第15話 ゴリゴリと音を立て消え去る男力
心臓がアホみたいに高鳴る。
自分からやっといて何だけど、今の俺は腕の中のアル君の顔をまともに見ることが出来ない。
顔が自分でも驚くぐらいにやたら熱く火照っているのがわかる。
う~、うぅ~……
えっと、この後はどうすればいい、ここからの展開は?
勢いに任せてやっちまったが何が正解だ!?
いや何も難しく考える必要なんてない。
ただ普通に優しく、年上らしく毅然と振る舞い包み込めば良いだけなんだ。
で、でで、でもでも、俺の頼れる
ああ、そうだ!!
俺が愛して止まない足フェチティーチャー〇嘘先生の作品なら足だ! 足で、その、お――――を色々とごにょごにょしてあげたら、男は一気にメロメロに……
って、それだとゴリゴリの18禁やん!
ただの痴女やん!!
もっと俺は、その、せっかくなら、ピュアで可愛い感じの恋愛をしたいと言うか、甘くイチャつきたいというか……
どぅえやぁあぁぁ、だから俺は男だっての!
ああぁぁあぁぁぁぁ……だからもう!!
何度目だよ! 何度同じ問答を繰り返してるんだよ!!
男とイチャつきたいとかエロい気持ちじゃなくて、純粋にアル君を励ましたかっただけ!
う~あ~……ああぁぁあぁぁぁっ!!
で、でも、アル君が可愛いのも確かで、どうにかこの子を元気づけたいという気持ちも嘘偽りのない本当で……
でもでも、ほんのちょっとだけえっちぃ気持ちで意地悪したいと思うのもこれまた本音で……
でも、今じゃえっちぃ気持ちのが全力満タンで……
ア、アル君、元男に触られるとか嫌かな?
そんな全力パニックな状態の俺にアル君はトドメを刺してくれた。
「リョウ……」
耳元で囁くみたいに俺の名を呼んで、
ギュッ……
と、俺を抱きしめ返してきやがった!。
ふにゃ~……
あぁあぁぁぁ、もう、もう!
アル君てばッ♪ アル君てばぁ♥
可愛くて中身もイケメンかよ!
ちきしょう最高じゃねぇか!
そんな事されたら、穢れた俺が浄化されてもはやただの乙女な俺しか残らんくなるじゃん!!
「ありがとう。本当にキミは優しいね」
君の気持ちは全て分かっているよ、とでも言いたげに微笑んで……
ポン♪
と俺の頭を撫でてくれた。
……
…………
………………
や、ちゃうねん!!
そうじゃないねん!!
いや、純粋な優しさで抱きしめた気持ちも当然あるけど! あるんだけども!!
そうじゃないねん!!
「俺はアル君とイチャイチャしたいの!!」
おぅふ……思わず言い切っちまったぜ……
でも、まあ……
心の中で叫んだだけだから、まだ……
って、なんでアル君真っ赤になってそっぽ向いてんの?
あれ?
あれれ?
俺、もしかして……
「その、女性にそんな情熱的に言ってもらえるのはすごく光栄と言えば良いのか、何て言えば良いのか……」
ほきゃ~!!
やっちまった、やっちまった、やっちまったよぉぉおぉぉおぉっ!!
それは俺の胸の奥底に秘めに秘めていた思いが、ついに自制を無くして勝手に走り出した瞬間だった。
ああ、穴があったら沈みたい……
穴に入るだけじゃ足りないってばよッ!
なんだったら頭から土をかけて石碑も載せて封印してくれても良い!!
う~、う~!
俺は男だったんだぞ……
って、違う違う!
う~う~、あぁあッ!
