第24話 仮面を脱いだ腹黒ショタ
現在――
そんなこんなで旅立った俺たちは相変わらず森の中にいた。
あの後の話をもう少しだけするなら、森の外れにはアル君の想像通り、帝国兵が数百人ほど居た。
え?
どうやって撒いたのかって?
お察し下さい……
ってんじゃ、さすがに不親切すぎるよね。
俺たちと言うか、俺みたいな戦いの素人が夜とは言えどうやって帝国兵から逃げられたのか……それには理由がある。
帝国兵は浮き足だっていたのだ。
何があったのか?
まあ、それこそお察し下さい……
ってヤツだ。
え、聞きたい?
ホントに?
簡単に言えば俺の隣に居るこの少年はドラゴンボールの世界の住人だった。
とでも言えば良いのか……
……
…………
………………
四日前――
「まあ、ほっといても燃え尽きるかな」
「やばめの魔術資料とかは大丈夫? 万が一とか無い?」
「危険度の高い見られて困るヤツは最初からほとんど紙で残してないから大丈夫だよ。知識はボクの頭の中さ」
「そっか、それなら安心だね」
「仮に燃え残っても紙で残していたのはほとんどが生活向上の魔術研究ばかりだったからね。ただボクの考えた生活魔術の知識が今の帝国に渡るのはそれはそれで癪だけど、あれだけ燃えてたら燃えカスから再構築するなんて不可能だよ」
「敵に渡す物はなし、と」
「そう言うこと――――」
アル君が燃えさかる家を見つめながら聞き慣れない言葉を呟く。
そして、それはほんの一瞬の出来事。
あまりに一瞬。
だってアル君が、その……
所謂ファイナル〇ラッシュみたいなポーズを取ったかと思うとその手が発光したんですよ。
そして――
ええ、所謂どころかまんまファイ〇ルフラッシュでした。
すさまじい轟音と爆風。
だけど、その対象は燃えさかる家では無く何故か遠くの森。
「えっと、今のは?」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる腹黒ショタ。
アルフレッドという少年の恐ろしさを俺は分かっているつもりでいた……
「リョウ、体調が優れないところ悪いけど急いでここを離れるよ」
「え、え?」
呆然とする俺をアル君が手を引き急かす。
「な、何、どうしたの?」
「アールヴ、いやエルフ族の聴覚なら聞こえるはずだよ。耳を澄ましてごらん」
「み、耳?」
そういや、俺エルフだけど、いまいちその特性をエロにしか生かしてなかったな。
えっと耳を澄ます……
そうは言ったところで特にやり方なんて分からないから聞くことに集中するだけ。
だけど次の瞬間――
ゾッとした。
森の奥、地球明かりに照らされて見える山のシルエットの奥から聞こえてくるおぞましき獣達の鳴き声。
「ア、アル君、こ、これって……」
「魔猿の巣穴を破壊しちゃった♪」
テヘ♪
と舌を出して、可愛くウインク。
やん♪ アル君てば可愛い♥
じゃなくてねッ!
お前、絶対確信犯でやっただろ!!
「ほらほら、アイツらが本気になったら、一時間もかからないでここまで来ちゃうよ」
「ふぁっ、そんなに早く!?」
「野生を嘗めちゃイケナイ。距離を稼ぐなら今のうちにしとかないとキミの体調の件もあるしね」
そう言って、俺の腰に優しく手を回すアル君。
アル君優しい。
って、いくら俺が脳内お花畑でもさすがに騙されないぞ!
あんた、帝国兵撒くのにとんでもない獣を端っからぶつける気だったろ!!
「ア、アル君、でも周りに帝国兵が居るなら、まずはどうやってそこから逃げる気なの?」
「それなら大丈夫だよ」
事態はそうとう厄介なはずなのに、アル君はさらりと言ってのける。
――闇夜を纏え、黒鳥の羽よ――
アル君がちょっと厨二臭い呪禁を唱える。
と、同時に俺たちの身体に纏わり付く黒い煙。
「こ、これって?」
「ボクの手を離さないでね。これに完全に包まれたら辺りの暗闇とほぼ同化して見分けが付かなくなるから」
なるほど、地球明かりさえも誤魔化す夜専用の光学迷彩って感じか。
……って、
「え? それって、この魔術があれば魔猿は必要なかったんじゃないの?」
「魔猿? ああ、あの不慮の事故のこと?」
「不慮の事故ですか……」
「どうせ放っておいたらしつこく追いかけてくるのは目に見えてるからね。多少壊滅してくれれば時間稼ぎにもなっていいでしょ」
「多少の壊滅ぅ?」
壊滅してるのに多少って何や?
