸で繋がっている。」
桃N「主導権は私。なのに」
桃「着替えるか…」
______
暁人「こんばんは!みことさん。久しぶり」
暁人「最近めっきり呼んでくれなくなったでしょ。寂しかったよ?」
暁人「はは。そりゃそうだよ。俺にとってはこれが仕事。みことさんの舞台と一緒。」
暁人「えー?昨日貰ってさ。え、コレそんなに高いの?じゃあ外しとく」
暁人「だって、傷でもついたら売れないでしょ?」
暁人「みことさんも良くわかってるはずでしょ。人との縁なんて必ず終わりが来るんだから。」
暁人「だから、いいんじゃん。人間なんて」
______
桃「水口さん。久しぶり。また指名してくれてありがとう。モモコ嬉しいなー!」
桃「んー?最近出勤多いねって?よく知ってるね?まさか他の子指名したりしてない?」
桃「欲しいものがあるのー。でもちょーっと高くてさ。稼がなきゃと思って頑張ってるとこ。」
桃「えー?水口さんってばいつも優しいんだから…ありがとう。じゃあ今日はいっぱいサービスしなきゃね」
桃「ん?欲しいもの何かって?」
桃「お人形さん。」
______
暁人「こんばんは!ももちゃん」
暁人N「山口 桃は俺を指名する常連だ」
桃「アキ君ーー!いらっしゃい!」
桃N「桃山 暁人の本名は瀬尾 充(せお みつる)だ」
暁人「今日はね、お土産があります!前ももちゃんが言ってた駅前のケーキです!」
暁人N「毎回帰る時に渡される手紙にはチップと次会う日の指示が書かれている」
桃「え!覚えててくれたの?嬉しい!ありがとう!」
桃N「私好みのこのお人形を手に入れるまで、あと数ヶ月。」
暁人「一緒に食べよ?」
桃「紅茶淹れるね」
暁人「桃のジャムを一匙ね」
桃「それは隠し味だから、秘密なの」
桃or暁人「しあわせの味ね(だね)」
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