もう、油断すると転がり落ちるみたいにアル君に甘えたくなって、抱きしめられた位で(信頼と友愛のハグで愛欲じゃないだろうけど)ときめいて、終いにゃアル君とイチャイチャしたいとか絶叫して。
俺、本当にもうダメだ……
しかもさ、真面目な話をしてたアル君を裏切るみたいなタイミングで欲情して叫んじゃったし。
嫌われた! 絶対アル君に嫌われたよぅ俺のエルフライフも終わりだよ。
ジエンド・オブ・エルフさ、アハハ……
胸からそっと手放したアル君の温もりが、今の出来事のはずなのに恋しくて切ない。
きっと、あの癒やしの香りも、柔らかい髪の感触も、すべすべした肌の感触も二度とは俺に届かないんだ……
ふ……
ああ、良いさ、殺さば殺せ!
あとは死刑宣告を待つだけだ。
アル君に見捨てられた俺は、きっと空腹のまま野っ原を何日も彷徨って魔猿に追っかけ回される毎日を送るんだ。
でも、アル君のシリアスを踏みにじったんだ当然の報いだ。
受け止めてやるさ、絶望の日々を。
そんな毎日なんて心底嫌だけどさ……
俺はぎゅっと目を閉じたままアル君からの死刑宣告を待った。
どれほど時間が過ぎただろうか。
早鐘みたいに震えていた心臓は、泣き疲れたみたいにかすかに震え喘いでいる。
どうせ喘ぐならアル君の上が良かった……じゃなくて!
こんなサキュバスみたいな思考してるからダメなんだろうが!!
さあアル君、早くこの救いがたいド淫乱エロフにトドメの死刑宣告をしてくれ!
俺は覚悟を決めて奥歯で絶望を噛み絞めた。
だけど――
やっぱりアル君はどこまでも優しかった。
ポンポンと俺の背中に触れるアル君の手。
たったそれだけ。
それだけなのに俺の中を温かい何かが満していく。
う~、やだよ~。やっぱりアル君と離れるのやだぁ……
嫌われたくないよ。嫌いにならないでぇ……
この温もりが最後なんて寂しすぎるじゃん。
「ねぇ」
「うぅ…………」
「そんな泣きそうな顔しないで」
「だってぇ……」
「まあキミの性格からして、真面目な話してる最中に、その、そんなことを考えてたのがバレて居たたまれないとかたぶんそんな感じだろうけど」
「うきゃ~!!」
冷静な状況判断での辱めはやめてくれ!
俺が望むのはもっと甘い感じの辱めなんだよ!
って、だからぁ、俺ぇぇぇぇっ! 甘い感じで辱められたいってなんだよ!!
もう、『俺』が本気で末期です……
「そんな顔をしないの。さっきも言ったけどさ、女性から、そのキミからあんな風に言ってもらえて嬉しかったのは本当だから」
「え?」
「まあ、いささか情熱的すぎだとは思うけど、キミと知り合って色々あって、師匠と弟子という関係だけどキミのことは憎からず思っているのは確かなんだから」
「え、え? じゃ、じゃあ、『お前のような不真面目で脳内ピンクな駄エルフは獣の餌じゃ!』とか言わない?」
「一度本気で聞きたいんだが、キミはボクを一体何だと思ってるんだ?」
「じゃあ、シッシッってしない?」
「だから、女性をそんな近づいてきた野良犬みたいな扱いはしないよ。それに言動はともかくキミみたいな可愛い女性から好意を寄せられて嫌に思う男はいないよ」
「ちょと引っかかる言われ方したけど、か、可愛いって、アル君……」
「だからもう、そんな泣きそうな顔しないで」
「アル君……じゃあ、こんな俺だけども受け止めてくれるんだね!」
「えっと、それは……」
「あ、ゴ、ゴメンね……いきなりはしゃぎすぎちゃったよね……」
「だから、そんな情けない顔しないで」
「俺、重たいよね。分かったよ! 重たく思われるの嫌だから、ピルとゴム用意すればいいかな? むしろ俺が責めでも可ですか!」
「なんやて?」
「もう、アル君てば知ってるくせに……この言わせたがり♥」
「舌の根も乾かないうちに調子に乗ってやがる」
「俺が言ってるのは避妊具とかプレイのことに決まってんじゃん♥」
ゴンッ!!
暴走する俺に石のような頭突きがぶちかまされたのであった。
合掌……
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