とかそんなツッコミがどうこうって話じゃ無い。
ヤバい。
こやつ、求める結果のためなら完全に手段を選ばないタイプだ。
俺は井戸の側で気絶してる痴ロンジョを横目に見る。
これがあの女が怯えたアルフレッドという少年の手口なのか。
初めて会った頃の弱々しい感じ。そして、あの過去を悔いて涙を浮かべた姿……
あの繊細そうに見えた少年は、どうやら死にかけの猫を数百匹ぐらいかぶっていたらしい。
俺、今更だけどもしかしたらとんでもない少年を好きになったのかもしれない。
「あ、リョウ」
「え、え? な、何?」
思わず声が裏返る。
見えないけど、暗闇のどこかがニヤリと笑った気がした。
「絶対、離さないからね」
その言葉が今握っているこの手のことじゃないのは俺にもすぐに分かった。
ある意味、問答無用の拘束発言。
だけど俺は……
俺の中のどこかがキュンと締め付けられたのを感じずにはいられなかった。
ホント、ドMですいません。
そして、また現在――
初めてこの世界に来たときに見た眼下の町並みが近付いているのは確か何だけど……
今更だけどもえらく遠い。
見えるくせに歩いても歩いても町に着かないのだ。
アル君が住んでいた場所がいかに高い山の奥深くだったのかそれを改めて再認識させられた。
「しんど……」
思わず口を衝いた呻き。
俺が山歩きに慣れていないのと生理になって思うように身体を動かせないってのも時間がかかっている原因の一つ何だけど、最大の要因は帝国がアル君を説得(?)するためだけに用意した兵隊の数が異常に多かったのだ。
何せ山の中腹辺りの村から、既存の街道という街道の全てが封鎖され遠回りに次ぐ遠回り。
ある意味、逃亡した亡国の王侯貴族を捕まえるような物々しさである。
いや、むしろ凶悪な逃亡犯を捕まえる勢いと言った方が正解か?
何せアル君一人で帝国兵ほとんどを相手に出来るような化け物っぷりだから、兵隊さん達も旅団規模じゃないと怖くて動けなかったと言うのが本音な気がする。
「少し休もうか?」
「良いの? ごめんね」
思わず出た素直な本音に、アル君が優しく笑ってくれた。
「気にしないで、リョウの身体の方が大事なんだから」
にゃふぅ~、たまにこんな優しいことをさらりと言ってくれるんだから、もうもう!!
大好きすぎるぜアル君。
「えへへ~」
「どうしたの、暑さでやられた?」
「や、ちゃいますよ」
「いま、準備するからチョット待ってて」
そう言って地面に広げたマット。
アル君が燃えさかる小屋からサルベージ出来た旅グッズ(魔導具では無い)の一つだ。
「簡素で悪いけど座ってて」
「うん、ありがと」
腰を落とした途端に全身に広がる疲労感。
思いの外自分が限界に近かったことを知る。
「いつもの日課はやれそう?」
座っている俺に温めのお茶を手渡しながら訪ねてくるアル君。
「もちろんオッケーだよ!」
「じゃ、ちょっと休んでいる間、もう少し国とか文化の勉強をしようか。もちろんこっちの世界の言葉でね」
「了解! 優しく教えてね、アル君先生♪」
これがここ最近、と言うかあの家を放棄してからの俺たちの日課になっている。
どう足掻いてもしばらくはこっちの世界に居なきゃならないし、それに、ア、アル君が望んでくれる以上、俺もアル君と一緒に居たいし♥
そうなると、やっぱり恋人としてはご奉仕をいっぱいしたい訳で……
あ、ご奉仕と言ってもえっちぃヤツじゃないからな!
……もちろんえっちぃことはいっぱいするつもりですけど。
ようはアル君を支えるにはご近所様(次に住むのも山の中だったら、ご近所ってどこだ?)との付き合いもあるだろうし、アル君の研究を支えたりとかもあるだろうし……
もちろん俺としても、アル君の隣に居てもアル君が恥ずかしい思いをさせない程度の素養は身につけたいのだ。
「リョウ?」
「ふえ?」
「『ふえ?』じゃなくて、発作みたいに人の頭を嗅ぐのやめてくれる?」
「あ……ごめん! つい……」
「ついって……山歩きしてる上に数日お風呂に入ってないし、さすがに臭いだろうから恥ずかしいんだってば」
「そうは言っても、アルハンブラチウムが不足してるんだもん……」
「人を何かの怪しい元素記号みたいに言うな。町に着いてお風呂に入った後なら良いから今は我慢して」
「ハイハイハイハイ!! 楽しみにしてます!!」
「ブラックバス並みの食いつきの良さだね」
「人を入れ食いチョロインみたいに言わないでよ」
ちなみに今までの会話は例の拘束魔術を解除して、こっちの世界の言葉で会話しております。
ふふふ、俺はこう見えても語学においては天才なのだよ。
……何~て言ってみたいけど、そんなチート能力は持ってませんよこのポンコツエルフボディは。
どうやら一度拘束魔術でバイパスが通ったことで、何となくだけどこっちの世界の言葉が理解できるようになったのが大きいみたいだ。
とは言え全く知らない言葉とかはさすがに分からないので、常にこっちの言葉に触れる必要がある。
それでも一から勉強するよりかはかなり楽をさせて頂いておりますがね。
あ、もう一つ補足するとアル君のことは外ではアル君かアルハンブラと呼ぶようにしております。
そりゃね、こっちの世界じゃアルフレッドって名前は恐怖の代名詞みたいなもんだから仕方無いのですよ。
でも俺の目標は、いつか俺の世界のアルフレッドって意味と同じ意味をこっちの世界にも広げる事だ!!
ちなみにさらにさらにもう一つ補足すると、アルフレッドってのは『良き助言者』って意味で、さらに古英語で書くとそのスペルの中にはELFの文字が……
そう!
エルフって文字があるのだ!
どうよ?
ええ、どうよ、これ!
凄いだろ!
羨ましいだろ!!
もうね、ここまで来ると運命ですよ。
俺とアル君は心と肉体だけでなく、さらには名前まで繋がるレベルの運命的な相手だった訳ですよ。
そりゃ、頭の一つも嗅ぎたくなるのも仕方がないってもんでさ!
え、なんでそんなこと知ってるのかって?
まあ、たまたまwikiで何となく気まぐれで戦列艦を調べていたら、気が付いたら何故かそこに辿り着いていただけなんだけどね。
「……ョウ、リョウ?」
「ふぁ! ふぁい!?」
「またトリップしてたみたいだけど、大丈夫?」
「アル君に重傷みたいです……」
「なるほど、ボクに重傷なんだ。それなら仕方ないね」
さわやかな声音でちょっと意地悪な微笑み。
ヤバい、ときめく。
「出来れば今すぐ押し倒したいんですが、よろしいでしょうか?」
「ダメです」
「アル君のイケズ」
「だから、ボクはキミに欲求に対して自重しろと言ってるでろ」
「あにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!
こめかみを襲うアル君のグリグリ攻撃に思わず悶絶する。
「はぁ……もうすぐここら辺に来る頃だから、悠長にしている時間が無いんだよ」
「俺にとってはいつだってアル君が一番優先なんだけどな……って、え? 何が来るの?」
「だから、何度も言ったでしょ、機関車が来るって」
「うん。それは聞いたけど……でも、ここ線路なんか見当たらないよ?」
何度も言うけどここは見事なまでに森の中だ。
「あ、そうかごめん。向こうの世界の感覚だと不思議に思うよね。もうすぐ来るのは魔導列車なんだ。だから線路は必要ないんだよ」
いまいちピンとこない俺にアル君が愉快そうに笑う。
「ま、もう少し行った先に開けた場所があるから。そこに行ったら分かるよ」
そう言ってアル君は俺にウインクした。
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